5.鈍色の白銀


何か音が聞こえた気がして、陽夢は目を覚ました。

ゆっくりと目を開ければ、そこには暗闇が広がっている。

どうやら夜らしい。

ナルトは暗部の任務であるだろう時間帯。

もう一人の住人に呼びかけてみたが、返事はない。

どうしたのかと、横になったまま軽く首をかしげる。

クオはほぼ常に陽夢の傍にいるよう、ナルトに命じられている。

よっぽどのことがなければ離れないはずだ。

起き上がろうとしたが、力が入らず、陽夢はそのままもう一度倒れこんだ。

まだ回復しきっていないらしい。

どうしようかと頭をめぐらせる。

陽夢には、力を使った後、目覚めたあとに飲まなければならない薬がある。

それはあくまで足りない力を補うための、栄養剤のようなものだ。

だが、きちんと飲まなければ回復が遅れる。

そうなるとナルトと話す時間が減る。

陽夢にとって、それはなるべくなら避けたいことだった。

何とか動けないものか、と体を動かそうとしてみたが、上手くいかない。

どうしようかと思っていると、不意に視界の端にぼんやりとしたものが映る。

クオかと顔を転がすと、そのぼんやりしたものが鮮明に見えてきた。

人の形をしている。

濁ったような、鋭いような、微妙な銀色が見える。

だがそれはクオでも、ましてやナルトでもない。

その誰かが口を開くのを、陽夢はじっと見ていた。


ナルトはシャワーを浴びていた。

任務はとどこおりなく終了し、すぐに帰宅。

返り血で血塗れだったため、陽夢の元に顔を出す前に血を落としていた。

一通り臭いも落ちたことを確認して、乱暴にふき取る。

それから、水を多少滴らせながらも、陽夢の部屋に向かった。

「クオ、陽夢の様子は」

「よく眠っている。順調に回復しているぞ」

クオに注意されて、もう少し頭の水気をふき取ってから、陽夢の顔を覗き込んだ。

すると、タイミングよく陽夢の目が開いた。

「陽夢」

「……ナルト?」

起きぬけでやや混乱しているらしい。

そう思ったナルトは、陽夢の手を取って頷いた。

「調子はどうだ」

陽夢はしばらく目を瞬かせると、にこ、と笑った。

「私は大丈夫。ナルトも、けが、してない?」

その笑顔に、ナルトも多少顔を崩して答えた。

「俺がすると思うか?」

「思わない」

くす、と陽夢が笑う。

クオはその様子を微笑ましそうに見ていたが、少し見届けた後にナルトに食事を取るように促す。

「分かってる。準備は出来てるのか?」

「もちろん。陽夢、何か欲しいものはあるか」

「お水が欲しいな」

陽夢の言葉に、クオは頷いて部屋を出る。

「俺も飯をとってくるからな」

頷いて、陽夢はナルトを見送った。

少しして、クオが水差しを持って陽夢の元にもどってくる。

「陽夢、水だ」

「ありがとう」

クオに支えてもらって体を起こす。

それからゆっくりと喉を水で潤した。

少し息を吐いて、陽夢は支えてくれているクオのほうを見る。

「ね、クオ。クオはずっと私の看病をしてくれてんたんだよね」

「ああ。それがどうかしたか?」

クオが頷いたのを見て、陽夢は僅かに眉を下げた。

そして笑いながら首を振る。

「……ううん。ただ、ありがとうって言いたくて」

「気にすることではない。ナルトの命だけでなく、我は望んで陽夢の世話をしている」

「うん、だからこそありがとうって」

今さらだな、とクオが笑った。

食事を終えたナルトが顔を覗かせる。

「どうした、二人とも」

「ううん、いつもありがとうって話」

「今さら、だろう?」

「ああ、今さら、だな」

二人の声を聞いて、陽夢は笑った。

「本当にありがとう。これからも、ずっと傍にいてね」

「当たり前だろう。俺は絶対にお前から離れたりしない」

ナルトが陽夢を抱きしめる。

陽夢がゆっくり抱きしめ返した。

陽夢の視界の端で、同じようにクオが頷いている。

もう一度、できるだけの笑顔を浮かべた。


「お休み、陽夢」

「おやすみなさい、ナルト、クオ」

もう夜は更けきっていたが、少しでも休むためにナルトは部屋を出た。

そのナルトと、クオに挨拶して陽夢は目を閉じる。


焼き付けられた白銀を見た気がして、陽夢は眠りについた。