十六話


「暗部の総隊長……それはまた大物が出てきたわね……」

大蛇丸も、木の葉にいた以上、その名の意味するところくらいは知っているらしい。

少しばかり、身を引いた。

「総隊長……?」

サスケとサクラは耳なじみが無い言葉に、首をかしげている。

だが、大蛇丸の反応から、それなりの人なのだということぐらいは分かる。

「また随分若い総隊長ね。私が抜けてから就いたのでしょう?」

「お前には関係ないだろう」

とん、と地面を蹴る。

次の瞬間煌は大蛇丸のいた場所に、大蛇丸はサスケたちと逆の方向に飛ばされていた。

(み、見えなかった……)

その速さにサスケたちは呆然とするばかりだ。

煌は大蛇丸に双闇を突きつける。

「言え。目的は何だ」

木に叩きつけられた大蛇丸は、それでも余裕そうに煌を見上げる。

「ふ、ふふ……さすが、ね……あの老いぼれじじいのお気に入りなだけあるわ」

次の瞬間、大蛇丸が叩きつけられていた木は消滅した。

燃えたでも切られたでもなく、消失、した。

「!?」

「木が……」

「次、三代目を侮辱してみろ」

煌の双闇が大蛇丸の腕に突き刺さる。

「その首、二度と繋がらないようにしてやる」

お前の背のようにあった木のように、と煌は小さく続ける。

煌はすばやく印を組む。

大蛇丸は何かを察し、逃げようとしたが、双闇によって地面に縫い付けられていた。

「焔魔降臨……焔魔呪縛」

煌が印を組み終え、術を発動した瞬間、ジュ、と音がした。

その痛みに大蛇丸は声にならない声を上げ、そしてへなへなと倒れこんだ。

それを見下ろしていた煌は、小さく舌打ちする。

「逃げたか」

双闇が僅かにずれている。

抜け殻となったそれは、時空間忍術でしまいこむ。

そして、煌は呆然と見ていたサスケたちの元に戻る。

「怪我等はないな?」

「あ、はい」

尋ねられて、サクラがこくこくと頷く。

煌は、そうか、といい、サスケの方に目を向けた。

「何か聞きたそうな顔だな?」

サスケがつばを飲む。

「あいつは、何者だ?」

「大蛇丸という、元木の葉の忍の抜け忍だ。その危険度はSを超えた危険人物。

何を企んでいるかまではまだつかめていないが……見ての通り、何か目的があって木の葉に来ている。

この先の試験、決して気を抜くな」

煌は持っていた双闇をしまいながら言う。

サスケとサクラは素直に頷いた。

「他に質問は?」

「……アンタは、何者だ?」

「さっき名乗っただろう。木の葉暗部の総隊長、煌だ」

「総隊長って、何なんですか?聞いたこと、ないんですけど……」

サクラが戸惑ったように言うと、煌は僅かに気を尖らせた。

思わずサクラは後ずさる。

「まだ、知る必要は無い。もう質問は無いな。じゃあな」

一方的に会話を打ち切り、ふ、と煌は消える。

後には悔しそうに顔を歪めるサスケと、まだ混乱しているサクラと、

気を失っている“ナルト”だけが残された。


いの、シカマル、チョウジはとっくに巻物を手に入れ、チョウジの修行に励んでいた。

途端、声が聞こえて、二人は動きを止める。

『慧、玲、聞こえるか』

「二人とも、どうしたの?」

まだ印話を習得していないチョウジには繋がらず、首をかしげた。

『聞こえます』

『何かありました?』

チョウジを制し、二人は煌の声に応える。

『七班が大蛇丸と接触した』

『え!?』

『それで?』

『俺が出た。七班に被害は無い。焔魔呪縛をかけた途端に逃げられた。

だが、何か目的があることだけは確かだ』

煌は簡潔に事実だけを述べていく。

二人はそれを黙って聞いていた。

『俺は三代目に報告に行く。凛にも後で伝えよう。

玲は引き続き言の鍛錬をしながら、あたりの情勢を探れ。

慧、ガイ班が心配だ。しばらく様子を見ていて欲しい』

『御意に』

『了解しました』

頼んだぞ、と言って煌の印話は切れた。

いのとシカマルは互いに頷きあって、シカマルは姿を消す。

「ね、いの。どうしたの?」

チョウジも会話が終わったのがわかったのだろう。

いのに尋ねる。

「やっばい奴が現れたって、煌様から報告が入ったのよ。

私達は今のところはこれといった指令は出てないけど……シカは命を受けて、任務に行ったの」

「シカマル一人で大丈夫?」

それはシカマルの力を侮っているわけではなく、純粋にシカマルを気遣うものだ。

いのもそれが分かっているから、チョウジを安心させるように、笑顔で。

「大丈夫よ!あいつも私も、そんじょそこらの奴に負けるほど、やわな鍛え方はしてないわ!」

そう言って、チョウジの背中を勢いよく叩く。

その痛みに咳き込みながら、チョウジも笑った。


凛にも警戒を怠らぬように告げて、煌は森を駆け抜けていた。

(大蛇丸の狙いはなんだ?)

全く読めない狙いに、煌は軽く歯をかみ締める。

この里には、自分の守るべき木の葉の民がたくさんいる。

大切な人も、たくさんいる。

(たとえ大蛇丸の狙いが何であろうとも)

走る速度を速め、煌は風となった。


(木の葉の里は、俺たちが守る)