試合はテマリの勝利で終了し、ナルトは“ナルト”らしく、シカマルに怒るために下に下りた。

「バカ!!!」

「うるせー超バカ!!」

表面上の会話の下で、印話も繋ぐ。

『お疲れさん』

『まあ、疲れたわ。いのに怒られそ』

『シカのバカーっ!!』

ナルトの印話の最中、シカマルの声はいのの叫び声に遮られた。

大音量だったものの、そもそも印話は防ぐ術というものがないので、

シカマルはまともにその声を食らった。

『何であそこでギブアップしちゃうのよ!』

『いや、だからめんどくさ』

『問答無用!!』

シカマルの返事を遮りながら、キンキンといのの説教が続く。

酷く微妙に眉間に皺を寄せているシカマルを見て、ナルトが苦笑した。

邪魔をしてはいけないと印話に介入はせず、軽く辺りを見回す。

そろそろ、頃合だろうと思ったのだ。

状況的にも、時間的にも。

少しして、ある方角を見て小さく微笑む。

その方向に、大量の木の葉が舞った。

その舞が収まったとき、その木の葉の中心には、影が二つ。

ゲンマに名を聞かれ、その片方は堂々と名を答えた。

「うちは、サスケ」

木の葉の名家の末裔が現れたことで、会場も騒然となる。

そして来たはいいが、大幅に遅刻したので、カカシが大丈夫かとゲンマに尋ねる。

元々、零班を通じて三代目に伝えてはいたので、それはサスケに認識させるためだった。

ゲンマが大丈夫だと頷き、カカシは表面上で、ほっとする。

ナルトは“ナルトらしい”声援をサスケに送ってから、

まだいのに印話で怒られているシカマルと共に、待機席に戻っていく。

のんびりと戻っていたが、途中で一度軽く目を見開き、階段の途中で、

一足飛びに駆け上がった。

ナルトに少し遅れてシカマルも気付き、その後を追う。

階段を登りきった先で、我愛羅と、我愛羅に、

賭けのために負けてくれるよう頼んでいた草隠れの忍二人が対峙していた。

今まさに砂に覆われんとしていた二人を、ナルトは蹴り飛ばしてはじき出す。

急を要する状況で、ナルトは出来る限り手加減したものの、二人は壁に激突して気絶した。

「……今度は、俺のこと、覚えているか」

ナルトの呼びかけに、我愛羅がちらりと視線をナルトに向ける。

その姿を確かに視界に収め、口を歪めるように、笑った。

「お前も……後で殺してやる……」

そのまま、のそのそと歩いていく。

シカマルには見向きもしなかった。

階段を下りていってから、ようやくシカマルが少し気を抜く。

「あっぶね、攻撃しちまうとこだった」

「ああ、殺気が充満してたからな。俺も少し危なかった」

「そーは見えないけどな」

軽口を叩くくらいには余裕ができたところで、シカマルは改めてナルトに尋ねる。

「さて、とりあえず差しあたって、あいつらどうする?」

と、親指で、ナルトが蹴り飛ばして気絶した忍びたちを指す。

「俺が預かっておく。後で事が落ち着いたら、いのに記憶を操作してもらって、帰そう」

ナルトが印を結び、二人は時空の狭間に取り込まれていった。

それから我愛羅の去っていた方、階下の方を眺めやる。

「……あいつが本気になったら、サスケはやばいな。だが、どうにも不安定な感が否めない」

「だな。ナルの見立てだと、あいつも木の葉崩しの一端なんだろ?

あんだけ不安定でどうやって使うつもりなのか」

ナルトの言葉に、シカマルも同意する。

しかしナルトは考え込むように俯いた。

「……不安定な力込みで、一端なのだとしたら……」

「え?」

シカマルは聞き返したが、ナルトは答えず、戻るために前に進んだ。

「そろそろ戻らないと怪しまれるぞ」

「そうだけど……どういう……」

言いかけて、シカマルもハッとしたように口を閉じる。

ナルトに並んで視線を向けると、ナルトは小さく頷いた。

「カカシのいる方に行こう。その方が動きやすい」

「だな」

そして二人は観客席の方に走った。


サスケがやや優勢で試合を進める中、ナルトとシカマルはカカシの元へ行った。

そこで、我愛羅は危険だから試合を中止させるように、声を出して言う。

それと重ねて、本題の方を印話で。

『この試合で、おそらく“来る”。

俺と慧はここにいるから、有事は……俺に我愛羅を追わせるようにしてくれ。

慧も途中まで連れて行きたい。表面上のために、サクラと……あとパックンを貸してくれ』

『御意』

と顔は動かさず、返事だけを返す。

その印話には、カカシが“ナルト”を落ち着かせるための言葉が被っていた。

配置変更の旨を、離れたヒナタといのにも伝える。

少しためらうようにしてから、ナルトは続いてヒナタに言葉を送った。

『ヒナ』

『はい』

『……三代目の、思うようにさせてやってくれ』

『いいの?』

問い返したヒナタに、ナルトはまた少し間を空ける。

だが、今度は確かに決意を言葉に込めて。

『三代目は、俺の恩人だ。あの方のために、出来る限りのことはしたい。

……あの方が望むのなら、叶えてやりたい』

視線を合わすことはできない。

だが、ヒナタはナルトの目には、確固たる意思が宿っているだろうと推測する。

『それが、ナルの結論なのね』

『ああ』

ヒナタの確認にも、迷いない答えが返って来る。

ヒナタは隣に座っているキバに気付かれない程度に、少しだけ口元を歪ませた。

『あなたの決めたことなら、私は従うわ』

『……ありがとう』

その言葉には幾つかの意味を込もっていた。


試合会場では、サスケの千鳥が我愛羅の砂の殻を突き破っていた。