十九話


第三の試験の予選試合が次々と行われていくのを見ながら、ナルトは大蛇丸を観察していた。

(サスケが戦った時に、若干興奮していたな……)

血を狙っている。

手駒として狙っているということか、それとも。

ナルトが考え込んでいると、いのの番が回ってきた。

しかも相手は、サクラだ。

『ナルー』

階段を降りながら、いのから印話が入った。

『何だ?』

ナルトがそう答えると、いのから嬉しそうな、楽しそうな、そんな返事が返ってきた。

『この試合、私のしたいようにやってもいい?』

したいように、とはまた範囲が広いとナルトは思う。

サクラは表面上、もしくは本音でもいのの親友だ。

力は隠しているものの、その付き合いには自分達とはまた違った繋がりがあるだろう。

その絆は、大切にしてやりたい。

そう思ったナルトは、一応のためにちらりとシカマルに視線を走らせる。

その視線を感じ取ったシカマルは、小さく頷いた。

つまりは、任務に支障が出るようなことはしないだろう、ということ。

それを確認して、ナルトは答えを返す。

『ああ。いのの好きにするといい』

『ありがとう!』

顔はあくまで真剣冷静そのものだ。

だが、声には喜色が十分に見て取れる。

(何をする気だ?)

心配一割、信頼二割、興味七割でナルトは二人の試合を見ていた。


結果は相打ち。

いのとサクラは共に、本選には出場しないことになった。

(十班は護衛対象がいないし、俺は本選に出るつもりだから……

あとは、ヒナかシカのどちらかが本選に残ればいいか)

そう結論付けて、ナルトは二階に運ばれてきたいのとサクラに駆け寄る。

いのはともかく、サクラの成長に、カカシは喜んでいた。

『サクラの成長を促したのは、煌様ですか?ありがとうございます』

『いや、サクラが自分で、強くあろうと、前に進もうとした結果だ。俺は何もしていない』

カカシの問いを否定し、ナルトも顔に笑みを浮かべる。

「この中忍試験に出してよかったと……心から思ってるよ」

カカシも、周りに向かって、微笑みながらそういった。


テマリがテンテンに勝った後、シカマルの試合になった。

サクラといのもとうに目覚め、応援に加わっている。

ナルトがヒナタと、どちらが勝つか決めるように言おうと思ったとき、ヒナタから三人に通信が入った。

『ナル、シカ、いの。お願いがあるの』

かなり真剣味のこもったその声に、ナルトたちはヒナタの声に耳を傾ける。

そして続きを促す。

『私は、ネジ兄さんと戦いたい。

でも、パネルはランダムだから……もし、違う組み合わせになった時、ナルの時空間忍術で、

組み合わせがそう見えるように歪めて欲しいの』

『それは構わないが……いいのか?お前とネジの間には確執があるだろう?』

『だからよ。私は、表の性格や環境が相まって、今までネジ兄さんと碌に話もして来なかった。

これはいい機会だと思うの。

私は、ネジ兄さんが、私が捨てた日向の家に何を思って、何のために戦っているかを知りたい』

ヒナタの声は、真剣だった。

ナルトたちはそれを静かに聞き届ける。

『多分、ネジ兄さんは私を殺す気で向かってくる……その後の治療を、いのに任せたいの』

『……ナル』

いのは迷った末に、ナルトに振る。

ナルトはしばらく黙った後、続けた。

『本気だな?』

『ええ』

ヒナタの声には迷いが無い。

そう思ったナルトは、ヒナタに許可を出した。

『分かった。いの、治療は任せる。俺も出来る限り手を貸そう。シカ、分かってるな?』

『分かってる。本選に二人は残したいんだろ?俺は勝ってくる』

それから、シカマルは既に始まっていた試合に意識を向けた。

シカマルとの印話が切れる。

いのはシカマルを応援しながらも、内心複雑そうに見える。

『ありがとう』

ヒナタも、三人にお礼だけ言って、印話を切った。


そう時間もかからない内に、シカマルは“シカマル”らしい方法で、音忍のキンに勝利した。

次は、ナルトとキバの対戦となった。

『煌様、お気をつけて』

二人分の応援を受けつつ、ナルトはキバアンド赤丸と戦った。

先に戦ったサスケが使った技を参考にしながら、ナルトはキバを倒す。

「ナ……ナルトくん……」

ヒナタが顔を真っ赤にしながら傷薬を渡す。

ナルトはそれを受け取り、お礼を言いながら小さく呟いた。

「……死ぬな。俺がいうことは、それだけだ」

ヒナタはもじもじとしながらもこくんと頷く。

それからナルトは、カカシたちのところへと戻って行った。

「では次の試合を発表します」

ハヤテが咳をしながら告げる。

ナルトは影で印の準備をした。

そして、その途中で手を止める。

モニターに、次の対戦が映しだされる。


“ヒュウガ・ヒナタ対ヒュウガ・ネジ”