三十話


ざわざわと、ナルトとネジの戦いの興奮の余韻で、観客席はいまだざわめいていた。

しかし、次の試合のサスケは未だ来ていない。

しかし、ナルトはヒナタを通じて、事前に三代目に遅れる旨を伝えていたので、

三代目は慌てることなくその延期を伝える。

それで観衆の間には不満が広がったものの、特に事になるようなことはなかった。

続いてシノ対カンクロウの戦いも行われようとしたが、試合開始直前に、カンクロウは辞退を宣言する。

『……何が狙いなの?』

『あいつの武器はカラクリだからな。その仕込みを見せたくないんじゃねーか』

印話内でのいのの疑問にシカマルが答える。

『だろうな。傀儡師は相手の裏をかく。

そのカラクリを、大衆の前で見せたくないと思うのは当然だ。

……その後に、何か大きなものを控えているなら、なおさらな』

『!』

『なるほどね』

その会話にナルトとヒナタも加わり、顔を動かさない程度に視線を交わす。

それからシカマルは、ナルトに向けて声を飛ばす。

『で、次俺の試合になるわけだろ?どーすんだ』

『……好きにしていい。勝っても負けても』

『え?』

『いいの?』

シカマルの疑問に対するナルトの返答に驚いたのはヒナタといので、

二人は危うく顔までもナルトに向けてしまうところだった。

何とか抑えてから、ナルトの返事に耳を傾ける。

『ここまで来れば勝敗はさして関係ないし、

どちらでも、両方の意味で砂との間に摩擦は起きないだろ。シカの好きにしていい』

『あいよ。にしても、どうやって降りっかな……』

シカマルはある程度ナルトの返事を予想していたらしい。

特に驚きもせず、その思考は次に移った。

“めんどくさがりや”のシカマルでは、積極的に本選に参加することはないだろう。

しかし考える動作に移る前に、ナルトがにやりと笑う。

『心配するな』

「よっしゃー!シカマル頑張れってばよォ!!」

印話と殆ど重なって、ナルトの生の声が聞こえた。

ナルトの顔を見た瞬間に何となく予想はついていたものの、

それでもシカマル落下しながら悪態をつく。

『だからって叩き落す奴があるか!』

『よかったじゃなーい。考える手間が省けて』

その悪態に返って来たのは、ナルトの返事ではなく、いのの楽しそうな声。

声こそ届いていないものの、ヒナタも笑っていることは、雰囲気から感じ取れた。

『まあ、適当に、頑張れ』

最後にナルトから微妙な声援を受け取り、印話は切れる。

シカマルは地面に激突した形のまま、はあ、とため息をついた。

(ナルって、普段は冷静でまじめだけど……たまーに悪戯心を発揮するよなあ)

その体勢で、ぼんやりと対戦相手のテマリを眺める。

といってもテマリのことを考えているわけではなく。

(表の性格って、一から零まで演技じゃなくて、やっぱ素のナル織り交ぜてんだろーな。

じゃないと……いくら何でも無理だよな。色々)

少し体の力を抜いて。

(ああいう性格にしたのはやっぱり生まれのことがあるんだろーけど……

色々踏まえても、やっぱりナルって苦労性だよなー、損な性格してるよなー)

頭の一部はすごい勢いで回転しつつも、それでも他の部分で。

(それでも、やっぱナルには本心からついて行きたいと思ってんだから、俺も似たようなもんかね)

ひたすらナルトのことを考えていた。

それがやる気が零のように思われたのか、

業を煮やしたテマリが、試合開始の号を待たずに向かってきた。

それを、“下忍が避けきれる距離”に来るのを待ちながら、シカマルは小さく笑う。

それからすばやくクナイを取り出し、頭上の壁に打ち放ち、

不自然でないスピードで、そのクナイに飛び乗った。

「男が女に負けるわけにゃいかねーしなぁ……」

(ま、そのナルがせっかく許可くれたんだ)

「まあ……やるか!」

(たまにはこういうのもいいかもしんね)


テマリの攻撃を避け、シカマルは不敵に微笑んだ。