二十話


(何の因果か……俺が歪めなくとも、こうなる運命だったのか)

ヒナタたちもそれが分かったのだろう。

偶然という名の、強力で凶悪な引力だ。

『行ってきます』

複雑な顔をしながら、ヒナタは戦いの場所へと向かった。

ヒナタはネジと向かい合って話す。

ネジは、ヒナタに、ヒナタは忍に向かないと言う。

「人は決して変わることなど出来ない!落ちこぼれは落ちこぼれだ……その性格も力も変わりはしない」

ナルトは拳を握り締める。

『ナル!』

ヒナタから、声が飛んだ。

『分かって、いる』

ナルトは拳を震わせながらも、ヒナタとネジから目を離さずそう言った。

シカマルといのからも気遣わしげな視線がナルトに送られてくる。

周りは当たり前だがそのやり取りには気付かず、じっと二人を見ていた。

ネジもヒナタへの圧迫を続ける。

「“自分を変えることなんてこと絶対に出来”」

「出来る!」

ネジの言葉を遮り、声を上げたナルトに、会場の全員が注目した。

ナルトはその視線に気付きながらも気にせず、言葉を続ける。

「人のこと勝手に決め付けんなバーカ!!!ンな奴やってやれヒナタ!!」

周りが呆然としながらナルトを見る。

ネジとヒナタも、ナルトを見ていた。

「ヒナタ!ちょっとは言い返せってばよー!!見てるこっちが腹立つぞ!!」

『……これは、本音だ』

最後に、印話でそう付け加える。

ヒナタは思わず見ていたナルトから目を背ける。

少し俯いてから、白眼を発動させながら顔を上げる。

『ありがとう』

私のために、怒ってくれて。

印話の言外に告げられた意味も、ナルトは正確に感じ取る。

それから、ナルトはいつでも印を組めるように構えた。

時空間忍術を使うための、印だ。

『煌様……?』

『何も言うな、カカシ』

疑問の声を上げるカカシに返事をせず、ナルトはじっとヒナタを見つめた。

ヒナタとネジは打ち合いを始める。

ヒナタは果敢に攻めていた。

何発か、攻撃がネジに入ってるようにも見えた。

だが、ナルトたちは、ヒナタのチャクラは既に点穴によってコントロールされていることに気付いている。

(ヒナ……頼むから、無茶はしないでよ!)

(ナルはヒナの考えていること、分かってんのか……!?くそ、歯がゆいぜ……)

シカマルといのは祈ることしかできない。

そして、ヒナタはついに柔拳の影響で吐血し始める。

ナルトは、ヒナタから目を離さず、ヒナタに声援を送りながら、印の体勢を保っていた。

何度倒れても、ヒナタは立ち上がる。

そして、ネジに向かって行った。

『ヒナ』

ナルトが、ヒナタに印話を繋いだ。

ヒナタは表面上表すことはなく、それに応える。

『お前は、日向を捨てたことを、悔やんでいるのか?』

『……いいえ。私は、そのことは後悔していない。

私は、あの日から、あなたに、ナルについていくことを決めた。

絶対の忠誠と、無償の愛をあなたに捧げることを、決めた』

どれだけ血を吐いても、傷ついても、ヒナタは立ち上がった。

『そしてそれは私が決めたことだから、後悔はしてないわ。

誰に何を言われようとも、譲ることの出来ない、私の道だもの』

『……』

『あなたと同じよ。私も……』

ヒナタはそこで一度言葉を切る。

そして、今度は声に出して、全員に聞こえるように言った。

「ま……まっすぐ……自分の……言葉は曲げない……私も……それが忍道だから……!」

『……ヒナ』

『演じることを決めたのは私、捨てることを決めたのも私。

だから、それによって生まれた思いを、私は受け止めなくてはならない』

印話を繋ぎなおして、ナルトとヒナタは印話を続けた。

『ネジ兄さんが抱く思いは、私が受け止めなくてはならないものなの。

だから、知りたかった。ネジ兄さんは日向を恨んでいるのか。それとも私を恨んでいるのか?』

ヒナタの体は既に限界だ。

もう内臓がぼろぼろになっている。

ナルトはそれを感じながらも、印話を続ける。

『そのために、ネジ兄さんと戦ってみたかった』

ばたりとヒナタは倒れる。

審判のハヤテが、試合を中止しようとした。

「……止めるな!」

ナルトが声を張り上げて、それを止める。

周りがナルトを非難しようとしたが、ヒナタは立ち上がった。

『ありがとう、ナル……』

もう立つのもやっとなヒナタは、それでもナルトに礼を言う。

『おかげで、ようやく……ネジ兄さんの思いが分かって来た、気がする……』

ヒナタは顔を上げ、それをネジに伝えようと口を開く。

だが、告げている途中で、ネジは耐え切れなくなったようにヒナタに襲い掛かろうとした。

『カカシ!』

ナルトはすぐさま印話で声を上げる。

呼びかけられたカカシは、すぐさまネジを止めるために走り出す。

それを見た他の上忍たちも、ネジを止めるために飛び出した。

その一瞬の間に、ナルトは時空間忍術を発動させる。

そしてすぐさま、ヒナタの傍に駆け寄った。

ヒナタは意識が薄れていく直前、その姿を視界に入れる。

少しだけ、微笑みながら、ヒナタは意識を閉じた。

『ネジ兄さんが……恨んでいるのは……日向でも……ましてや私でも、なかったの……』


その、言葉だけを残して。