4.隠れ鬼


螺旋を探すのが日課になったヒナタは、毎日周りの人間を観察していた。

アカデミーでは女子と男子でカリキュラムが違うので、少し接点が少ない。

だからこそ、限りある共通の授業と、休み時間はひたすらそれに専念していた。

“日向ヒナタ”は引っ込み思案でもじもじしていて、よく一人でいることが多い。

そう思われていたこともあって、特に周りとの摩擦もなかった。

時々、お節介なクラスメイトやら例のいじめっ子やらの干渉もあったが、

なるべく後味が悪くならない程度にあしらっている。

力を隠し、紛れ込むこと……それが、螺旋の命であったのだから。


宣言どおり、それから黒い鈴が鳴ることはなかった。

やはり、見つけるまで来てくれないのだろうか。

会いたくて、会いたくて、ヒナタは一心に探し回った。


「見つからないなあ……」

放課後、ヒナタはアカデミーの屋上でため息をついていた。

もう螺旋を探し始めてから一週間は経っている。

それでも、片鱗もつかめなかった。

相手が螺旋なので、そう見つかりはしないと分かってはいるけれども。

「はあ……」

ため息を止めることはできなかった。

しばらくそうして夕焼けを眺めていたのだが、不意に、何かがヒナタの感覚に引っかかった。

辺りを見回して、それが近くではないことを確認する。

そして、白眼を発動させた。

発動させた瞬間、ヒナタの体がびくりと震えた。

感じるのだ。

鋭く、重く、冷たく、どこまでも暗闇のような……殺気。

こんなもの、アカデミーにあるはずがない。

あっていいはずがない。

でも、この体を駆け抜ける感覚はなんだろう。

分からない。

知らず知らずのうちに、ヒナタはその方向へ向かって駆け出していた。

そして、ヒナタが動き出した瞬間、その“何か”も動き出した。

その気配はすさまじい速さでどんどんアカデミーから離れていく。

白眼がなければ、彼に鍛えてもらった力がなければ、とうに見失っていただろう。

わけの分からない衝動を抑えたくて、原因を知りたくて、ヒナタは必死に追いかけた。


もう陽が沈みかけたころ、その気配は急に消えた。

それは突然、掻き消されたように。

気配が消えた場所へ、ようやくヒナタが追いつくと。

そこには、深く暗い森が広がっていた。

「ここ、確か……帰らずの森……?」

授業で聞いたことがある、とヒナタは記憶を掘り起こした。

確か、禁じられた森と同じく、一般の人間、さらには忍までも立ち入り禁止となっている区域。

入ったら最後、生きて戻ることはできないといわれている。

けれど、確かにここで気配は消えた。

つまり、おそらく気配の主はこの中に入ったのだ。

少しだけ迷った後、ヒナタは辺りに誰もいないことを確認して、中に足を踏み入れる。


歩いている内に陽は沈み、森はほとんど真っ暗になっていた。

木々の間からかすかにのぞく、星だけが光源である。

本当に、迷ったら生きて帰れないかもしれない。

……生きて帰らなければ、あの人には、もう、会えない。

それは、死以上に苦しいことだった。

でもなぜか、足を止める気にはならなかった。

体中の感覚が、早く進めとせかしている。

行くべき方向を指し示している。

なぜなの、というヒナタの問いに答える者は、誰もいない。

永遠に続きそうな森を、ひたすらヒナタは歩き続けた。


ある時、違和感を感じてヒナタは足を止めた。

何かが違う、と漠然に感じる。

見た目的には、何も変化はなかった。

けど、感覚が、ここだ、と告げている。

何がここにあるのかは分からない。

でも、確かにここには何かある。

そう確信したヒナタは、白眼に注ぐチャクラを増やして、力を込めた。

すると、空間が歪んだような、時間が戻ったような、そんな捩れを感じる。

眼に見えたものを他の感覚で感じるのは、白眼の力の一種。

多分、目指していたところは間違っていない。

ヒナタは、チャクラをこめて、その捩れを感じる場所に向かって手を伸ばした。

途端、急に手を引っ張られて、前に倒れかける。

そして倒れる前に、ヒナタを支える手があった。

「よく、俺を見つけたな」

頭上から、そんな声がヒナタに降ってきた。

「まさかもうここまでできるとは思っていなかった」

かすかに聞き覚えのある声。

けれど、それ以上に覚えのあるこの感覚。

ヒナタがゆっくりと顔を上げると、そこには、月より眩い金髪と、海の様な青い目。

姿だけは、何度も見たことがあった。

けど、違う。

その存在感が、圧倒的に違う。

ずっと体を駆け巡っていた何かが、収まった気がした。

感覚的に、自分はあの気配の持ち主が分かっていたのだろうか。

何よりも捜し求めた、愛しいこの人の気配を。

「俺の領域へようこそ、日向ヒナタ」

あの人の気配を持って、あの人とは違う姿をして。


うずまきナルトが、そこにいた。


隠れ鬼
(ようやく見つけた)