取るに足らないこと、足ること


「くだらない」

ナルトは、はっきりとそう言い切った。

その言葉に、突然変わったナルトの様子に、サスケは唖然とする。

「何……だと?」

「くだらないと言った。お前の復讐どうこうも、俺と対等だとかじゃないとか、そういうこと、全てが」

自分の全てをかけている復讐を、くだらないといわれたサスケは、

先ほどまでの違和感を忘れて、いきり立った。

「お前に何が分かる!最初から何も持たなかったお前に、失うものの辛さが!」

拳を握って震わせる。

しかしナルトは、相変わらず興味無さそうにため息をついただけだ。

「俺にお前の気持ちなど分からない。俺はお前じゃないからな。

しかし俺だとて、大切なものを奪われたら、確かに腹が立つだろう、相手を憎むだろう」

ナルトは少し遠くを見るように目を細める。

後始末の手配を任せている彼女は、もうすぐここに来るだろう。

彼女を失うことなど、考えられない。

まるで自分を相手にしていないナルトに、サスケは再び怒鳴ろうとする。

「だから、」

続けようとした言葉は、ナルトの声によって遮られる。

「だが、それは俺の感情だ。お前に関することはどうでもいい。くだらない。興味ない」

ぴしりと、サスケは固まった。

「お前が誰を憎もうが殺そうが、殺されようが、俺にとってはどうでもいいことだ」

今度こそ完璧に、サスケは我慢がならなかった。

その余裕顔を叩き潰してやろうと、印を組む。

ナルトはそれを興味なさげに見てから、トン、と地面を蹴った。

次の瞬間、サスケは気を失っていた。

背後には、ナルトがいる。

「だが、任務だ。任務には従わなければならないからな」

サスケがどさりと地面に倒れるのを、やはり興味なさげに見届け、それからどこともなく声をかけた。

「終わった。出てきていいぞ」

その声で、すぐにナルトの隣に暗部が降り立った。

「下忍の回収、敵の手勢の捕縛、滞りなく終わったわ」

「そうか」

ナルトは報告を聞きながら、影分身と変化を同時にする。

そこには“うずまきナルト”と螺旋がいた。

それからすぐに、他の暗部たちが続々とやってくる。

「総隊長、ご命令を」

「両名とも連れて行け。うずまきナルトは他の下忍と同じく、病院へ。

うちはサスケは治療を終えた後、情報部隊へ連れて行け。帰るぞ、珠影」

「はい」

命令を出すと、螺旋は珠影と共に、その場から消えた。


里へと戻りながら、珠影はこの後の予定を確認する。

「処理は別班に任せるとして、私たちはこれからどうするの?」

「どうせ病院には影が残る。お前のところにも俺の影を変化して遣わせておく。

音に出向くぞ。木の葉に数々のなめた真似をされた貸しは、きっちり返す」

螺旋が、小さく笑う。

珠影は影に関しての礼を言った後、また同じく小さく笑った。

しかし、あるとき、ふと首をかしげた。

「うちはサスケはどうなるの?」

「さてな。情報部隊の判断に任せるが、うちはの生き残りだからな。命は断たれないだろう」

珠影は若干不満そうな顔をする。

(これだけ螺旋の手を煩わせといて、お咎めなしなんて……理不尽)

だが、その心中も察していたのか、螺旋は安心させるように笑った。

「だが、里抜けをしておいてただで済むはずがない。

脳の中を探られるか洗われるか、あるいは血を残すために実験に使われるか。

まあ、もうまっとうな忍者には戻れないだろうな」

にやりと、螺旋が笑う。

その言葉と笑顔に、珠影の頬には僅かに赤みが差した。

その様子を見て、螺旋は笑みを深める。

「お前が懸念することなど、何もない」

全て、俺が取り払ってやる。

言葉の裏の意味まできっちりと読み取れた珠影は、恥ずかしくなって、少し顔をそらした。

その様子を楽しそうに眺めながら、螺旋は先ほどサスケに言ったことを思い出した。

(俺の大切なもの。里……そしてヒナタ。誰にも奪わせはしない)

だが、たった一つ、大蛇丸には恩人を奪われてしまった。

まあ、恩人が自ら一騎打ちを望んだのだが、だからと言って恨めないわけじゃない。

(痛めつけてから、殺してやる)

したことを、後悔させてやるぐらい。

それほど、自分の庭に手を出した罪は重い。

里に、三代目に手をかけた罪は重い。

もう、螺旋を止めることのできるものはいないのだ。

にやりと、もう一度笑う。

「……どうしたの、螺旋?」

彼女以外には。

顔を戻した珠影は、楽しそうに、嬉しそうに笑っている螺旋を見て、首をかしげた。

「なんでもない。行くぞ」

「……はい」

否定して、先を促す。

珠影は、少し不思議に思いつつも、従順に頷いた。

足を速める。

自分の一番大切なもの。

ヒナタ。

彼女は、決して奪わせない。

誰もが、奪うなんて気を起こさせないくらい。


見せしめに、大蛇丸をこれ以上ないほど叩き潰してやると、螺旋は決意した。


取るに足らないこと、足ること
(区別ははっきりしている。自分に大切なものに、関わるか否か)