七話


翌朝、カカシは言われたとおり、ナルトを置いて家を出た。

『それでは、後は頼みます、煌様』

『ああ』

かわした言葉は、それだけだった。


カカシたちが橋に着くと、既にそこには人が何人も倒れていた。

橋を作っていた男達だ。

四人とも、漠然と“来る”というのを感じていた。

そしてすぐに再不斬が何人も現れる。

再不斬は震えるサスケを嘲ったが、サスケは再不斬の水分身を倒す。

成長したサスケに、再不斬は僅かに驚きを見せた。

少年、白と共に現れながら。


一方タズナの家では、ガトーの手下のものが襲ってきていた。

ナルトはカカシたちを追いかけていったフリをして、様子を眺めている。

イナリの身代わりに捕まったツナミを見て、イナリは震えていた。

だが、恐怖を振り切ったのだろうか。

涙を拭き、イナリは立ち上がった。

そしてガトーの手下たちへと向かっていく。

それを見ていたナルトは、嬉しそうに笑った。

(なんだ、やれるじゃないか)

大切なものを守るために、立ち上がることが出来る、恐怖に立ち向かうことができる。

カイザが教えようとしていた、大切なもの。

イナリが慕った彼が、貫こうとしたもの。

(ちゃんと、受け継がれているじゃないか)

彼の死は、無駄にはならなかった。

彼の生きた証は、イナリが受け継いでいく。

ナルトは笑みを浮かべたまま、イナリを助け、ガトーの手下を打ちのめした。


嬉し泣きでも、涙を見せんとするイナリに、ナルトは嬉しいときには泣いてもいいんだと、励ます。

そして辺りにもう気配はないことを確認して、そこをイナリに任せてナルトは出発した。

「あー、サスケ、もうあいつと戦ってるな。少し急ぐか」

ひゅん、とナルトは風と化した。


ナルトが橋についた時には、戦いは大分進んでいた。

影分身から聞いていたものを直に確認する。

(本当に血継限界だ)

氷の鏡のようなものによって、サスケが閉じ込められている。

少年は氷の中を超スピードで移動できるらしい。

今のところ、サスケは防戦一方だ。

だが、確実に、少しずつ“何か”を感じ取り始めている。

(これはうまくすれば、写輪眼が発動するかもな)

カカシに目を向ければ、サスケが気になってどうにも集中できないらしい。

(まあ、カカシには分からないだろうから)

『カカシ。サスケは俺がどうにかするから、お前は再不斬の戦いに集中してくれ』

ナルトが声をかけると、すぐに嬉しそうな声が返ってきた。

『煌様!良かった……分かりました!』

安心は見せるなと一言注意してから、ナルトは姿を現した。

「うずまきナルト!ただいま見参!」


念のため、すぐに動けるようサスケのいる氷の中に入る。

サスケは外から攻撃して欲しかったようだが、意味の分からないふりをしながら内心苦笑する。

(“ナルト”じゃ、外からじゃこの氷は壊せない)

サスケが豪火球の術を放った後、影分身を作り少年に、白に壊させることで、それを見せておく。

(さあ、どうする)

白も、サスケも。

様子を見ていると、白が戦う理由を語り始めた。

「ボクは大切な人を護りたい。

その人のために働き、その人のために戦い、その人の夢を叶えたい……それがボクの夢」

白は、そのためなら人を殺すことを躊躇わない忍になるという。

(そうだな……それは“忍”だ)

ナルトはちらりと自分の手を見る。

“煌”として、既にこの手は血塗れだった。

殺すことを躊躇えば死ぬ、忍の世界で、ずっと生きてきた。

それは、大切な仲間が出来てからも変わらない。

“忍”としてあるためには、人を殺すことが怖いという感情を、捨てなければならないのだ。

だけど……。


「お前らみたいな平和ボケした里で本物の忍は育たない。

忍の戦いにおいて最も重要な“殺しの経験”を積むことが出来ないからだ……」

ぴき、とカカシの手に力が入る。

カカシは頭に昇りつつある血を抑えようと必死になった。

戦闘が始まれば、自動的に落ち着くだろうと戦闘体勢に入る。

だが、次に聞こえた言葉に再び憤慨した。

「俺は高度な道具を獲得したわけだ。お前の連れてる廃品(スクラップ)と違ってな……」

(お前に、あの方の何が分かる……っ!!)

木の葉の里において、最も強く、最も人を惹きつける、最も優しい人。

年など関係なく、多くの人を従わせる、カカシにとっての主君。

だが、ナルトの歩いてきた道は、カカシより、再不斬より、過酷で哀しい道だった。

ナルトがそのために何を犠牲にしたのかを知らないくせに。

この世界の中で、ナルトが何を思い、何のために戦い続けているかを知らないくせに。

(知った口を利くな……っ!!)

『カカシ!』

叫びそうになったところで、カカシの頭の中に声が響いた。

『何を憤慨している。冷静にならなければ、湖の二の舞になるぞ』

す、と頭が冷えた。

湖の二の舞、ナルトの手を煩わせること。

それはもう絶対にしてはいけないことだ。

『お前なら再不斬は倒せる。冷静に状況を分析し、全力を尽くせ』

『……申し訳ありません。必ず、倒してみせます』

『……信じている』

カカシは頭のどこかが冴えて行くのを感じる。

怒りを鎮めてくれたことと、信頼を寄せてくれたことにカカシは心から感謝した。

自分にやれることを、役目を果たさねばならない。

「そろそろ行かせてもらおう!」


(カカシは落ち着いたな……)

カカシの様子を察して、ナルトは意識を戻した。

写輪眼が目覚めかけているサスケと、氷の中を移動する白。

色々状況は難しいが、やるしかない。

(さて、やるか)

ナルトはクナイを構えた。

(忍は確かに人を殺すのが仕事だが……)

白を見据える。


(人を助けてはいけないわけじゃない)