十二話


朝、ヒナタたちが下忍の任務に行くのを見送った後、

ナルトは再不斬たちに木の葉での生活について教えていた。

まず、出歩くときは必ず暗部服に仮面か、変化でということである。

二人はそれなりに名のある指名手配犯なので、素顔を公衆にさらしてはいけないということだ。

暗部としての心構えは二人は経験があることから飛ばし、次に木の葉の暗部について説明する。

ナルト、煌を総隊長として、木の葉に主に四つの部隊があり、

それを煌たち前線部隊零班の四人が統括していること。

そしてそれと別に、零班分隊なるものが存在し、彼らは里のためにさらに高度な任務につく。

これから白たちが入るのはその分隊だ。

「なんだかややこしいですね」

白が、ナルトが説明のために書いた紙を指しながら言う。

「まあ里の中では変則的な形態だな。

この形になったのは、シカといのが零班に入ってから……三年ほど前の話だ」

「随分最近だな」

「俺たちの年を考えろ。全員十三を数えたばかりだ。

俺は少々異例すぎるが……六つ九つで入ったあいつらも十分異例なんだから」

最もだと再不斬が頷いたが、白はあれ、と声を上げる。

「……ナルト君が暗部に入ったのは、いくつです?」

「三つ。総隊長になったのが五つだったか」

その言葉にさすがに二人は声をなくした。

三つなど、チャクラの使い方もまだ碌に覚えてはいないのではないだろうか。

ナルトはその二人の様子を一瞥してから、紙に視線を戻す。

「俺たちの身の上話はまたな。それより、木の葉について覚えろ」

今はこれ以上教えてはくれないと分かり、とりあえず二人はそれに集中することにした。


「チョウジ、喜びなさい!ナルトが許可をくれたわ!

あとは火影様のところに行って登録すれば、アンタも立派な零班分隊よ!」

いのがばんばんとチョウジの背を叩く。

チョウジはちょっとむせながら笑った。

「良かった。でも、ナルトならくれると思ってたよ。ナルトは優しいもの」

「……そうだな、ナルトは優しいな」

お前と一緒で、とこっそりシカマルは口の中で呟く。

それからいのと一緒に背をばんばんと叩いた。

「ま、これから当分修行だ。どうせこの班は零班しかいないんだから、気楽に行こうぜ」

「全くだぜ」

声がして、シカマルは声だけをそちらに返す。

「遅えぞ、アスマ」

「悪い悪い」

そう言ってアスマは煙草をふかす。

シカマルがそれを手で払った。

「で、晴れてチョウジも分隊か。これじゃあ俺の意味がまるでないな」

「それもそーね」

「ついでに、火影様も、こんな人手不足の状況でこんな班を放っとくほど気じゃないと思うけどな」

ぼそ、とシカマルが呟く。

それは話しているチョウジとアスマには届かなかったようだが。

聞いていたいのは、小さく苦笑する。

それから、あ、と声を上げた。

「ねえ、シカ。ナル不在騒動で忘れてたけど、そろそろ中忍試験だったわよね?」

「あー、そういやそうだな。ナルとヒナ、護衛任務が大変だろーな」

中忍試験は、死人も時々出てくる試験だ。

その中でまだ新人に近い下忍たちを守るのは、普通の任務よりも骨が折れるだろう。

「それもあるんだけど……今、砂隠れと、新しくできた音隠れがなんかキナ臭いのよね。

シカ、何か聞いてない?」

シカは脳内にある情報を引っ張り出す。

「そういや……国境警備の忍からの報告書の中に、音の里の周辺に砂がよく現れるってあったな……」

「ちょっと、そういうことは早く言ってよ!」

「そん時他にも色々考えてたんだよ!ナルから作戦を考えてくれるよう頼まれてたのもその時で……」

言いかけてから、シカマルはあ、と声をあげる。

いのがふるふると拳を奮わせた。

「やっぱりアンタ、知ってたんじゃない!」

「待て、いの!」

バタバタと駆けて行く。

チョウジとアスマは遠くからそれを見守っていた。

チョウジはどこからともなく菓子袋を取り出し、それを食べながらアスマに話しかけた。

「ねえ、今、いのとシカマル結構大変な話、してなかった?」

「そうだな。ま、後でナルトたちを交えて本格的に会議すんだろ。

それよりチョウジ、お前本腰入れて鍛錬した方がいいぞ。中忍試験は結構裏がありそうみたいだからな」

「うん」

ぼりぼり、と引き続けてチョウジは菓子を貪る。

いのとシカマルの追いかけっこは続いていた。


「ただいま」

「ああ、ヒナお帰り」

ナルトが玄関までヒナタを出迎えに向かう。

「やること、終わったの?」

「ん、まあな」

ヒナタが家に入って居間を覗くと、白と再不斬が伏せっていた。

かすかに唸り声が聞こえる気がする。

「どうしたの?」

「ん、いやな。一通りの講義を終えた後、テストをしたら中々に大変だったみたいで、

復習させて、今終わったところだ」

「ふーん」

ヒナタはそれ以上の興味は示さず、代わりにその二人の隣に積まれている書類を見た。

「それで、テストさせている間に書類仕事?」

「ああ。ただでさえ時間がないんだ。無駄にはできないだろう?」

ピシ、と書類が綺麗に整えられている。

そしてその書類の上には、処理済と書かれた紙が重りと共に乗せられている。

「お疲れ様」

「ヒナもな。何か変わったことは?」

「カカシにその二人について“納得させてきた”のと」

ヒナタはそこで一回切ってから、真剣な顔をして。

「……近いうちに木の葉で行われる中忍試験について、ちょっとね」

その意を汲み取り、ナルトは軽く頷く。

「いのとシカも何か言うことがあるだろう。二人が帰ってきてから、会議始めるぞ」

「分かったわ」

ヒナタは下忍の装備を外し、夜の任務のために自室に戻った。

それからナルトは二人に振り向いて。

「寝るな。これから復習テストを行う」

白と再不斬は、もう抗議する体力もなかった。

ただ、互いに。

「あの三人の……スパルタは……」

「絶対この人の影響ですね……」


そう呟きあっただけだった。