「でも、実際問題どうするんだ?」

そう、シカマルは肩を竦めた。

「……どうしよう」

答えられず、軽く頭を抱えたのはヒナタ。

「もういっそドブに捨てちゃいたいくらいね」

冗談交じりにそう言ったのはいので。

「いや、いくら何でもそれは勿体無い」

冗談と分かっていつつも、あえてナルトは突っ込んだ。


彼らの目の前には、山と積まれた。

大量の、金があった。

小銭から貨幣まで、挙句の果てには、金塊さえも無造作に山積みにされている。

それも、巨大な部屋一杯に。

そこは、四人の家のやや奥にある、共用の金庫だ。

四人が稼いだお金は、すべてここに入れられている。

ヒナタやいのに至っては、もう放り投げるの域だが。

「マジで、今の里のシステムどうにかした方がいいと思うぜ。

高ランク任務が高報酬なのは分かるけどよ、

それをこなす人間は、忙しすぎてそんな大金使い切れねえんだから」

つまりはそれが原因である。

四人は暗部のトップであるので、当然こなす任務は高ランクのものばかりである。

しかも、最高ランクの任務をこなせる者はそれほど多くないというか、

その殆どを零班、そして分隊が請け負っている。

そして、それらの任務も、他の任務と同じくらいの量、

木の葉に依頼されてくるならば。

彼らには、そのお金を使っている暇などないのは、至極当然のこと。

もちろん彼らにも休暇というのはたまにある。

が、貯まるばかりの貯蓄は、

一日やそこらで到底使いきれるようなものではないのだ。

普段は、ナルトが時空間忍術で、

少々部屋を歪めて収納面積を増やすことでなんとか対処していたのだが。

さすがに、そろそろ消費方法を考えた方がいいということで、

四人は夕方(つまり暗部としての夜の仕事が始まる前)、

この部屋に集まっていた。

「ていうかそもそも、これってどのくらいあるわけ?」

いのが積み上げられたそれらを見上げながら、誰ともなく呟く。

「そんなの数えてないし。……ナル?」

ヒナタが肩を竦めたところで、ナルトが思い出したように、

部屋の隅を漁りに行った。

そこも既に埋もれてはいるものの、

バランス感覚がいいのか、ナルトは山を崩すことなく漁る。

そして少しして、数枚の紙切れを取り出した。

「何だ、それ」

三人はナルトに近寄って、それを覗き込む。

見ると、それらの書類らしきものには、文字がびっしりと書かれていた。

「何これ」

思わず、ヒナタも呟く。

その問いにナルトが答える前に、シカマルがああ、と声を上げた。

「最初は、マメに記入してたってことか」

ナルトは声に出すことはなく、頷く。

その言葉で、いのとヒナタも感づいて、なるほどと頷いた。

四人の中で、最も暗部歴が長いのは、当然のようにナルトだ。

つまり、この金庫と化した部屋に、最初にお金を入れていたのはナルトなわけで。

「こっちが日付で、こっちが金額ね。

……最初は、そんなに馬鹿げた額じゃなかったのね」

紙を指差しながら、ヒナタが確認する。

おそらくこの部屋を金庫として使い始めた頃

――今よりも部屋は遥かに小さかったはずだ――

の入金は、今の四人の平均所得よりも、かなりを越えてものすごい少ない。

普通の暗部と比べて、少し少ないくらいの額だ。

「そりゃ、その頃はナルだって新人だったわけだろ?

そりゃまだまだ少ないに決まってる」

当然と言えば当然だ。

ナルトも、シカマルの言葉に頷く。

「ああ。だから数えるのもそれほど苦じゃなかったんだ。

だが……暗部に入って三月くらいしたら、急激に額が増えてな。

その辺りから、数えるのを放棄した」

ナルトがややばつが悪そうに顔を背ける。

日付が一番最後の紙を確認して、いのが声をあげた。

「これは確かに、数える気も無くすわ。

この一ヶ月で、一体何回倍額になってるのよ」

ナルトは二、三日ごとに入金していたようだが、

その額が雪だるま方式のように、凄まじい勢いで膨れ上がっている。

記録はそこで終わっているが、その調子で増え続けている内に、

今のナルトのような所得額になったのだろう。

「……仕事に慣れ始めて、効率よく任務をこなせるようになって……

量が増えたんだな」

シカマルの言葉に、ナルトがやや遠い目をして頷く。

元々、才能の十分にあったナルトは、暗部に入ってちょうど三ヶ月くらいで、

一気に力を伸ばしたのだ。

それに応じるように、高ランクの任務が増え、量が増え、

それでまた力量が上がるものだから、また増えの繰り返し。

そして所得がうなぎのぼりになり、話は戻るのだ。

ナルトはやや唸りながら、

紙を持って部屋(もう巨大ホールと言っていい)を歩く。

「確か……記録を止めた時は、百分の一くらいだったと思うんだ」

部屋の大きさが。

「その時は、部屋の三分の一くらいが埋まっていた……と思う」

金によって。

それを聞いて、三人は再び、最後の紙に視線を戻す。

そこに書かれている額は、今よりも大分少ないが、それでもかなり多い。

今は、金庫の殆どが金で埋まっている。

つまり。

「……ドブ……じゃあ入りきらないな。

海に捨てるか燃やした方が早くねえか、これ」


誰も何も言えなかった。


持つ人ほど使う暇がない
(放っておくとこうなる)