二十四話


ナルトは町を歩いていた。

変化をして、である。

ナルトは未だに、素顔で町に来ると要らぬ迫害を受ける可能性があるからだ。

買出し目的のナルトにとって、不必要な争いは避けたい。

よって、変化で煌に近い容姿、だが子どもの姿で町を歩いていた。

いのに頼まれたものの買出しを終え、家に戻ろうとして、ふと顔を上げる。

上から、聞きなれた声が聞こえた気がしたからだ。

何だろう、とナルトは気配を消して、上に登った。


カカシが、白髪の、背丈の高い大男と話していた。

ナルトはあまり見覚えのないその姿に、目を凝らす。

そして、気付かれない程度に息を漏らした。

(三忍の、自来也だ)

カカシからすれば師の師であるし、そもそも三忍は忍の間では有名だ。

知らない者の方が少ないだろう。

二人が話しているのはいいとして、問題は内容だ。

ただの世間話なら、ナルトもそこに留まったりはしない。

「ナルトはワシが預かる……」

内容が自分に関しているのならば、聞いておくに越したことはない。

気配を消したまま、ナルトは耳を澄ませた。

どうやら“暁”について話しているらしい。

(まだ活動は下火だというのに……さすが、自来也だな)

ナルトは素直に感心する。

「ナルトは中忍試験本選までの間、ワシが育てる」

ナルトが見る限り、カカシは限りなく困っているようだ。

首を振ることもできないし、かといって頷くこともできない。

自来也はナルトについてのことを知らないし、頷いたところで彼らからの報復は必至だからだ。

どうするべきかと悩んでいるカカシに、ナルトは助け舟を出すことにした。

『カカシ』

「!」

呼びかけると、カカシは突然のことに驚愕を明らか様にした。

それを怪訝に思った自来也が尋ねる。

「どうした?」

『態度には出すな』

「いえ……」

もごもごと口ごもりながら、カカシは否定した。

『煌様?』

『自来也と話してるな?……ああ、通りがかっただけだ、気にするな。

それより、俺について話しているようだが』

一瞬息を呑んだカカシのためフォローを入れてから、ナルトは続ける。

『三代目の元に向かうように言ってくれ。自来也を良く知っているのは三代目だ。

あの方が判断してくれるだろう』

助言を入れてくれた煌に礼をいい、カカシは命じられたとおりに伝えた。

「ナルトの奴は今、結構面倒くさいことになっていまして……三代目の元へ向かっていただけますか」

自来也はさすがに怪訝に思ったらしい。

だが、しばらくうんうんと悩んだ後、結論を出した。

「じじいには会う気はなかったんじゃがのぉ。まあ、仕方ないかの」

どうやら了承してくれたらしい。

カカシは心の底からほっとして、そしてナルトにも自来也にも言われたように、

サスケを鍛えるためにそこを離れた。

自来也が執務室に向かうのを見届けてから、ナルトも立ち上がった。

「どうせすぐ呼ばれるだろうけど……買い物は、家に置いて来ないとな」

手に持った買い物袋を見て、ナルトは苦笑した。


自来也から暁と尾獣、イタチ、それからナルトのことを聞き、

ナルトが厄介なことになっているとはどういうことだと尋ねられた三代目は、頭を抱えた。

(カカシのやつめ……いや、待て。まさか煌の奴の命令か?)

だとすれば、この件は自分に判断を任せるということである。

三代目は自来也をまっすぐ見る。

三代目にとって、自来也は愛すべき教え子であると同時に、信頼できる戦友である。

多少後が怖いが、彼なら“盟約”を守ってくれるだろうと、三代目は意を決した。

「……実はのぉ」

話したのは、ナルトは四代目のこと、九尾のことなど諸々のことは知っており、

そしてそれなりに実力を持っているということだ。

それから、大分躊躇った後、暗部だということ、うちはイタチはナルトの部下であることを説明した。

さすがに自来也は開いた口がふさがらなかったようだ。

呆然としたまま、三代目から聞いた情報を整理している。

「じじい、ぼけてないだろうな?」

「ワシはまだまだ現役じゃわい」

ちょっと胸を張って言い、それからどこともなく声をかけた。

「実物を見た方が早いじゃろう。どうせそこらで話を聞いておるのだろう、ナルト?」

「さすが。居場所は分かってなかっただろうに」

す、とナルトは三代目の隣に現れた。

それから、自来也に深々と礼をする。

「お初目にかかります、三忍の自来也様。うずまきナルトです。

父と上司と部下と主が大変お世話になりました」

「ワシもか」

かっかと三代目が笑う。

その洗練された仕草に、やはり自来也は驚いたままだった。

そして、顔をあげてナルトは煌モードに切り替える。

「同時に、暗殺戦術特殊部隊、総隊長兼、前線部隊統括兼、前線部隊第零班の班長、

煌きと書いて煌と申します。以後、お見知りおきを」

暗部らしく、相手を視界に入れたまま礼をした。

そのあたりで自来也はようやく情報の整理がついたのか、一つ咳払いを入れる。

「久しぶりに驚かせてもらったぞ。まさかミナトの子が子どもの頃から暗部を統括しとるとは……」

(いや、ミナトの子だからこそ、か)

自来也は一人納得した後、まだ自分を見ているナルトを見つめなおした。

「煌として、貴方様の持っている大蛇丸についての情報を提供していただきたく存じます。

この、木の葉を守るために」

大蛇丸という単語と、木の葉を守るため、という言葉に自来也は反応した。

自来也は三代目を見る。

三代目が頷いたのを確認して、自来也は煌に話を促した。


そして、その実力と行動範囲を知ることとなる。