二十三話


刃は、息を潜めて耳を済ませていた。

目をつけていた砂の忍が、上司が言っていた怪しい奴と密会をしていたからだ。

聞けば、その怪しい奴は音のスパイで、砂と共謀して木の葉を滅ぼすつもりらしい。

(ナルトの予感的中じゃねえか。また随分とやばいネタ拾っちまったもんだ)

確実にこの情報は上に伝えなければならない。

そのまま息を潜めていると、奴らに見つかったらしい木の葉の忍が、砂の上忍と戦いを始めた。

優勢かと思われた戦いに、砂の忍が構える。

(やばい!)

『煌様、すぐに来て下さい!』

習いたての印話を、繋いだ。


玲が木の葉の忍、ハヤテを治療する。

辛うじて、一命は取り留めていた。

煌が刃の呼びかけにすぐさま応じ、瞬身で姿を表し、時空間忍術でハヤテの時間を止めたおかげだ。

そして玲を呼び、治療を命じたのだ。

「やはり、砂と音か……」

「なんだ、当たりをつけていたのですか」

刃は気が抜けて息をつく。

「まあな。だが推測だけだった。これで確証が持てた。

我愛羅は、確かに砂を纏った姿に変身したんだな?」

「はい、間違いないです」

我愛羅がドスを殺すのも、刃は見ていた。

木の葉の忍ではなかったから、手出しはしなかっただけだ。

『九奈』

煌は身の内の住人に呼びかける。

『尾獣を完璧には制御できていないようだ。満月に血が騒ぐというのも分かる。

放置しておけば、暴走して多大な被害をもたらす可能性があるな』

『そうか』

意識を現実に戻し、煌は対策を考え始めた。

「大蛇丸は引っ込んだようだ。

おそらく、中忍試験の頃、また姿を変えて来るだろうが……

刃は雪と交代で砂の上忍の見張りにつけ。一ヵ月後が本番だ。今のうちに休んでおくこと。

我愛羅には俺の影をつけておく」

「了解」

命を受け、刃は姿を消した。

その頃、玲が顔を上げる。

「応急処置は終了しました。あとは病院で安静にしておけばいいでしょう」

「ああ。だが、ハヤテは死んだと思われているはずだ。

暗部用の病棟に入れておいてくれ。搬送が終わったら、任務に戻れ」

「はい。煌様は?」

「……凛の元へ行って来る」

ハッとした表情の玲を置いて、煌は姿を消した。


月の光が差し込む病室は、僅かに明るくなっていた。

「……起きた、な?ヒナ」

ナルトが声をかけると、ヒナタはぱちりと目を覚まして、それに応えた。

「……うん、おはよう、ナル」

起き上がろうとするヒナタを、ナルトが制す。

「私、どれくらい眠ってた?」

「一週間くらいだな。本選までは、あと三週間くらいだ」

準備期間があと少しで半分に届くという頃、ヒナタは目を覚ましていた。

ナルトはヒナタが眠っていたことにあったことを粗方説明する。

「ごめんなさい。今、とても忙しい時期なのに……」

「ヒナが気にすることはない。ヒナが決めて、俺が許可したことだ。

今はゆっくり休んで傷を治せ。

二週間後は、否が応でも働いてもらわなくてはいけなくなるだろうからな」

「うん」

ヒナタは笑い、ナルトも笑った。

行こうとするナルトに、ヒナタが待って、と声をかける。

「ナルの……本選の一回戦の相手は、誰なの?」

ナルトは、先ほど、そのあたりを濁した説明をした。

しかし、ヒナタにまっすぐに見つめられて、観念する。

「ネジだ」

ヒナタは予想がついていたのかもしれない。

それでも、小さく息を呑んで、俯いた。

「私のため?」

「それもある。でも……」

ナルトはヒナタの顔に自分の顔を近づけて、小さな声で言った。

「あいつを、俺自身が許せなかった。だから、ちょっと性根を叩き直し行く」

に、と表でのいたずら小僧のような顔で笑って、ナルトは部屋の扉に手をかけた。

「だから、ヒナが気にする必要はない。お休み、ヒナ」

「……お休みなさい、ナル」

呟くように返事して、ヒナタはナルトを見送る。

(ナル……ありがとうって言ったら、それでもあなたはお門違いだと叱るのかしら……)

遠い月の光を見ながら、ヒナタはぼんやりとそんなことを思った。


「ということは、総合すると……」

「ああ。試合の最中に我愛羅が尾獣化して、内部から木の葉を崩壊させ、

その隙に乗じて音と砂が入り込み、木の葉を崩しにかかる……そんなとこだろうな」

雪と刃が集めてきた情報と、大蛇丸自身がこぼしていた言葉などを合わせて、

シカマルは最終的にそう結論付けた。

頷きあう二人の下に、いのが茶を持ってくる。

そして定位置に座って、いのも茶をすすり始めた。

「全く、決行する前から漏れるような計画立てて、どうするつもりなのかしらね」

「だから、目的は木の葉を崩壊させること、だろ?」

「それは分かってるわよ。でも、ずさんじゃない」

いのはまたずず、と茶をすする。

シカマルも苦笑しながら茶に手をつけた。

「んで、どうするんだ、ナル?」

「総力戦になるだろうな。

ヒナには早めに復帰して貰って、医療部隊の調整をさせた方がいいだろう。

俺も前線部隊の調整を急いでおく」

「ああ、それがいい。俺も伝えとく」

「でも、シカの部隊は、戦闘には参加しないんでしょ?」

首をかしげたいのに、シカマルはため息をつきながら説明した。

「総力戦つったろ。どの部隊もフルで参加だ。多少力の低い忍でも、住民の避難の手伝いくらい出来る」

「あ、そっか」

「いのの部隊も、特に情報伝達の面でかなり働くことになるだろうな。調整しておけ」

「オッケー」

いのは頷きながら、部隊の整理を頭の中で始めたようだ。

心此処に在らずと言った様子になっている。

そのいのを眺めながら、ため息をついた。

「まじでフル出勤だな。これ、手当てとか特別休暇とか出んのか?」

切実なシカマルを、ナルトはあくまで冷静にきる。

「出ないだろうな。これが本業なんだから」

「やってらんねー」

やけのみしているシカマルを見て、ナルトも苦笑しながら茶を飲んだ。

(さて、色々と、どうするかな……)


中忍選抜試験まで、あと三週間。