9.嘘生まれの金色


物音がして、ナルトは目を覚ました。

部屋を出れば、ヒナタが朝食の準備を進めている。

「起こしちゃった?」

「いや、いい。早いな」

昨日も任務があったばかりで、二人は夜明けが近いころに眠りについた。

そして今日も、朝から下忍の任務がある。

「ナルトの役に立てるなら、これくらいどうってことないわ」

「そうか」

ナルトは、血塗れになって、洗濯機に入れておいた暗部服を取り出した。

とりあえず色は落ちている。

臭いもない。

それを確認して、ナルトはそれを干すために表に出した。

隣にヒナタの暗部服も干してあるのを見て、その状態を確認する。

しばし眺めた後、ナルトはヒナタに一声かけた。

「ヒナタ」

「はい」

「血ついた暗部服洗濯する時は、前の日に洗剤溶かした水に漬けておくとよく落ちる」

「あ、はい!」

了承の返事。

自分の分を干し終わって、ナルトは家の中に戻った。

「まあ細かいことは追々だな。そのうち慣れる」

「ありがとう」

ヒナタは礼を言いながら、焼けた卵を皿へと移した。


朝食を取った後、ナルトは下忍用の忍具を足のポーチに、

暗部用忍具を体のあちこちに忍ばせて、最後に額当てをした。

オレンジ色のツナギは、

いつもナルトが“うずまきナルト”であるときに着用するものだ。

「本当、いつ見てもあなたの演技には感服するわ」

ヒナタはしみじみという。

ナルトはにやり、と笑う。

「伊達に何年も暗部を騙してない。じゃあな、ヒナタ。行って来る」

ナルトの方が集合時間が早い。

担当上忍が遅れてくるので、結局の任務開始時間は大体ナルトたちの方が遅いのだが、

集合時間は早い。

七班のメンバーは律儀に時間通りに集合する。

ひらひら、と手を振ってナルトは家を出た。

それを見送ってから、ヒナタも出かける準備を整える。

「さて、私ももう少ししたら、行かなくちゃ」

ナルトと同じように下忍用と暗部用の忍具を分けて装備し、

それから鏡の前で“表”の顔をつける。

ちゃんとできていることを確認してから、ヒナタは満足そうに家を出た。


今日の七班の任務は探し物だった。

依頼主いわく、とある森で落としたらしいイヤリングを探して欲しいらしい。

木の葉に依頼する金があるなら使用人にでも探させろ、というのがナルトの意見だ。

「ナルトー?あったー?」

「ないってばよー!サクラちゃんはー?」

「あったら聞いてないわよー!サスケくんはー?」

「ない」

会話は叫ぶような大声だ。

というのも、森が広すぎて、散って探しているため、叫ばないと届かないのだ。

ナルトはチャクラの多さを生かし、三体ほど影分身を作って探させている。

本当は、とっくに見つけている。

だが、“うずまきナルト”はまだ見つけていないのだ。

ただ、自分が見つけただけ。

そうでなくてはならない。

だから、自分はイヤリングがある場所からどんどん遠ざかりながら、

何もない草の根元をごそごそと探しているのだ。

途中、“ナルト”が一人姿を消した。

離れて探しているサクラたちはもとより、

下忍に任せて森の入り口で本を読んでいるカカシも全くそれに気付かなかった。

その様子に、残っていた“ナルト”は、ため息をついた。

数分後、“ナルト”が一人増えた。

その様子は、他のナルトと変わらない、草まみれで疲れた顔だ。

だが、その“ナルト”は、他のナルトに比べて、

ホルスターに入っているクナイが一本だけ少なかった。

それだけだった。


「あーっ!!」

日が傾き始めたころ、“ナルト”が大声を上げた。

それに呼応するように、“ナルト”は一人になった。

ばたばたと森の外にいるカカシの元へ走っていく。

「カカシ先生、これだってば?」

「んー?」

カカシは本から顔を上げ、ナルトが持ってきた宝石のついたイヤリングを見る。

見つかったのかと、サスケとサクラも森から出てきた。

カカシはしばらく見た後、大きく頷く。

「これみたいだな。よく見つけたな、ナルト」

カカシがわしゃわしゃと、自分の金髪の頭を撫でる。

ぴっと人指し指を天に向けて立て、大声で。

「オレ、一番だってば!」

嬉しそうに、笑った。


「それにしてもナルト、アンタ最近探し物が上手くなったわね」

「うんうん。頑張ってるな」

帰り道、サクラがそういいながらナルトをほめた。

カカシも嬉しそうに頷く。

サスケは、特に興味はなさそうに横を歩いていた。

「えっへん。オレってばさ、オレってばさ!

“探しもの”が上手くなるように特訓してるんだってば!」

「へえ、どんな?」

「いくらサクラちゃんにだって、秘密だってばよー」

にんまりと、嬉しそうな笑みを浮かべる。

歩きながらちらりと隣に見える森に目をやった。

誰かがいる気配はない。

残されたクナイが、一本、木に突き刺さっているだけだった。


「解散!」

カカシがそういった後、班員の姿が見えなくなった頃に、来た道を戻った。

そして、そこに刺さっていたクナイを一本抜く。

「こんなあからさまなクナイにすら気付けないのか」

声に出して落胆する。

これは本格的に、三代目に忍の再教育を提案した方がいいかもしれない。

クナイをあるべきホルスターに戻し、再び帰路を取った。

今日の任務を受ける際にでも進言しよう。

もう“探しもの”はしたくないが。

夜の“探しもの”に、ろくなものはないのだ。


夕日を跳ね返す金色が、揺れた。


嘘生まれの金色
(嘘の上に立つ者はそれが嘘だとは気付かない)