三十一話


テマリの追撃を避け、木陰まで走ってから、シカマルはぼんやりと空を見上げた。

(あー、この快晴じゃ、影はもろ見えだろうな)

それからテマリに視線を戻し、辺りを見回す。

“シカマル”に出来る術は、影真似の術のみ。

さてどうしようかと、シカマルは頭を働かせ始めた。

すると、またテマリが業を煮やしたのか、カマイタチの術を放ってくる。

それを受け止めながら、シカマルは口内でため息をついた。

(おいおい、そんな短気でどーすんだ。人生つまんなくなるぞ)

余計な世話だろうが、と自嘲して、風が止んだのを確認して、手を合わせる。

それは、シカマルが小さい頃からよくしていた癖だった。

親指を上にし、両手の指をそれぞれくっつける。

その形にすると、なぜかよく頭が回るのだ。

調べて貰ったこともあるが、理由はまだよく分からない。

今ではその形を取らなくても、周りから見れば大差ないレベルの知力を発揮できるが、

慎重に策を練るとき、シカマルは今でもこの形を取っていた。

『シカ、どんだけ手の込んだ策を練る気よ!?』

『いや、“シカマル”らしい策を何千通りも考案し、よりらしい選別するためのあれだろうな。

策を練るためというよりは、選び取るためだ』

『ふうん』

頭上でナルトたちがそんな印話を繰り広げているのは知らず、

(思考中は邪魔を入れてはいけないのが、仲間内での暗黙の了解になっている)

シカマルは思考を続ける。

そして日の位置が少し変わる頃、その思考は終わった。

シカマルが準備を終えたのを見たのか、テマリが挑発するように、もう一発カマイタチの術を放つ。

シカマルはその風を避け続け、木陰から木陰へと移っていった。

なかなか攻撃してこないシカマルに、テマリが焦れたようにまた風を起こしていく。

少しその攻防が続いて、そしてある時、シカマルがクナイで反撃に出た。

次々とクナイを飛ばして、テマリの注意がそちらにそれた隙を狙って、影真似の影を向かわせる。

だが、テマリはその影に気付いて、間一髪回避した。

そこでテマリは、影は一定距離しか伸ばせないのを知り、これ以上影は来ないと確信した。

「テマリ!上だ!!」

だが、待機席のカンクロウに呼びかけられ、頭上を見上げる。

そこに、足りない影を補うための、シカマルの上着とクナイで作られたパラシュートを発見し、

慌ててその場を離れる。

すぐにシカマルの影がそれを追いかけてきたが、何とか逃げ切った。

今までの影の限界線、日の高さを見ながら、テマリはここまでは影は来ないと確信し、

シカマルを倒すための策を練る。

分身の術で陽動を行うと決め、印を組もうとした瞬間。

テマリは、動けなくなった。

「フー…ようやく、影真似の術成功!」

と、シカマルが宣言し、テマリは驚愕する。

影は届かないはずなのだ。

「後ろを見してやるよ……」

と、シカマルが言い、首を回す。

テマリもその動きに連動して動き、自分の背後を見ることができた。

そこには、前の戦いでナルトが掘った穴を通り、確かに自分を捕まえているシカマルの影があった。

それで、今までのシカマルの行動が、全て自分をここに追い詰めるためのものだと知り、目を見開く。

シカマルが進むと、テマリも進む。

一歩ずつ二人は近づいていき、互いが目の前に来たところで、シカマルが手を上げた。

テマリがもうダメだ、と諦めて目をつぶった時、シカマルが降参宣言をする。

それには、テマリだけでなく会場全体が驚いた。

『……』

『まあ、シカらしいったら、シカらしいかな』

『シカマルらしいなあ』

『ったく、ここまでやっといて』

零班と分隊の面々さえも驚かせながら、シカマルは降参理由を告げる。

曰く、チャクラが足りなくなったし、もうめんどくさいとのこと。

もちろん、零班と分隊は、シカマルのチャクラがまだまだ残っていることを知っている。

つまりは。

『……だーっ!!あの、めんどくさがりやが!!』

いのの叫びが、悲しく零班の間に響き渡った。