「何も誕生日に行かなくても……」 「まあ意味合い的には真逆だよな」 「でも、全員で行くのはとても久しぶりじゃない?」 「そうだな……っと、あった」 四人は、変化無しの姿で、木の葉の郊外の森を訪れていた。 そこはナルトたちの家からはほぼ反対方向に位置する方角。 各々何かしらの荷を持って、そこへやってきた。 「ねえ、これ、移さないの?」 「別にこれ自体は後ろめたいものでもないんだし」 「そこは事情があるんだろ。な、ナル」 「まあな」 てきぱきと、準備を進める。 自然に守られていると言っても過言ではないそれの前に、四人で並んだ。 ナルトが最初に、前に出た。 棒状の物に火を灯して添え、手を合わせる。 少しして、後ろにさがった。 同じことを、ヒナタ、シカマル、いのの順に繰り返す。 それから一息ついて、四人は草むらに腰を降ろした。 「ナルは毎年来てるんだっけ?」 「ああ」 「最近は忙しいから、なかなか四人そろって休みが取れないのよね」 「早く情勢が落ち着いて欲しいぜ」 それを中心に、四人は雑談を始める。 「で、何で今日なのよ」 「今年は誕生日、思い出したからな。夏は行けなかったし」 「あー、そういやちょうどその時は長期任務入ってたもんな」 「あれは長かったわね……」 適当に話していると、ナルトの傍でチャクラが揺らめいた。 それが何かは分かっていたから、ナルトたちも特に慌てることなくその変化を見守る。 「ナル、私もやって構わないか」 「もちろん」 現れたのは九奈で、申し出た九奈のために、ナルトたちは場所を開けた。 九奈は小さく礼を言って、ナルトたちと同じように。それの前に立つ。 「久しぶりよのお。あれから随分と時間が経った」 「九奈からしたら大した時間じゃないでしょうに」 九奈の言葉に、いのが呆れたように呟く。 九奈は首を振った。 「あの時は、ナルは小さい小さい赤子だったろう。 それが今や、里を守る担い手となっておる。その時間は、決して短いものではなかったぞ」 「あ、ちょっと気になる」 そう言ったのはヒナタで、小さい頃のナルトを想像して小さく笑っていた。 九奈の言葉を、シカマルが補足する。 「九奈が今まで長い時間をそう感じなかったのは、 変化するものが傍になかったからなのかもな」 人間は、成長し、変化する。 力そのものの化身として長い時間を生きてきた九奈からすれば、 それは一瞬のことでしかない。 だが、だからこそ、過ぎてきた時間の重みを、九奈は感じていた。 「あれから十三年、か」 ナルトも呟く。 「あなたが死んでから、もうそれだけ経ったんだ、父さん」 墓石は、何も応えない。 九奈がその墓石を撫でた。 「このようなところで寂しかろう。妻と共に葬られていることが、救いなのだろうか」 九奈の言葉に、ヒナタがあ、と声をあげた。 「そうそう。何で四代目火影とその奥さんの墓が、森の奥にあるの? 火影だったんだから、もっと手厚く葬られていてもおかしくないと思うんだけど」 いのもそれに頷く。 それは先ほども出た疑問であった。 その問いに、ナルトが答える。 「母さんは、身ごもっていた子ごと、亡くなったことになっているんだ。 もし万が一誰かが暴くようなことがあって、子の死体を見つけられなかったとしたら……」 シカマルがなるほどと頷く。 「子が生きている可能性がある。 とすれば、四代目と容姿が似ているお前が怪しまれる可能性があったってことだな。 お前の素性を隠したい上層部からすれば、そんなことあっちゃ困るもんな」 その補足で、ヒナタといのも頷いた。 続いていのはヒナタは呟くように言う。 「まあ確かに容姿は似てるのに、どうして里の人は気付かないのかしら」 「それだけのことだったんだろ」 十三年前の事件が。 ナルトはシカマルの言葉に苦笑した。 「さて、九奈。まだ用はあるか?」 「いや、もういい。お前達もこの後用があるだろうて。 いつまでも私のために時間を割いてもおれまい。またの」 言うや否や、九奈の姿が揺らぎ、現れた時と同じように消えていった。 ナルトたちも墓参りの跡を片付ける。 すっかり片付けて、ナルトたちは帰ることにした。 これから、今日のメインイベントである、ナルトの誕生日会が待っているのだ。 それも今年は下忍たちも開催することになっている。 つまり、暗部のものを入れて二回だ。 「さて、今日は忙しいわね」 「明日に支障が出ないようにしないとな」 「火影様も、どうせなら今日だけじゃなく明日も休みにしてくれればいいのに」 「いや、今日休みにしてもらえるだけでもありがたく思っておかないと」 ナルトは、ふと、足を止めて振り返る。 二つ並んだ小さな墓を見て、微笑んだ。 それから小さく小さく呟く。 「ナル?」 「今行くよ」 ヒナタに呼ばれて、ナルトは小走りに追いかけた。 風が添えられた花を揺らす。 ナルトが呟いた言葉は、散った。 “この幸せな生を授けてくれた貴方達に、感謝を”