十一話


部屋に剣呑な空気が漂った。

とりあえず一しきりのねぎらいを終えた後、ナルトは三人に説明を始めた。

任務先で戦い、自分が助けた二人が分隊に加わりたいという話だ。

当然、噴火した。

「あーもー、何でナルはそう無駄に人を惹き付けて来るの!」

「シカ、あんた知ってたのね!」

「いやいやいや、俺、ナルに口止め食らってたから。ナルも何か言ってくれよ!」

「いの、本当だ。俺がシカに言わないように言ったんだ。シカを責めないでやってくれ」

居間で多少賑やかな音が響く。

主にヒナタがナルトの肩をつかんでブンブン振っている音、

いののどつきからシカマルが逃走している音だ。

ちなみに、シカマルはすんでのところでいのの攻撃をかわしながら話し、

ナルトも振られた状態のまま弁解している。

「それで、そいつらはどこに!?」

「“狭間”だ。影に怪我の治療をさせている」

「外の森で出しましょう!ぎたんぎたんに半殺しにしてやるわ!」

「いや、お前達がやったら死ぬだろ、そいつら」

シカマルの冷静な突っ込みは、届かなかった。


ナルトは二人に言われたとおり、白たちを狭間から出すべく印を組む。

「いきなり殺すなよ、頼むから」

冗談にならない注意を、一応してから。

そして白と再不斬はふ、とナルトたちの前に現れる。

「あ、久しぶりの外ですね」

「退屈だったな」

「待たせたな、白、再不斬。

ここが木の葉の……まあ俺たちの家の庭のような場所で、こいつらが俺の仲間だ」

少しきょろきょろとしていた二人は、その言葉で正面を向く。

そして、向けられている殺気に、そろって冷や汗を流した。

「……ナルト君、ボクたち殺されませんよね?」

「後ろが怖ェぞ」

「……死ぬ前には助けに入る」

ナルトが苦笑する。

なんだそりゃと、二人の心境は一致した。

「ナル、こいつらがそうなのね?」

「ああ。手配書で存在は知ってるな?

霧の抜け忍、こっちが白で、そっちが再不斬だ。共に元暗部。実力は大丈夫だと思うが」

「カカシと戦りあって生きてるんだから、とりあえず実力は認めてあげるわ。

白って子には血継限界もあるらしいし」

聞いた名前に再不斬が口をはさむ。

「カカシが、どうかしたのか?」

「まー、色々とな」

その言葉で、三人はカカシのことは言ってないのだと知り、それ以上は口をつぐむ。

「力より、問題はナルへの忠誠よ!」

「そうそう!ナル、やっていいのね?」

いのが印を構え、一応ナルトに了承を取る。

ナルトにとってはそれが意外で、若干目を見開いて聞き返した。

「とりあえず反対はしないんだな」

「ナルが選んだんだもの。文句は言わないわ……あとで私達も言わなくちゃいけないこともあるし……」

今度はナルトが首をかしげた。

シカマルが後で話すと言って、いのは印を組み始める。

「覚悟しなさい。とびっきりきついの出してやるわ!」

「いの、少し手加減しろ」

手加減されているはずのその術中、二人分の悲鳴が上がったのは、彼らしか知らない。


「へえ、やるじゃない。これを乗り越えるなんて」

白と再不斬はばたりと倒れていた。

いのが術後処理の治療をしながら、嬉しく無さそうに言う。

「もっと改良しないとだめかしら」

「まだ……厳しくする気か……」

反論しようとする再不斬の声は絶え絶えだ。

ナルトが近寄って苦笑する。

「言っただろう。“色々大変だ”と」

その意味を理解し、白と再不斬はとりあえず互いが生きていることを喜んだ。

ナルトに近づくものに、彼ら三人は容赦がないことを知った瞬間だった。


「とりあえず合格ね。まあ覚えることやることは色々あるけど……どうする?

アスマさんに押し付ける?」

「……俺は今日明日は休みだ。とりあえず必要最低限だけ教えておく」

「ナルがやるのか?」

「アスマも俺たちがいなかった余波で任務が山だろ。冷静に出来るとは思えない」

イタチがいない今、里にいる分隊はカカシとアスマのみ。

カカシもナルトと共に出ていた。

その影響はとても重いものだろう。

「とりあえず今日はうちの客間でいいだろう。

明日、どこか適当に部屋を探させて、そこに住まわせればいい。それでいいか?」

ヒナタたちはしぶしぶと頷く。

再不斬たちに至っては、もう答える気力もない。

ついでに立ち上がる気力もない。

結局、ナルトとヒナタが抱えて運ぶことになった。


「そういや、シカマルといのが後で話す、と言ったことは?」

再不斬と白は部屋につくなり眠りについた。

夕食までの時間、居間で寛ぎながらナルトが切り出す。

「あの、えっとね、シカ、言ってよ」

いのがシカマルを小突く。

シカマルはしゃーねえなと頭を掻いた。

「もう一人、分隊候補がいてな。

力はこれからの伸び代に期待なんだが……何とこいつもいのの試練を潜り抜けてな」

シカマルといのは気まずそうに口ごもっている。

ヒナタには既に話が通っているのだろう。

見守っているだけだった。

「チョウジか?」

「ええ、何で分かったの!?」

ナルトがさらりと言ったその名前に、いのが叫ぶ。

シカマルも目を見開いたまま固まっていた。

「アカデミーのとき、俺とシカとチョウジとキバとでよく遊んだよな?

その時、チョウジが何度かじっとお前達を見ていた。

多分、シカが実力隠しているのには気づいているんだろうな、と。意外と鋭いぞ、あいつは」

これは完璧に意外だったらしい。

シカマルもいのも呆然としているだけだった。

「相変わらず、抜かりがないのね」

「まあ、な」

ヒナタはくすくす笑っている。

ナルトも笑い返してやってから、先を続けた。

「近過ぎて分からなかったか。まあそれはいい。別に構わない。

あいつがいい奴だってのは、俺もよく知っている。

ただし、きちんと力がつくまでお前達が戦い方を教えろよ」

しばらく呆然としていた二人は、その言葉をゆっくりと飲み込んで。

シカマルは笑い、いのは勢いよく頷いた。

「もちろん!」

「サンキュ、ナル」

二人で手を取り合った。

ヒナタがあーあ、と息を吐く。

「でもこれで、十班全員零班ね」

「そうだな。下忍の意味がまるでなくなるな」

はは、とナルトも笑う。

「だが、これで分隊が三人増えた。カカシたちの負担が大分楽に……」

そこでナルトは言葉を切った。

そしてあー、と言いながら天井を仰ぐ。

「どうしたんだ?」

その様子を不審に思って、ヒナタたちが尋ねる。

ナルトはああ、と返事をして。

「カカシにこのこと説明していなかったから、どう説明するかと思ってな」

苦笑しながら顔を戻すと、そこにはもうヒナタしかいなかった。

ヒナタはまたくすくす笑っている。

何となく答えを予想しながら、ナルトはヒナタに尋ねる。

「……ヒナ、シカといのは?」

「“カカシへの制裁を忘れてた”だって」

少しして、ナルトに通信が入った。

『こここ、煌様、お助け……』

『甘いっ!ナルに助けを求めないの!』

ブツン。


印話は切れた。