十四話


(はあ……)

いのは、こっそりとため息をついた。

その理由は。

「サスケく〜ん!」

この、演技のためである。

ナルトたちは中忍選抜試験を受けにきていた。

ここは控え室、そこで木の葉の新人下忍たちは顔を合わせていた。

アカデミーからの知り合いなので、互いにそれなりのことは知っている。

『いの、まだその演技続けるのか』

『仕方ないでしょー。アカデミーまでこの演技続けてたんだから、今更止めたら怪しいもの』

『もう少し時間が経つまでは、我慢しなさい、シカ』

シカマルは若干苛立ち気味に、いのは申し訳無さそうに、ヒナタはくす、と笑いながら。

表面上は、シカマルはめんどくさそうに、いのは嬉しそうに、ヒナタはもじもじしながら印話している。

『よくやるな、お前ら』

その様子を見て、ナルトが笑ったが、次の瞬間、三人がいっせいに否定した。

『『『ナルには負ける(わ)』』』

「うっせーてばよ!サスケならともかくオレがお前らなんかに負けるか!」

ナルトは、キバと大声で口喧嘩していたからだ。

身振り手振りもついているそれは、一見すれば演技などとは分からないだろう。

『伊達に何年も里中を騙してない』

口喧嘩を続けながら、ナルトは笑った。


九人で騒いでいると、声がして、ナルトたちは振り向いた。

そこには、カブトと名乗る青年がいた。

『……いの、あいつ、知ってるか?』

『え、ええ。忍界大戦の頃に拾われてきた薬師カブト、ね。

医療忍者の養子になって育てられて……本人の言うとおり、四年ほど中忍選抜試験を受けて、落ちてるわ』

ナルトにいきなり尋ねられ、いのは戸惑いながら答える。

ナルトは質問を続けた。

『理由は?』

『本人の意思による棄権よ。でも……それがどうかしたの?』

ナルトは答えない。

代わりに、ヒナタに呼びかけた。

『ヒナ、とりあえず第一の試験中、あいつから目を離すな』

『うん?……うん』

『おい、ナル、まさか』

検討がついたらしいシカマルがナルトを促す。

ナルトは目線だけで肯定した。

『どちらかというと根拠のない勘だが……俺の感覚に引っかかった。あいつは、怪しい』

『スパイの可能性があるってこと?』

『そうだな。中忍試験を何回も辞退していることも引っかかる』

『ああ、中忍になるために受けているというより、

何か……情報とかを求めて参加していると言われた方がしっくり来る』

シカマルも同意する。

ヒナタは頷いた。

『了解』

『それじゃ、第一の試験、それなりに頑張ってね』

時間だ、ということで、いのが印話を切る。

三人も、示し合わせて一度印話を切った。


『……まさかね』

『隣、とはな』

『いいなあ、ナルとヒナ』

『三代目が仕組んじゃいねーだろうな』

第一の筆記試験、隣の席になったナルトとヒナタは苦笑した。

それを知ったいのとシカマルも空笑いすることしか出来ない。

『ナルはテストどうするの?』

『“うずまきナルト”がこの問題を解くことも、意図に気付くことも出来るわけないだろう。

これは第十問目が本来の試験だろう。

とりあえず受かりさえすれば七班は第二の試験に行けるんだから、そうする』

『そう。私は一応解いてみるね』

ナルトは問題に苦悶している様子を見せながら、ヒナタはせっせと書きながら会話していた。

『シカ、チョウジどうしよう?』

『俺は自力で解いとくから、お前は心陰身でも使ってチョウジに講義でもしてやれ。

まあ、試験の意味を考えると問題の答えを教える意味はさほど無いんだが……』

『分かったわ』

(てか、これって昔俺が暗号班に出した例題じゃねーか。引用するなよ)

シカマルはぼりぼりと頭を書きながら解答し、いのはシカマルに言われたとおり、

心陰身の術でチョウジの体に自分の意識を送った。

この術は心転身とは違い、相手の意識をのっとるのではなく、相手の体に自分の意識を同居させる術である。

チョウジは最初驚いたが、いのだと分かるとすぐに安心して、講義を頼んだ。

『頼むよ、いの』

『任せなさい!』

チョウジの中で、いのがガッツポーズをした。


いのがチョウジへの講義を終える頃、第十問の問題が出された。

それは受けるか受けないか、受けて失敗したものは二度と中忍になれないという、究極の選択だった。

『俺たちゃ、中忍すっ飛ばして暗部だもんなあ』

『随分理不尽な問題ね』

『でも、いい問題だと思うぞ』

『そうなんだけど……分からない者からみたら理不尽に感じるわ』

互いに頷きながら印話で会話する。

案の定、会場は不満や不安と言った雰囲気にまみれていた。

ナルトはしばらく様子を見る。

何組か辞退したところで、ナルトは手をあげた。

『ナル!?』

隣にいたヒナタが声を上げる。

だが、ナルトの口から出てきたのは辞退の言葉ではなった。

「なめんじゃねー!!オレは逃げねーぞ!!」

バン、と机を叩く。

会場中の人が、ナルトに注目した。

ヒナタといのさえナルトに注目した。

シカマルは、その意図を察してため息をつく。

ナルトは、何が何でも決して諦めないという意思表示をした。

試験官のイビキが、本当にそれでいいのか、と問う。

ナルトは、不敵そうに笑った。

「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ……オレの……忍道だ!」

その言葉に、会場中の不安などは打ち消された。

その様子を見、イビキは他の試験官たちと頷きあい、残った人間に第一の試験の合格を伝える。

そして、第十問目の意図を、説明した。

『びっくりしたー。ナルったら、何をするのかと思ったわ』

『ナル、カッコよかった……』

『ああでもしないと、第一の試験、キリがないと思ったのか』

『あーいや、三代目に頼まれててな』

三者三様の反応に、ナルトが申し訳無さそうに切り出す。

『『『は?』』』

三人は、思わず聞き返した。

『“イビキの試験じゃが、長引きそうなら早めに打ち切らせてくれ”と』

後の予定がそれなりに詰まっているらしい、とナルトが苦笑した。

だが、返事が返って来なく、首をかしげて聞き返した。

『おい?』

返ってきたのは、とりあえずちゃんと印話にしていてくれてよかったと思えるほど、大きな声で。

『ナルに何やらせてるのよーっ!!』

と叫ぶヒナタの声だった。

ナルトが慌てて他の二人の様子を窺えば、なぜかごごご、という音が聞こえる気がした。

それからイビキが“いい話”をしている間、ナルトはヒナタたちの説得をするはめになった。

(……三代目、分かっててやらせたな!?)


遠くで笑った老人がいるかどうかは、定かではない。