「遠足に行こう!」

日が高くなり始める頃、団蔵は管に向かって叫んだ。

しばし間が空いてから、管から返事が返ってくる。

「何でまた、突然?」

「どこに?」

「全員で?」

返事というよりは、全部疑問だ。

団蔵はそれに答える。

「前に町で遠足にいい場所を聞いたんだ。毎日毎日ここにこもってるのもあれだろ?

気分晴らしに、みんなで行こう!」

「ここ、空けるの?」

「大丈夫なの?」

「庄ちゃん、どう思う?」

伊助は庄左ヱ門と同じ部屋にいるらしい。

うーん、と唸る声がしてから。

「まあ、ばらばらに行くよりは、固まっている方がいいとは思うよ。

お金だけ持ち出しておけば……まあ万が一ここに何かあっても、被害は少なくてすむ」

なんだか出かける方向に話が進んでいるらしいことを聞き、兵太夫が少し息を漏らした。

「外、出るのか」

「兵太夫なんか全然外に出ないだろ。たまには日に当たれ!」

「それって日光浴って言うんじゃない?」

乱太郎は突っ込みを入れつつ、もう一度庄左ヱ門にどうする、と尋ねた。

庄左ヱ門は逆に聞き返した。

「みんなはどうしたい?」

すると、また少し間が空いてから。

「行きたい!」

「たまにはいいんじゃない?」

「考えてみりゃ、全員で出かけるって、ここんとこ、とんとしてないからな」

「ねえ、団蔵、そこ遠いの?お弁当いる?」

「鍛錬の息抜きには、なりそうだよなー」

ばらばらと反応が聞こえてきた。

それを聞き、庄左ヱ門がまとめた。

「概ね賛成みたいだね。じゃ、行こうか」

「よっしゃ!」

団蔵がガッツポーズする。

庄左ヱ門が場所を団蔵に聞いて、団蔵はなるべく正確に答えた。

がさがさと音がする。

どうやら地図を広げているらしい。

「まあ、日帰りで行ける距離だね。でもお弁当は要りそうだ。伊助、しんべヱ、よろしく」

「はーい」

「分かった」

とたとたと走る音がした。

台所に向かうのだろう。

「一応、警戒態勢にしておこう。兵太夫、三治郎、からくりのチェック。

喜三太、動物達に、入ってきたものは追い返すように指示」

「仕方ないなー分かったよ」

「うん、了解」

「はーい」

また、返事と、走っていく音がした。

「きり丸はお金を持ち出して。額も確認してね」

「任せとけ。俺は一文たりとも見逃さないぜ」

キラン、ときり丸の目が銭になったような気がして、庄左ヱ門は苦笑した。

「金吾は、みんなの武器を整備して、まとめて。乱太郎は携帯用の薬の準備」

「了解」

「分かったー」

「団蔵と虎若は、作戦会議室まで来て。ルートの確認をしよう」

「もう向かってる」

「早っ!俺も今行く!」

走る音と、それから各部屋で準備の音が聞こえてきた。

全員に指示を出し終わった庄左ヱ門は、一度空を見て。

「じゃ、一時間後に、正門に集合。それまで各自、準備!」

元気な返事が返ってきた。


「うわあ、いい天気!」

「お散歩日和だねえ」

「遠足だろ?」

「意味合い的には変わんないじゃない?」

わらわらと、十一人の子供達は適当に散りながら歩いていた。

空は快晴と言ってもいい天気で、風も気持ちいい程度に吹いている。

出歩くには絶好の日和だった。

「くぁ〜材料調達以外で出歩くのって、どれだけぶりかな」

「兵ちゃんももうちょっと外に出ようよ」

兵太夫が歩きながら伸びをし、隣で三治郎が苦笑した。

「そういう三は外に出てんのか?」

「三は時々私と走りこみしてるもの。少なくとも兵よりは出てるよ」

二人の前を歩いていたきり丸が、ふと思ったとでも言うように振り返り、尋ねる。

その左隣の乱太郎が、救急セットを抱えながら笑った。

「足の速さでは、乱と三には、未だに勝てないんだよな。何でなんだ」

「こればっかりは天性の素質じゃないか?」

先頭を歩く団蔵が悔しそうにいい、虎若が予測を告げた。

その後ろを歩いていた庄左エ門が、補足を入れる。

「むしろ鍛えてるからじゃない?

多分、団蔵の鍛錬は、脚力重視で、速く走るのに向いた鍛錬じゃないんだよ」

「うーん、脚力がなくてもいいなら、僕ももう少し速くなりたいなあ」

伊助が羨ましそうに言う。

「ぼくたちも体鍛えた方がいいのかなあ」

「足は速くなりたいよねえ」

喜三太としんべヱがのんびりと言うと、金吾がそれを否定した。

「いや、二人はやらなくていいよ。嫌な予感がする……」

冷や汗さえ流していそうな金吾を、団蔵が笑った。

「あはは、ナメクジと鼻水であふれそうだもんな」

伊助がげんなり言う。

「その場合掃除するのはぼくか……?」

庄左ヱ門が冷静に指摘した。

「いや、でも体力はつけた方がいいんじゃないかな」

兵太夫がからかい混じりに言った。

「そしたら行動範囲が広がって、手に負えなくなるぞ」

三治郎も付け加える。

「気がついたら山の向こう、とかね」

喜三太が不満そうに言った。

「え〜そんなことないよ〜」

金吾がやや切羽詰った顔で。

「どっちが?ナメクジ?山の向こう?」

虎若が指を立てて言う。

「いや、その前に脚力つけるために筋トレじゃないか。

それに筋トレならどっかには行かない……」

今度はきり丸が口を挟んだ。

「しんべヱも、食べ物で釣れば筋トレ出来るんじゃねえの」

しんべヱが目を輝かせる。

「食べ物!?」

乱太郎が突っ込んだ。

「しんべヱ反応するとこおかしい!あれ、いや、正しいのかな?」

それからどっと笑いが起きる。

と、先頭を歩いていた団蔵が駆け出した。

「おーっし、んじゃ、鍛錬がてら、遠足予定地まで走ろうぜ!」

それに驚いたのは兵太夫と喜三太で。

「え〜たるい」

「ほんとに走るの?」

呆れたのが虎若と金吾で。

「また唐突だなあ」

「いくら天気いいからって……」

冷静だったのが庄左ヱ門ときり丸で。

「距離的に、不可能ではないと思うけどね」

「しんべヱと喜三太にはいきなりつらいんじゃねえの?」

意気込んだのが三治郎と乱太郎で。

「ねえ、乱太郎、また競争しようよ」

「ようし、受けて立つよ!」

荷物の心配をしたのがしんべヱと伊助で。

「おにぎり、崩れないかな」

「海苔で固定はしてるけど」

各々の反応をする中、団蔵は満面の笑みで微笑んだ。

「行っくぞ!」

「ちょ、待て団蔵!まだ全員了承してないぞ!」

「わわわ」

「よーし、行こう!」

「負けないからね!」

「こっちこそ!」

「ぼくらはのんびり行こう。ご飯を大事に」

「……そうしようか」

「最後尾に誰かいた方がいいしな」

「みんな、逸れないでよー」

「庄ちゃんたら、相変わらず冷静だね」

街道の上を、ばらばらと子供達が走っていく。

天気は快晴、風は微風。


それはある日の物語。


よく晴れた日に
(みんなでおでかけ)