二十七話


ざわざわと、観客がざわめく。

既に多くの人が集まり、本選に残った下忍たちも、試合会場中心に集められていた。

まだサスケはいない。

(本当にぎりぎりになりそうだな……遅らせるよう、三代目に言っておいてもらうか)

印話をヒナタにつなぎ、その旨を伝える。

了解、の声の後、ヒナタはもう一言付け加えた。

『ネジ兄さんは……変われるかな?』

『きっとな。あいつが、本気でそれを願うなら』

印話はそこで終った。

そして会場に、砂の里からやってきた風影が入場する。

三代目と挨拶するのを見て、ナルトは目を見開いた。

(……)

『どうした、ナル』

その様子に気付いた隣のシカマルが、印話でこっそり声をかける。

大分、だいぶ間が空いた後、ナルトは返事を返した。

『あの風影、大蛇丸だ』

『……はあ!?』

思わず素で声を上げそうになった自分を制し、シカマルはこっそり風影を盗み見る。

大蛇丸かどうかは、分からない。

だが、ナルトがいうのだ、間違いない。

ナルトは再びヒナタにつなぎ、一対一で印話と繋いで情報を回すように命じた。

『風影は大蛇丸の変装。全員、今は待機。決して気を抜くな』

『!! ……了解』

ヒナタとの印話が切れたのを確認してから、シカマルが再びナルトに繋いだ。

『動けないってのは……歯がゆいな』

『……ああ』

少しだけ空いた、ナルトの返事。

ぎり、と手を握り締めながら、印話を切る。

気付かれない程度に風影もとい大蛇丸を睨みつけてから、

シカマルは前口上を始めた三代目に注目した。

その後、一回戦を戦うナルトとネジを置いて、控え室へと移動していく。

その際、シカマルは一度だけ、ナルトの方を振り向いた。

シカマルの視線に気付き、ナルトも少しだけシカマルへ顔を向ける。

それから、他の人間には分からない程度に、微笑んだ。

それ以上、シカマルは何も言わなかった。

必要なかった。


ナルトとネジの試合が始まる。

ナルトは影分身をして、ネジに本体を見極めさせない戦い方に出た。

だが、ネジはそれをすべて打ち倒していく。

火影になどなれない、というネジに、ナルトが反抗した。

それに対しネジは、冷静のまま、言い返す。

「人はそれぞれ違う逆らえない流れの中で生きるしかない……

ただ一つ、誰もが等しく持っている運命とは……死、だけだ……」

どこか遠くを見つめるように言うネジに、ナルトはごくごく小さく息を吐いた。

(まだ、あのことを、引きずってるんだな……)

悟られないように拳を握り締めた後、再び影分身の数を増やして向かっていった。

ネジは柔拳を使った回天でそれを弾く。

その防御技に、会場の何箇所から驚きの声が上がった。

回天とは本来、ネジが知るはずのない技だったからだ。

そしてそのまま、ネジは八卦六十四掌の構えに入り、ナルトのチャクラを封じにかかった。

もちろん“下忍”のナルトに避けられるはずもなく、ナルトは叩き伏せられる。

それでも立ち上がり、反抗するナルトに、ネジは過去にあった日向の事件について話し始める。

日向一族の宗家と分家、反乱防止の呪印、

そしてヒナタの父、ヒアシを庇って亡くなった、ネジの父、ヒザシ。

それは十年前に起こった、一つの悲劇だった。

ぎり、とナルトは聞きながら再び手を握り締める。

(知ってるさ)

口には出さずに、ナルトは呟いた。

(忘れるものか)

どくりと、鼓動の音が聞こえる。

(だって、俺は……)

十年前、ヒナタは三歳、そして同い年であるナルトもまた、当時三歳。

そして、三歳とは。

(あの時、ヒザシの介錯をしたのは、俺だった……っ!!)

ナルトが暗部に入った歳だった。


幼くして暗部に入り、変化をしながら任務をこなし続けた日々。

ある日、ナルトは煌として、三代目に呼ばれた。

任務内容は、これから行われる雲との重要な会合に、三代目の護衛として出席すること。

それから、その会合で引き渡される、日向ヒザシの介錯をすることだった。

任務を受けた時は、大した任務ではないと思っていた。

他にも暗部は参加するし、里のための人殺しなら、厭わなかった。

だから、割と気楽に、煌はヒザシの介錯をするために、日向家に向かった。

ヒザシと火影が会話をいくらかした後、ヒザシは煌の元へやってきた。

介錯をする時間まではまだ少しあったので、煌は疑問に思う。

「何か、御用が?」

「君が、私の介錯をしてくれるという……」

「煌です。新参者ですが、手抜かりはないので」

それは、手元が狂って、生き延びることも、苦しむこともない、という意味だった。

里のためとは言え、これから殺されるというのに、怯えないわけがない。

死にたくないわけがない。

だが、この手は必ずその命を奪う。

だから無駄な抵抗はやめろとの意思表示もこもっていた。

しかしヒザシは、煌の予想に反して、安心したように。

「そうか」

笑ったのだ。

何かの音がした。

ちくりと、刺さるような、ずきりと、痛むような、ぎしりと、歯車がずれるような。

「どうか、頼むよ」


その時、確かに何かが変わった。