三話 「えええええ!?本当なの、それ!?」 「本当だ。済まない」 夕方、ナルトたちの家で、叫び声が響き渡った。 下忍の任務を終えたあと、三代目に内密に呼び出されたナルト。 その内容は、波の国への遠征任務だった。 明日、下忍任務が終わった後、それとなくランクの高い任務を望み、下忍たちと共に霧の国へ。 行った先で、ある組織を壊滅してきてほしいという内容だった。 「何でナルが!?」 「居場所をつかむのに数日かかるだろうということと、サスケの成長を図ること、 それから表の性格的に俺が一番自然に行かせやすいから、ということだそうだ」 それらを頭で理解した後、ヒナタは続けて詰め寄った。 「何日!?」 それにナルトは少し考えを巡らせると、ヒナタを落ち着けるように続ける。 「少なくとも、下忍の足で向かうんだから往復だけでも五日はかかるだろうな。 それに、何が起こるかは分からないから、上限は不明だ」 もちろんヒナタがそれで落ち着くはずはなく、少ししてナルトに背を向けて。 「火影様に抗議してくるわ」 その背には少々黒いものが漂っている。 ナルトは慌ててヒナタを引き止めた。 「待て。任務なんだからしょうがないだろう」 「五日以上ナルに会えないなんて耐えられない!」 「そこを何とか。印話は出来るんだし」 組み立てた理論上、印話に距離の制限はない。 一度繋いでしまえば、相手のチャクラまで自分のチャクラを繋げることができる。 それでもヒナタは鎮まらない。 「印話での声と会って聞く声とじゃ段違いよ!止めないで、ナル!」 「いや、止めるから」 自分のこととなると暴走しがちな彼らを止めるのは自分しかいない。 ナルトはそれを分かっているから、何とかしようと考えをめぐらせる。 「俺だって何日もお前達に会えないのは精神的にかなりつらい。 だが、俺たちは忍、それも里のトップクラスだ。 里のための任務は、何があってもこなさなくてはならない」 後ろからヒナタを抱きしめる。 ヒナタが若干顔を赤くして、それでももごもごと呟いた。 「でも……」 「分かってくれ、ヒナ」 体をむかせて真正面からヒナタを見つめる。 ヒナタはゆっくりと、でも不本意そうに、小さく頷いた。 「ありがとう、ヒナ」 ナルトはもう一度ヒナタを抱きしめる。 その体勢のまま、ヒナタは一つ約束を取り付けた。 「絶対、毎日印話するからね」 「ああ」 ヒナタを説得できたことに、ナルトは安心した。 だがこの数十分後に、いのとシカマルの説得に数十分を費やすことになる。 次の日、波の国に行くことが決まった頃、ナルトはげんなりしていた。 『煌様、これって事前に決定済みですか!?』 いきなり知らされたカカシは慌てて尋ねる。 ナルトはげんなりした声のまま応えた。 『ああ』 『煌様が里外に単独で遠征に行くこと、よくあの三人が許しましたね』 あの三人の、煌、ナルトへの依存はカカシも良く知っている。 何しろ自分も依存している人間の一人なのだ。 『ああ、説得が大変だった。まさか三代目にその役をやらせるわけにも行かないしな。 夜の任務に行くまで、ずっと説得し通しだった』 『お疲れ様です』 カカシは苦笑してねぎらう。 ナルトもそれにこっそり苦笑で返した。 もちろんその表面では。 「出発ーーっ!!」 いつものように、“落ちこぼれのうずまきナルト”を演じていた。 (本当に器用な方だ……) カカシは、心中でこっそり見とれていた。 雑談をしながら波の国に向かう四人プラス依頼人の計五人。 道端にあった水溜りを見て、カカシはナルトを見た。 『とりあえず放っておいていい。サスケの力がどの程度他国に通用するかの目算になる』 『はい』 指示を受けたカカシは、注意を払いながらも足を進めた。 襲い掛かってきた刺客は二人。 ナルトは見覚えのあったその二人を知識の中から引き出す。 (霧の抜け忍……鬼兄弟、だったか) ビビッて動けない振りをしながら動きを観察する。 (サスケはなかなかやるな。 こいつらが手配当時よりも若干鈍っている気があるのを差し引いても……中忍程度の実力は既にあるか。 サクラはまだだめだな。完璧に固まっている。実戦経験を積む必要があるか) ナルトは姿を隠しているカカシに向かって小さく頷く。 もういいという合図だ。 カカシから了解の合図が帰って来て、敵の一人はカカシが捕まえていた。 任務を続けるためと、サクラに忍の覚悟はどういうものかを見せるためのパフォーマンスをした後、 ナルトたちは歩き続けた。 その途中、タズナから状況についての詳しい説明を聞く。 彼は任務内容を偽っていて、護衛任務には他国の忍が関わっていた。 本来ならこれは、依頼違反で、破棄することもできる。 『どうします、煌様』 『……続けるぞ』 『なぜ!?』 返ってきた返事にカカシは思わず疑問を返す。 他国の忍者がいるとなると、サクラとサスケには少々身が重いだろう。 『任務のこともあるが……もしかしたら、サクラとサスケのいい踏み台になるかもしれない』 『煌様……』 そんな理由だけで、理不尽な任務を続行するわけはない。 煌のことは、それなりに知っている。 だからこそカカシは、先を促した。 ナルトはそれに応え、先を続ける。 『それにな』 カカシはナルトの言葉に集中した。 そして、次に聞こえた言葉にカカシはただ敬愛を示すことしかできなかった。 なぜなら、その言葉は。 『俺は、この力を、何かに苦しんでいる誰かを救うために使うと、誓ったんだ』 あまりにも、悲しく、優しすぎた。