二十一話


気を失ったヒナタを見ていたナルトに、ネジから声がかかった。

「しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ……変われなどしない!」

ナルトはそれに感じた怒りを抑えつつも、牽制ぐらいはしてやろうかと走り出す。

それを、リーが止めた。

リーは、勝負するならきちんとした試合で打ち負かしたほうがいいという。

ナルトはそれを聞き、少し気を静めた。

はらはらとしていたシカマルといのは、それを見て息を吐く。

「あ、早く、ヒナタの治療しないと!」

固まった場を動かすために、ナルトはそう叫ぶ。

それで、ようやく医療班たちが気付いたようにヒナタを運び始めた。

ナルトはそれを見送りながら、ヒナタが吐いた血に手をつける。

そしてその血を握りしめた手を、ネジに向けた。

「ぜってー、勝つ!!」

(ヒナが成せなかったこと、俺がしてやる)

ネジは鼻で笑うだけだった。

『玲、行くぞ!すぐに治療を始める!

今は時空間忍術でヒナの時間を止めているが、早く治療した方がいい』

『あ、はい!』

突然聞こえた声に、いのは慌てて返事をし、影分身を残して消えた。

『慧はここに残れ!……あいつの試合を、見届けろ。

何か異常事態が起こったら対処しろ。お前だけで対処できなければ、俺に印話を繋げ』

『了解』

シカマルもナルトの命に頷き、影分身を残して消えるナルトを見ていた。

そしてその視線を、“あいつ”に向ける。

(煌様と玲がいるなら、ヒナは大丈夫だろう……

しっかし、さっきからあいつ、ぶるぶるしてて怖えーんだよな)

我愛羅は、うずうずと身じろぎをしていた。


「これは……何かがおかしいぞ?血が、妙なところで止まっている」

急ぎながらヒナタを見ていた医療忍者が首をかしげる。

ヒナタの状態は、奇妙なところで停止していた。

まさか柔拳のせいではあるまいと、緊急治療室へと運び込む。

いざ治療を始めようと言う時に、外から声が上がった。

そして、治療室の扉が開く。

「おい、これから治療を……」

言いかけた医療忍者は、そのまま固まった。

「私も治療に加わるわ。それから、この方も」

示された先には、青年が一人立っている。

医療忍者には、二人とも見覚えがあった。

「煌様、玲様!?どうして?」

暗部の頂点に立つ、四人のうちの二人だ。

何度も病院に来ているので、医療忍者も知っていた。

「……三代目から、日向の嫡子の治療を手伝えと命が入った。

俺も戦いの場にいた。今は、俺の時空間忍術で日向の時間を止めている。治療に合わせて動かす」

それは、何よりも迅速に手術を行えるということだ。

そして、それによって手術の成功率が格段に上がる。

「凛様、は……?」

医療部隊統括であり、煌の補佐である凛がいない。

彼女がいればさらに成功率が上がるのに、と辺りを見回す。

「凛は、残念ながら遠方に出ている」

煌は、それだけ言った。

医療忍者はそれを信じて頷き、頭を下げた。

「協力、お願いいたします、煌様」


印話で連携を取りながら、煌と玲は手術を終えた。

結果は成功。

数日もすれば意識は戻るだろうと、医療忍者は判断した。

それまで、病院が責任を持って預かると言い、煌たちはヒナタを病院に預けた。

「玲、戻るぞ。向こうが気になる」

「はい」

す、と、二人はともに予選の場所へと戻った。


少しさかのぼって試験会場では、リーが我愛羅にぼろぼろにされていた。

諸刃の剣である八門遁甲を開き、我愛羅にやられなくても、既に体内がぼろぼろになっていた。

(こりゃあ、やべえな。そろそろ止めに入らせた方がいいか……?)

シカマルはカカシに目をやる。

だが、カカシたちが入る前に、ガイが介入に入った。

ガイはリーに迫る砂を、寸前で止める。

そこで我愛羅は戦いをやめたが、リーは気を失っても、まだ立ち上がろうとしていた。

そのリーを、ガイは涙しながら抱きしめる。

そして、医療班に運ばれていくのを見ながら、医療忍者の説明を受けていた。

我愛羅の攻撃によって左手足を潰されたリーは、もう忍としては生きてはいけないだろうということだ。

それを聞いていたシカマルは、少し考えをめぐらせる。

(普通の医療忍者じゃ、そうだろうな……だが、ヒナとナルでやれば、何とかなるかもしんねえ……)

現在木の葉に存在する最高の医療技術を持つ凛と、

時空間忍術でより迅速な手術を行わせることの出来る煌。

この二人がいれば、治せない怪我はそうそうないのだ。

だが、凛、ヒナタは重傷で寝込んだばかりである。

出来るとしても、当分先になるだろう。

(まあ、リーも体力を回復させないといけないから、どっちにしろ、後か……)

そう思いながら、シカマルは大蛇丸を見る。

(ったく、当分、俺らは休みなしだな)

はあ、とシカマルはためいきをついた。

そのシカマルに、チョウジが話しかける。

「ねえ、シカマル。僕、どうすればいい?」

「ん、ああ。次、お前の試合か」

シカマルはチョウジの対戦相手となる、音忍のドスを見る。

「下忍のお前じゃ、勝てないだろうな。適当に戦って切り上げて来い。

多分あいつも、お前を殺す気はねーだろ」

「うん、分かった」

チョウジは頷き、下へと降りていった。

それを遠目に見ながら、アスマがシカマルに話しかける。

「おい、ヒナタは、どうなったんだ?」

「連絡入ってないってことは、無事だろ。そうだよな?」

シカマルは、隣のいのの影分身に話しかける。

「そうねー今のとこ、何も聞いてないわ。多分大丈夫でしょ」

そういのが言った瞬間、ふ、と本体のいのが入れ替わった。

「お、お帰り。どうだ?」

「もちろん成功よ。今は病院で安静にしてる」

いのは笑顔でピースをする。

それから、試合に臨むチョウジに声援を送った。

「へえ、もう最後なの。チョウジとあの音忍……ってことは、前の試合は我愛羅とリーさん?

……大丈夫だったの?」

組み合わせを想像して、いのは若干顔を青くした。

「いや、かなりぼこぼこにされた。

多少、リーの自業自得のところもあるが……それは後で、ナルを交えて話す」

長くなるのだろう、と思ったいのは、それで頷いた。

そして今はチョウジを応援しようと顔を向ければ。


チョウジは目を回したまま、既にやられていた。