六話


明朝、鳥のさえずる頃、ナルトは森で寝そべっていた。

タズナの家には影分身を置いている。

昨夜も異常はない。

浅く短い睡眠を取った後、ナルトは考え事をしていた。

『父ちゃん…っ』

『“勇気”という言葉は永遠に奪い取られてしまった』

タズナの語った波の国、あの家族の過去。

確かにそれはつらいものだろう。

家族を失うというのは、とても悲しいことだ。

『自分にとって本当に大切なものは、つらくても悲しくても

……頑張って頑張って、たとえ命を失うようなことがあったって、この二本の両腕で守り通すんだ!!

……そしたらたとえ死んだって、男が生きた証はそこに残る。永遠に……』

彼は命をかけて大切なものを守ることを選んだ。

それはきっと家族だけでなく、彼の信念をもなのだろう。

一方、命の方が大事だと、信念を、心を折り曲げて命を守ることを選択した者もいる。

どちらが正しいかなど、分からない。

信念とは貫き難いが大切なものであるだろうし、生きていなければ何の意味も無いともいえる。

だが、彼が己の信念を貫き通したことだけは確かだ。

彼が望んだのは、守りたかったものは。

ナルトは心を決め、起き上がろうとする。

だが、ふと気配を感じて、そのまま寝たフリを続けた。

少しして、少年がナルトの傍に近寄ってくる。

(この気配……あいつ、か)

再不斬を迎えに来た、あのお面を被った少年。

おそらく、ナルトとそう年の変わらない。

彼の手が目の前にあって、そこから攻撃されても避けきれる自信があった。

だから、彼が何をするつもりなのか、ナルトはそのまま観察し続けた。

しかし、彼がしたことはナルトの予想とは違って、森で無防備に眠る子どもを起こすことだった。


少年は薬草集めをするという。

ナルトはその手伝いを申し出た。

薬草を集めながら、いくつかの言葉をかわす。

少年は、どうして強くなりたいのかとナルトに問う。

里に自分のことを認めさせたい、そしてあることを証明したい、とナルトが言った。

そしてその後、少年は口を開いて。

「君には、大切な人がいますか?」

「!」

唐突な質問に、ナルトは素で目を見開く。

少年は少し考えるようにしてから、先を続けた。

「人は……大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれるものなんです」

危うくでかかった言葉を、ナルトは無理やり飲み込んだ。

代わりに、いつもの“うずまきナルト”の姿で。

「うん!それはオレもよく分かってるってばよ」

と笑った。

少年はその言葉に微笑み、立ち去っていく。

「君は強くなる……またどこかで会いましょう」

その言葉を残して。

ナルトは、その少年の気配が遠ざかるまで、それを見守っていた。

サスケが近づいていたことにも気づいていたから、演技を続けたまま。

またサスケと競いながら、ナルトは。

(……また、怒られるかもな)

そんなことを考えていた。


サスケと“ナルト”が木の頂上まで登った夜、イナリはナルトに怒りをぶつけた。

修行なんかしたって勝てっこない、お前に自分の何が分かる、と。

それに怒り返しそうになったのはカカシだ。

殺気まで出そうだったそれを、ナルトが慌てて止める。

そして、あえて強い視線を使ってイナリを叱った。

『“それ”がお前の仕事だ。間違うな』

『……はい』

そしてカカシにそういい残して、そこを去った。


カカシがイナリを諭しているのを遠くから眺めながら、ナルトは印話をシカマルに繋いだ。

シカマルからすぐに返事は返ってきた。

『どうした、ナル』

『ちょっと手伝って欲しいことがあってな。今、大丈夫か?』

『印話は大丈夫だが……急ぎの暗号解析中だ』

どうやら今日は部隊の方に顔を出して仕事中らしい。

シカマルなら大丈夫だろうとナルトは判断して、先を続けた。

『ああ、来て欲しいわけじゃない。ちょっと頭脳を貸して欲しくてな』

『……何かめんどくせー予感がすんな』

それでもシカマルは了承してくれ、その知恵を貸してくれた。

ヒナタといのにとりあえず秘密にしておくように頼み、ナルトは回線を切った。

「さて、明日が本番だな」

イナリが立ち去ったのを見て、ナルトはカカシの傍に着地する。

「煌様!」

「カカシ、俺は明日、この家に残る。疲れてるだろうからとか言って、残しておいてくれ」

「え?」

いきなり言われたことに、カカシは目を丸くした。

「明日おそらく、再不斬が再び襲ってくる。お前は再不斬を迎え撃て。

仮面の少年の方は……少しの間なら、サスケに任せておいて問題は無いだろう。一応影はつかせておく」

「煌様は、何をするおつもりで?」

「ガトーの手のものがここを攻めて来るだろうから、その防衛だ。

イナリに少々渇を入れたあと、すぐにそっちに向かう」

カカシは納得して、頷いた。

「分かりました」

そしてそのあと、ナルトは何ともいえない微妙な表情を浮かべた。

「煌様?」

カカシに聞き返されても、その顔のままだ。

そしてたっぷりと時間をかけたあと。

「……怒るなよ」

それだけぽつりと呟いた。

カカシは真意を問おうとしたが、問う前にナルトは消えてしまった。

「散歩に行って来る」

その言葉だけ残して。


ナルトは軽い運動代わりに森を走っていた。

(策は出来てる。多少タイミングが難しいが、どうにかなるだろう)

シカマルの考えた案だ、うまくいくと信じている。

あとは“結果”を待つだけだ。

「さて、どうなるか」

ナルトは小さく口角をあげる。


とりあえず、仲間達に怒られないことだけを、心配した。