一話 ダン、と勢いよく机が叩かれた。 「火影様、何のつもりですか?」 「本当に煌様をうちはサスケの護衛につけるというのですか?」 「この忙しい時期に?」 凛、玲、慧が執務室で火影に詰めよる。 煌はその三人の後ろでため息をついていた。 「まあ待て、三人とも。これには訳が」 宥めようとする三代目を遮って、三人が続ける。 「問答は無用です」 「今すぐ取り下げてください」 「何なら私達が代わってもいいです」 困った三代目は、どうにかしろという視線を煌に向ける。 「やめろ、凛、玲、慧」 その言葉に、三人はぴたっと追及をやめる。 それによって三代目はようやく口を開くことが出来た。 「お前達の気持ちも分かるが、これは譲れないのじゃ」 ごほん、と一つ咳払いしてから三代目は続ける。 「今は新人下忍が忍者の末端として加わる時期。 当然護衛の緩くなる名家旧家の末裔を狙う輩も多くなる。 特にうちは一族はあのことがあってイタチとサスケしか残っておらんからの」 数年前にあった、うちは一族壊滅事件。 その真実を知っているのは里の中でもほんの一部。 「イタチの心配はさしてしておらぬが、サスケは当然護衛をつける必要がある。 それも、絶対に失敗のない人材をじゃ」 「それなら煌様でなくても……」 凛が口を挟もうとして、煌に制される。 「“表”の性格として、俺が一番適していると判断されたんだ。 あいつはもともとそれなりに資質があるから、努力すればそこそこの忍になる。 その努力を促すのに、俺によって対抗心をかきたてさせるのがいいということになった」 「……確かに、それでは私達の“表”の性格では無理でしょうけど……」 頭では納得しているが、心が納得していない。 複雑な心境の玲は、大きくため息をついた。 「赤露のこともある。なるべくなら心配はかけさせたくないからな」 「煌様が護衛についたらついたで、申し訳ない気持ちになると思いますが」 ぼそ、と慧が呟く。 三代目はそれを黙殺した。 「とにかく、うちはサスケの護衛には煌以外は考えられぬ。忍は私より公を生かす者。納得せよ」 まだ納得いかないのか、三人は多少険しい目を三代目に向ける。 煌が苦笑するように息を吐き出し、礼をする。 「“用件”自体はこれで以上でしょう。辞させていただきます」 「うむ」 三代目が頷いたのを確認して、煌は三人に声をかける。 次の瞬間には、四人とも執務室から姿を消していた。 「全く、喜べばいいのか悲しめばいいのかも悩みものじゃな……」 ふ、と煙を一吐きした。 「ねえナル、気が変わったりはしないの?」 「しないな」 各自で持ち物整理をしている中、ヒナタがナルトに話しかけた。 「ナルには絶対不釣合いな任務よ」 「実力的にはそうかもしれないが、立場的にはそうでもない。 アカデミーでも護衛対象にはかかっていたし、人数が減ったからむしろ楽だ」 「でも……」 それでも食い下がろうとするヒナタに、ナルトは苦笑して手をのばす。 笑って、その頭を撫でた。 「俺達は忍、それも里の頂点にいるような立場だ。命令は絶対。 里のためにやれることがあるならば、やらなければならない。心配してくれてありがとう」 撫でられたこと自体は嬉しくても、ヒナタはまだ納得が出来ない。 ぐずっていると、準備を終えたらしいシカマルといのが顔を出した。 「なんだ、まだぐずってんのか、ヒナ」 「いのたちはいいの?ナルがあんな任務について」 ヒナタの言葉に、二人は顔を見合わせた後、肩をすくめた。 「任務、だしねー」 「ナルは一度決めたら聞かないしな」 納得はしていないが、どうやら諦めたらしい。 大分の間を空けた後、ヒナタは盛大にため息をついた。 「自分を不甲斐なく思うわ……」 「そんなことはない。お前も護衛対象が二人いるだろう?頑張れよ」 「そうよねー。ヒナのところは担当上忍も新米。二重の意味で大変じゃない」 ナルトが配属されるのは第七班。内、うちはサスケが護衛対象、 春野サクラは班の力のバランスを取るための普通の下忍、 そして担当上忍のはたけカカシは表向き元暗部のエリートだが、 実は現役暗部、煌、つまりナルトの部下の一人である。 暗部には幾つかの部門があって、ナルトたちはそれぞれのトップ。 そして四人は同時に暗部の前線部隊第零班に所属している。 その第零班直属の部隊として零班分隊というものが存在し、カカシはそれに所属している。 「俺達の担当上忍はアスマだもんな」 シカマル、いのは同班に配属され、うち残りの下忍、秋道チョウジは二人の幼馴染である。 いのはチョウジに力を隠していることを心苦しく思っているが、 シカマルはチョウジは実は何となく気づいていてあえて言わないでいるのではと思っている。 ナルトたち以上に、チョウジとの付き合いは長い。 案外聡い幼馴染が、全く何も感じ取っていないとは思えなかった。 そして、担当上忍の猿飛アスマは、カカシと同じく零班分隊所属。 親達の繋がりもあって、シカマルたちにとっては昔からとうに顔なじみであった。 そして、ヒナタの配属される第八班には、普通の下忍である犬塚キバと油女シノ。 それから担当上忍の夕日紅だ。 ヒナタの班にだけ、暗部に関わり合いになっているものが全くいない。 「まあ頑張れヒナ。木の葉の裏事情やら親事情やら力配分やら色々計算した結果の組み合わせなんだ」 ぽん、とシカマルが同じようにヒナタの肩を叩く。 それに、ヒナタは若干、む、とした表情を見せた。 「やるわよ。任務、だもんね」 少々口を膨らませながらそっぽを向く。 同じく諦めたらしい。 ナルトはそのやりとりを見て苦笑し、整理の終わった道具をしまった。 「さて、寝るぞ。明日からは当分二足のわらじだ。みんな、気を抜くなよ」 「「「はい」」」 三人の声が重なる。 「おやすみ」 「おやすみなさーい」 いのとシカマルが手を振りながら出て行く。 ナルトとヒナタも手を振りながら返した。 「お休み」 「お休みなさい」 パタン、と扉は閉じられた。