五話


カカシは、喉に千本が突き刺さり、動かなくなった再不斬の脈を確認する。

確かに脈は止まっていた。

少年は霧隠れの追い忍だと名乗った。

『煌様……本物ですかね?』

『……』

ナルトはカカシの問いには答えず、表を演じ続けていた。

多少の会話をしてから、少年は再不斬を抱えあげる。

『煌様!』

『……行かせとけ』

ナルトがそう告げた瞬間、少年は姿を消す。

(いいのだろうか……いや、煌様のことだ、何か考えがあるに違いない)

小さく首を振って、カカシは再び写輪眼を額宛ての下に隠す。

そして歩き出そうとした瞬間、倒れた。

『お前ももう限界だろうし、な』

「カカシ先生ーーっっ!!」

カカシには、ナルトの慌てる声が二重に被って聞こえた。


カカシはタズナに抱えあげてもらい、ナルトたちはタズナの家に向かう。

そしてタズナの娘のツナミに床の準備をしてもらった。

カカシはサクラの質問に答え、追い忍について説明している。

『とりあえず、今は休んでおけ』

『申し訳ありませんっ!!』

当然のように、印話では表と全く違う会話をしていた。

(煌様の言うとおり、とにかく休んでおくか……)

カカシは休むと周りに伝え、目を閉じた。


(さて、どうするか……)

カカシが休んでいる部屋でくつろぎながら、ナルトはこれからの策を練っていた。

任務と“自分の興味”を天秤にかけて、何をするべきか。

当分は準備期間で目だった動きは出来ない。

根回し下回しの計画を考えていると、突然カカシが起き上がった。

「どうしたんだってばよ、先生!」

素でナルトが問いかけると、カカシは若干顔色を悪くして説明を始める。

本来その場で殺した方がいい死体を、持って帰った追い忍。

それから考えられることは、あの少年は再不斬を仮死状態にしただけだということ。

当然、サクラとサスケとタズナは驚いた。

表面上は、ナルトも。

『煌様、知っていたのでしょう!?どうして逃がしたんですか!?』

『色々興味があってな。……お前、気づいてなかったのか』

その言葉にカカシは軽く肩をびくつかせる。

『鈍ってるな』

カカシは体を動かそうとして、動かないのを思い出す。

その代わり、精一杯力強く謝罪した。

『すみませんすみませんすみませんっ!!』

体が動いていたら、一目をはばからず勢いよく土下座しそうな勢いだ。

カカシが動けなくて良かったと、ナルトはこっそり安堵する。

だが謝り倒すカカシを放っておくわけにも行かないので、落ち着けるように遮る。

『落ち着け。俺たちがお前達を見捨てる訳はないだろう?』

(ああ、もう、出来ることなら泣きたいっ!!)

それがカカシの心情だった。

だがナルトのおかげで落ち着いてきて、そんなことをしたらむしろ、

ナルトに迷惑がかかることにようやく頭が回るようになってきた。

だから、代わりに。

『ありがとうございますっ!!もう一生ついて行きます!』

『お前の忠誠心は分かってるから』

ナルトも動作で表せない分、なるべく穏やかに言う。

しかし、このままでは帰ってから仲間達に制裁を食らうだろうことは確実だ。

少し考えてから、ナルトはカカシに提案した。

『カカシ、俺も含めた下忍たちに修行を課せ。木登りの修行がいいだろうな。

あれは今の時期からきちんと身に着けておけば役立つ。

お前にはその間、俺が修行を課す。それで少し鈍った感覚を鍛えておけ』

間を空けずに、カカシは賛成する。

『さすがです、煌様!』

すぐさまカカシはナルトたちに、自分が回復するまでの間修行を課すように言った。

周りを盛り上げるように、ナルトはわくわくしている。

『今すぐ始めた方がいい。サクラはチャクラコントロールがうまいからすぐ終わるだろうが、

サスケと“俺”は時間がかかるだろうからな。お前に課す修行は後で説明する』

『はいっ!!』

言われるままに、カカシは松葉杖を借りて、ナルトたちと共に森に出た。


森でチャクラについて復習し、カカシは木登り修行の概要を説明する。

説明を受けた後、ナルトたちはすぐさま修行を始めた。

ナルトの予想通り、サクラはあっという間に大樹を半分くらい登っていく。

ナルトはチャクラが足りずひっくり返り、サスケは数メートル登ったところで弾かれた。

ナルトに目配せされたカカシは、小さく頷いてサスケをたきつける。

そしてナルトとサスケは競うようにして修行を続けた。

『サスケは俺が見ておくから、お前は当分回復に専念しろ』

『はいっ!』

夜に、みんな寝静まったあと、ナルトはカカシに近づいた。

誰も起きていないことを確認して、声に出して会話する。

「調子はどうだ?」

「やはり全快に一週間はかかりそうです」

「そうか」

再不斬がおそらく回復するまでにかかる期間も一週間程度だろう。

ぎりぎり間に合うか、どうか、の時間だ。

肉体もきっちり回復させながら、再不斬戦のためにも鍛えておかねばならない。

「チャクラの六割は回復に宛てろ。

肉体エネルギーと精神エネルギーをきっちり平等に混ぜ合わせて、

体に循環させるだけでいくらか回復力が増す」

ナルトはその例のためにチャクラを練ってみせる。

カカシはそれをじっくり見ながら頷いた。

「はい」

「それから、先三日間くらいは、五行のチャクラ練りの練習だ。

五行のそれぞれを、ランダムに練るといい。

ばらばらの配合のチャクラをすばやく練る練習だ。

戦場ではチャクラの練るスピードは勝敗に大きく関わる」

「はい」

「無理はしない程度にな。体を壊したら元も子もない」

励ましの言葉に、カカシは嬉しそうに答えた。

「はいっ!」


カカシを休ませ、部屋に影分身を置いてから、ナルトはタズナの家を出る。

「下調べ、行っておかないとな」


ふっ、とナルトの姿は消えた。