十三話


「音と砂に動きあり、か」

「いかが致しましょう」

三代目は、フムと顎鬚を撫でる。

煌たちがまとめたのちに提出された書類を、指で叩いた。

「お前は、大蛇丸が関係ありと睨むんじゃな?」

「はい」

煌が頷くのを確認した後、三代目は再び書類に目を落とす。

最近新興された音の里の情報は殆どと言ってもいいほどない。

木の葉の者を忍び込ませることは出来るだろう。

だが、慧の進言により、現在木の葉は音になるべく関わらないようにしている。

慧曰く、玲の情報を聞くと、音は敵の忍でよからぬ実験をしている可能性があるということ。

ますます大蛇丸に繋がりそうな話に、三代目は顔を顰めたものだ。

「……まずは様子を見る。今度の中忍試験、あやつが仕掛けてくるかどうかもまだ分からぬ。

お前達も参加するのだろう?内側から観察と護衛を頼む」

「御意に」

煌は深々と頭を下げる。

それから、数枚の紙を差し出した。

「これにお目を通していただきたく存じます」

三代目はそれを受け取る。

「うむ、聞いている。分隊の新隊員じゃったな?

お前達が認めたのならばワシは特に言うことはない。認可しておこう」

認可、つまりは公式に零班に登録するということだ。

「ありがとうございます」

「今宵はもう言うことはない。下がれ」

「はっ」

煌は下がろうとして、ふと、止まる。

小さな、小さな声で。

「どうか御身をお大事になさって下さい」

それだけ言って、消えた。

残された三代目は、パイプから煙をふかす。

「そういうわけには、行かぬのじゃよ」


「というわけで、俺たちは下忍として中忍選抜試験に参加しつつ、音と砂を見張ることになった」

全員集まった居間で、いのとヒナタの淹れた茶をすすりながら、ナルトは言った。

「分隊はどうするの?」

「カカシにはサスケのサポートをさせる。早めに写輪眼は使いこなせるようになっておいた方がいい。

全員零班なのだから、主に十班が動くことになるだろうな。ついでにチョウジの修行もつけてやれ。

確か、五日間くらいは死の森にこもる日程だったな?」

くい、と視線をいのに向ける。

いのは頷いて目を細くした。

「夕方くらいから、丸五日ね。

あそこなら視界は良くないし、色々自然の武器の宝庫だから、チョウジの勉強にはちょうどいいと思うわ」

「なら、それは決定ね。せっかくだから植物動物については叩き込んでおいたら?」

「分かってる。サバイバル技術は暗部でも使うからな。それで、あの二人は?」

シカマルが顔を動かさず視線を横に向ける。

その視線の先には扉、その中には本日も疲れ切って眠っている新入り二人組がいる。

「砂と音の付きの上忍の監視の方に回そう。どれぐらいのレベルの奴が出てくるかは分からない。

その日までにできるだけ鍛えておいた方がいいな」

ナルトが再び茶をすする。

シカマルが、んー、と軽く唸る。

「誰がやるんだ?俺たちの得意分野はばらばらだろ?」

だからこそ、力を合わせれば忍として出来ないことはないほどの力になるのだが。

ナルトは実際に彼らがはち合うだろう場面を想像しながら考える。

「気配を絶つ、気づかれないように動き回る、

万が一のとき、逃げ切る……ヒナの分野だな。任せていいか?」

「……ええ、みっちり鍛えてやるわ」

ヒナタもお茶を飲みながらにっこりと笑った。

その後ろには若干邪悪なものが見え隠れしている気がしなくもない。

ナルトは、苦笑だけでそれに答えた。

「んじゃ、当分の方針はこっそり内部調査、ついでに外から監視させる、こんなところか」

シカマルが簡潔にまとめ、ナルトが頷く。

「そうだな」

「了解。アスマたちにも伝えとくわ」

「ああ。俺もカカシに伝えておく」

何となく嫌がりそうな気がするが、と心中だけで呟いた。


四人の会議は解散となり、それぞれの部屋に戻る。

ベッドの上で、ヒナタはナルトに尋ねた。

「ねえ、実際のところ、ナルはどう思ってるの?」

その質問には主語が欠けていたが、その意味を読み取ってナルトが答える。


「……三代目か」

ヒナタが頷く。

ナルトはベッドに転がって天井を見上げた。

「大蛇丸との一騎打ちを望んでいるんだろうな、あの人は」

「それ、許すの?」

その質問に、ナルトはすぐには答えなかった。

しばらく天井を見つめ続けて、時間が空いてから。

「あの人は俺の恩人で、唯一仕えたいと思った主だ。

出来ることなら、生きていて欲しいと思う。だけど」

部屋は暗い。

それでも夜目が利くヒナタには、ナルトの顔が見えた。

「あの人が願ったことは、出来る限り叶えてやりたいと思う自分もいる」

その表情は、とても複雑なものだ。

その様子を見て、ヒナタもとても複雑な顔をする。

「じゃあ、まだどうするか決めてないの?」

「ああ。さて、どうするか……」

(俺は、どうしたい?)

ナルトは自問してみた。

しかし答えは出ない。

悩むナルトに、ヒナタが励ますように言った。

「ごめんなさい、変なことを聞いたわ。そんなに悩むのなら、今すぐ答えは出さなくてもいいの」

「……済まない」

謝るナルトに、ヒナタが首を振る。

それから、お休みと言ってヒナタはベッドにもぐりこんだ。

ナルトも、目を閉じる。

(けど、いつか必ず答えは出さなくちゃいけない。その時が来たら……)

選ばなくてはいけない、時が来たら。

(俺は、どうするんだろう?)


やはり、答えは出なかった。