九話 ガトーが雇っていた男達は、イナリが連れてきた住人達と、 ナルトとカカシのハッタリの影分身に怖気ついて、みな退却していった。 静かになったころ、再不斬はカカシに僅かに顔を向ける。 再不斬は、最後に白の顔が見たいと、カカシに頼み込む。 カカシがちらりとナルトの方を見る。 ナルトは小さく頷き、カカシは再不斬を抱えて白の元に向かった。 すると、ちらちらと白い雪が降り始める。 「……雪だ」 『これは、煌様が?』 『まさか。降らそうと思えば降らせるが……これは、本当に偶然の雪だ』 本当に、誰かが意図したのではないかというほどの、偶然。 ナルトはその雪を握り締める。 カカシは、白の横に再不斬を横たえた。 「できるなら……お前と……同じところに行きてェなぁ……オレも……」 それきり、再不斬は動かなくなる。 サスケたちも、波の国の住人達も、それを静かに見守っていた。 カカシも、今はじっと二人を見つめているだけだ。 (行けるよ。お前たちは、これからも……ずっと一緒だ) ナルトは、雪降らす空を見上げていた。 「またしばらくお世話になりまーす……」 「全く難儀な術ね、毎回こうして寝込むことになるなんて」 カカシは布団の中で苦笑した。 橋の完成までもうすぐ、ガトーも追い払って、今は町のみんなで揚々と橋の仕上げに取り掛かっている。 カカシは、再不斬戦でまた長く写輪眼を使ったため、寝込む羽目になっていた。 「ま、橋が出来るまでが任務だ。お前達も疲れたデショ。ゆっくり休め」 「はーい」 こうしてナルトたちは、タズナ家でのんびりとした日々を過ごしていた。 夜、ナルトは影分身を残してタズナ家を出た。 『煌様、どこへ?』 『組織の居場所の目処が立った。殲滅に行って来る。影は残しておく。 お前は少しでも早く動けるように休んでおけ』 『はい』 カカシは素直に頷き、眠りについた。 最後の一人の心臓を一突きにし、煌は死体を全て燃やした。 「……少々、時間がかかったな」 総勢千人。 殺す分には問題ないが、一人でやると時間がかかる。 数十分の任務実行のあと、また数分かけて後片付けをし、煌はその場を離れた。 「そろそろ行くか」 森の真ん中で、煌は印を組む。 煌は姿を消した。 「……よう、目覚めたか」 ナルトが声をかけると、そこにいた二人、特に片方は睨みつけるようにナルトを見た。 「てめぇ、何のつもりだ」 「教えて貰えますか」 そこにいたのは、再不斬と、白。 包帯が巻かれていたりするものの、動く分には問題がないようだ。 「俺は死んだはずだ。ガトーの首を掻っ切って」 「ボクも、再不斬さんをかばって死んだはず……です。ここはあの世はないですよね?」 そこは真っ白な空間。 三人以外、誰もいない。 さっきまでは、ナルトが残しておいた影分身がいた。 それも今は消えているが。 「ああ。ここは俺が時空間忍術で作った別空間だ。 時間とか、状態とかを俺の自由に出来る、とても便利な術だよ」 ナルトが手をかざすと、椅子が現れた。 ナルトはそこに腰掛ける。 「……君の今までの行動は、全て偽りですか?」 「全て、ではないな。時々任務に従って動いていたし」 この場合は、サスケの護衛任務の方だがと心の中で付け加える。 「お前らの意識では死んだ気分だろうな。 だがそれは、体をここに移して、意識だけを具現化させ行動させたに過ぎない。 具現化された意識が死んだ後、意識はここに戻り、目覚めた。普通に生きてるよ」 再不斬と白はいまナルトが説明した意味を考えているらしい。 しばらく頭を抱えてから、何とか無理やり納得したように数度頷く。 「それで、何のために俺たちを助けた」 「俺が助けたかったからだ」 ナルトがそう答えると、再不斬はまたナルトを睨みつける。 「まじめに答えやがれ」 「まじめなつもりなんだが……」 ナルトは肩をすくめながらも、説明を付け加える。 「“忍”は道具として生きられるか否か……俺たちは、とうにその質問を飛び越えてしまったからな。 その問いに悩んで、それでも生きているお前たちがあんな風にすれ違ったまま死ぬのは惜しいと思った。 だから助けた。以上」 ナルトの言葉にひっかかるものがあったらしい。 まず白が口を開いた。 「質問を飛び越えた、というのは?」 「俺たちは、物心ついた時には、感情を殺して誰かを殺さねば生きられない世界にいたからな」 白が軽く目をそらす。 再不斬がそれだと指を向けた。 「俺たち、とは誰のことだ?あのガキたちのことじゃないな?」 「違うな。あいつらとはまた違う……俺の大切な仲間達のことだよ」 再不斬と白が続きを聞きたそうに顔を向けたが、ナルトは首を振った。 「これ以上はいえないな。忍はそうそう自分の情報を他人に明かさない」 「聞きたい」 「だから無理だ」 「どうすれば聞ける」 再不斬にその質問に、ナルトはやや抜けた声を上げた。 「……は?」 「どうすれば聞けると聞いている」 本気だ。 そんなのを聞いても何の得もないだろうに。 一応考えてみたが、やはり無理だという結論が出た。 「……色々無理だろ。俺たちのことを知っているのは、木の葉でもごく少数。 名だけならそれは山程いるが、真実を知っているのは両の手にも満たない」 火影、仲間、分隊。 やはりちゃんと数えてみても十人もいない。 まあ諦めるだろうとナルトはひらひらと手を振った。 「今は俺も時間がないし、お前達も傷が癒えてないだろう。傷が癒える頃、ここから出す。 必要なものは俺が届けに来る。自由になったあとは、どこにでも行けばいい。ただし」 ナルトはそこで、僅かに殺気を向けた。 白と再不斬は目を見張っている。 牽制のつもりだ。 空気がビリビリと震える。 「木の葉にだけは手を出すな。俺は木の葉の敵には容赦しない」 そしてナルトは殺気を引っ込める。 まあこんなところだろうと、気を楽にする。 そろそろ帰るかと立ち上がって。 ナルトの視界に頷きあっている再不斬と白が入った。 二人は同時にナルトをじっと見る。 「……何だ」 「木の葉に入る」 「だから君のことを教えて下さい」 「……はぁ!?」 今度は完璧に驚きの声が出た。 こんなに驚いたのは久しぶりかもしれないとナルトは思いながら、その理由を聞いた。 「お前に興味が出た。お前の今の姿は実年齢だな?その年で一体何があったか」 「まあ、そうだが」 「けれど、正規の部隊には入りませんよ。色々問題もあるでしょうし、あなたの下で働いてみたいです」 ナルトは唖然とした。 どうやら先ほどのアイコンタクトで互いの意思を確認したらしい。 共に同意見のようだ。 今の今まで殺し合いしていた相手の下につきたい。 何となくくらくらとしてナルトは額に手を当てる。 (俺の下……分隊か?だとすると……) 「まだ、色々と問題がある……俺は直属の部隊を持っているから、入るならそれでいいんだろうが…… それに入るには、色々試験を突破しなければならない」 ナルト、つまり煌の直属の部隊、零班分隊だ。 正規の部隊ではないし、暗部の決まりで正体は隠せる。 だが、その部隊に入るにはいくつも試験があるのだ。 まず、実力試験。 零班分隊としての名に恥じない実力を持っているかどうか。 白と再不斬はもともと霧隠れの暗部だから、それはいいとして。 問題は適性検査。 これは、幻術や精神操作のエキスパート、玲による、煌への忠誠心を見る試験だ。 これがなかなかつらく、カカシやアスマも突破しているが、突破した直後は廃人寸前のようだった。 それを思い出しながらナルトは再不斬と白を見る。 引く気は、ないようだ。 「……とりあえず、あと数週間のうちには木の葉に帰る。 そこで仲間達に相談するから、それまでここで待っていてくれ。何か要り用があったら影にな」 ぼん、と影が一つ現れる。 白と再不斬はやや不満そうだったが、小さく頷く。 どっと疲れた気がして、ナルトはその空間から出て、通常の空間に戻った。 「絶対、しぼられる……」 帰った後の仲間達の反応を想像して、ナルトは大きなため息をついた。