作兵衛は、目端が広い。

何しろうちの一年生達は、

ちょこまかちょこまかと興味の引かれた方へ行っちまうことが多いんだ。

だが、そのたびに作兵衛が一言怒りながら連れ戻しに行く。

どれだけ作業に集中していても、それは怠らない。

あれはもう一種の才能なんじゃないかと思う。

常にいつも、周りを見ている。

それはもしかしたら、同組の方向音痴二人を見ているうちに、

自然に身についたものなのかもしれないが。

それから、手先が器用だ。

これはもちろん用具委員でも役立つし、忍者としても役に立つことだろう。

やれることが多いと、潜入や芸の幅が広がって、作戦を立てやすくなる。

作兵衛は策を練ったり、情報収集をするのも得意だから、

単独での潜入任務にも向いているんじゃないだろうか。

それは、作兵衛が勘が利くことからも分かる。

第六感とはちょっと違うと思うんだが、本当に、ふとした時に、何かを感じ取る。

それは些細なことだったり、命に関わる危険だったりもする。

その勘は、窮地の時に作兵衛を救ってくれるだろう。

武器は、刀や槍などの直接的なものよりも、

鎖鎌などの少しばかりクセのあるものを好むらしい。

しかしそれも、作兵衛なら上手く使いこなせるだろう。


しんべヱは、力持ちだ。

六年生でも少々重いものを、難なく運んでいる。

体が小さいから、抱えられるものの限度はあるものの、あの怪力には本当に驚いた。

しかしそれも、あと何年かして体が成長したのなら、解消されるだろう。

一年生であれだ。

六年生になったら、どれだけの重さの物を運べるようになるのだろうか。

それから、生来なのか環境のものか、

はたまた両方のものなのかは分からないが、人を和ませる空気を持っている。

それは裏返せば、人を油断させられるということだ。

相手に自分を信じさせることほど、諜報において大事なことは無い。

根が優しい子だから、もしかしたら人を騙すことに罪悪感を感じるかもしれない。

だが、もししんべヱが「忍」になれたのなら、大化けするんじゃないかと思う。

戦い方は、まだ確固たるものはない。

まあ、一年生だからまだ当たり前かもしれないが。

だが、これは一年は組全体にいえることだと思うが、

自分の力を生かせる場所をよく知っている。

そして、自分が至らないところは仲間に頼ることが出来る。

これは大きいと思う。

自分自身の長所短所をよく知るというのは、なかなかどうして難しいのだ。

そして、仲間を信頼するというのも、大事なことだ。

誰か一人きりで完遂できる任務など、結局のところそうそうないのだ。

しんべヱはおそらく、誰か、自分と欠点を補い合う者と組むことで、

その真価を発揮できるのではないだろうか。


喜三太は、実は薬学に少し詳しい。

前にいた風魔の学校で、習っていたらしい。

そう長くいたわけではないのに、それでも見に着けているということは、

薬学、そして毒に関する才能があるんだと思う。

忍術学園では、一年生のうちはそういう類については詳しくやらないが、

学び始めれば、ひとたび強力な武器となるだろう。

それから喜三太はナメクジが大好きだ。

何やら芸を仕込んでいるらしいし、

そのうち本当に忍ナメとして活躍できるかもしれない。

それから、その姿勢が他の生き物にも広がったなら、

獣遁・虫遁の使い手になれる可能性もある。

特に、虫遁を扱うなら、必ず毒を扱う必要性も出てくる。

薬学と毒にも才があるとなれば、それこそ鬼に金棒じゃないか。

意のままに毒を扱うことが出来るだろう。

戦い方には、やはりまだ決まった形はない。

見たところ、あまり機敏ではないものの、判断力はあると思う。

だが、動きについてはこの後の鍛錬でいくらでも改善のしようがある。

それに、一年は組の、自分の力を良く知る特徴もある。

どういう攻撃方法をとるかは、喜三太の自由だが、その形を決めたのなら、

もしかしたら最前線で戦うということもありえるかもしれない。


平太は、気配を消すことにとても長けている。

それはもしかしたら、一年ろ組の特長とも言えるかもしれない。

何しろ先生が、先生だ。

まあそれはともかくとして。

気配を消せることは、諜報でも戦いでも役に立つだろう。

屋根裏でも縁の下でも潜り込んで情報を集めるのもよし。

人通りの多いところで、だが目立つこともなく情報を集めてもよし。

また、気配を相手に読ませないというのは、戦いを有利にする。

向こうが、こちらの動きを先読みしにくいからだ。

敵の背後から奇襲をかけることができれば、

力量差があっても叩き伏せることができるだろう。

そういう意味では、暗殺にも向いているかもしれない。

すばやく敵の懐にもぐりこむという点では、戦闘も暗殺も変わらない。

あと、一年生の中では手先が器用だ。

器用というと少し語弊があるだろうか。

要領がいいというのが一番近いかもしれない。

効率よく目的を果たすためにはどうすればいいのかを、よく知っている。

忍にはとても大事な柔軟性だ。


ああ、全く本当に。

俺の後輩達は将来が楽しみな子たちばかりで。

その成長を、過程を見届けられないのがとても口惜しい。

見守ってやれないのが、とても悔しい。

俺は、あと一年もしないうちに、ここを発たねばならない。

それまでの間に、できるだけ。

俺がこの子達に出来る限りのことをしてやろう。

みんなより少しだけ、長く生きた先輩として。

俺が教えてやれることを、やれるだけ。

そうしてこの子達もまた、育っていくのだろう。

俺がそうだったように。

そして、この子達も、いずれ。

俺がいる場所へ。

この場所へ。

いずれ。

……ああ、願わくば。


この子達の未来に、少しでも幸が多からんことを。


夢見がちなリアリスト
(分かっていても祈らずにはいられないのだ)