6.永遠を誓う


最初は、本当に、ただの気まぐれだった。

たまたま任務帰りに一息ついたら、そこにいた彼女は自分の術を察知したという。

それはとうの昔に、失われた白眼の真価。

長いこと、そんな才を発揮したものはいなかったと、書物が語っている。

だから、あんな鳥かごの中で腐らせるには惜しいと思ったのだ。

そして手を伸ばした。

彼女がその手を握り返した時に、全ては始まっていたのかもしれない。


家に招いてから、彼女は忠実に毎日自分の家を訪れていた。

基本的に俺は任務で家にいないから、代わりに影分身を置いている。

どうやら真面目に勉学に励んでいるようだ。

時に影分身に相手をさせ、体も鍛えさせて。

夕方になれば瞬身で家の近くまで送る。

そんな生活を一ヶ月以上続けていた。

どうやら彼女はそれなりに力をつけだしてきたらしい。

それは、相手をさせている影分身の報告から、よくわかっていた。

だから。

「ヒナタ」

「何?」

ある日、彼女に呼びかけた。

「表に出ろ」

「え?」

「修行の成果、見てやる」

そう言ってやれば、彼女は喜色満面で頷いた。

その顔に、体のどこかで音が鳴っていることに気づいたのは、少し前の話だ。

「全力で来い」

「はい!」

そう言って、ヒナタは飛び掛ってきた。

その動きに、一ヶ月前に見られたような無駄はない。

確実に力を増している。

時折使っている忍術も、もはや自分の部下と遜色ない。

次々繰り出してくるそれらを、いなしたりかわしたりしながら、冷静に分析した。

これなら。

しばらくやりあっていると、チャクラ切れだろうか、少し息を乱し始めた。

面構えが変わる。

どうやら次を最後の一撃と決めたらしい。

「はっ!」

それは彼女が先天的に得意とする、水遁。

辺りの水蒸気を一気に液化させ、幾つかの部分に分かれたそれは。

まるで、昔読んだ、頭が八つある生き物のようだと、そう思えるくらいには。

まだ、余裕があった。

だが、ここまで頑張ったその姿に敬意を表し、いなすでもかわすでもなく、初めて受け止めてやった。

影分身を何体か出し、その全員で水遁を裂き、終わった瞬間に影分身を消して。

そして俺は、ヒナタの背後にいた。

影分身が消えて初めてそのことに気づいたヒナタは、慌てて振り返る。

「私、だめ、だったのね……」

しょぼん、と、沈んだ。

「いいや」

その声に、彼女は顔を上げた。

「合格だ。お前の力量は既に暗部の基準を超している」

その言葉に、彼女はまた顔に笑顔を乗せる。

ああ、まさか、この自分が。

書物では知っていても、全く実感とかはなくて。

むしろ、任務のために利用して、非情とさえののしられて。

それが当たり前だった、この自分が。

この笑顔を、愛しいと、思うなんて。

所詮は自分も人の子だったということか。

苦笑しそうになるのを抑える。

気を引き締め、彼女を見据えると、喜んでいた彼女は佇まいを正す。

「誓え。その身、肉から骨まで、里のために使うと」

「誓います」

そう言って、彼女は俺の前にひざまずいた。

「この身、一片の骨になろうとも、里のために尽くしましょう」

その言葉にはまだ満足しない。

誓わせてやる。

知ってるか?

俺は欲しいものは必ず手に入れるんだよ。

にや、と、跪いている彼女にさえ、気配で分かるくらいに笑って。

「誓え。その心、死まで俺と共に在れ」

一度手に入れたからには、逃しはしない。

これには彼女も驚いたようだ。

顔を上げ、眼を見開いて。

まるで耳を疑うのかのように俺を見た。

ああ、その表情さえ、愛しく思えるようになってしまった。

「ヒナタ」

彼女の目線まで、俺も屈んで、名を呼んで。

あの時と同じように、その顔に優しく手を当てて。

俺ができる限りの、笑みをたたえ。

「愛している」

そういうと、彼女の目端が僅かに歪んで。

俺に飛びついた。

「誓い、ますっ」

その体勢上、彼女の顔は見えないが。

「この心、死までと言わず、死後まで、貴方と共にあり続けることを!」

多分、泣いているのだろうと思う。

少しだけ震えながら、俺に抱きついているのだから。

その体は温かくて。

「誓ったな」

俺も彼女を抱きしめ返して。

「俺も誓おう」

きっとこれは最初で最後の誓いだ。

「お前から手を離すことなどしない。たとえそれが死であっても。

どこまでも共に歩み、お前を愛すことを誓う」

人の体温が心地いいなどと思ったのは初めてだった。

「はい!」

心から幸せそうに返事をする、声も。

強く強く抱きしめて、それから唇に口を落とす。


腕の中にいる、愛しい人に。


永遠を誓う
(誰にも渡すつもりは、無い)