6.黒鳥の止まり木


ふ、と陽夢は目を覚ました。

うっすらと開いた目には、まぶしい金色が映る。

「ナルト……?」

「陽夢、目が覚めたのか」

傍らには、ナルトが座っていた。

起き上がろうとするのを制されて、陽夢は大人しく横になったまま尋ねた。

「今、何時?」

「昼前だ。今日は下忍の任務は休み、夜までは一緒だ」

どうやら金色が眩しかったのは太陽の光のせいもあったらしい。

天気は快晴のようで、とても部屋の中が明るいのが見える。

だがそれ以上に、ナルトが一緒にいてくれるのが、陽夢には嬉しかった。

「何か食べれそうか?」

「ん……固形物じゃなければ、食べれそう」

「分かった、ちょっと待ってろ」

陽夢の額に濡れタオルをおくと、ナルトは立ち上がる。

台所に向かったナルトと入れ替わりに、クオがやってきた。

「陽夢、大丈夫か」

「大分、調子は良くなったよ」

クオの手が、軽く陽夢の頬をすべる。

「まだ熱があるな。食後、薬は飲めそうか」

クオにそういわれて、ちょっと考えてから陽夢は続けた。

「たぶん」

「解熱剤と栄養剤と……あとはそうだな、チャクラ増強剤を飲んだほうがいいかもしれない」

クオは陽夢に背を向けると、部屋の隅にある棚から、幾つかの薬瓶を選んで取り出す。

「そろそろ新しいのを要請せねばならぬな」

数が少なくなってきた瓶を揺らしながら、クオは呟く。

「既に要請した。数日中には火影の元に届くだろう。俺がとりに行く」

「さすが、早いな」

台所から戻ってきたナルトに、クオが軽く笑った。

陽夢の薬は特別製で、医療班に注文して作って貰っている。

とても病弱な名のある一族の子、ということだけ伝えていて、(嘘ではない)

火影に届けられたそれを、ナルトが任務帰りなどに受け取ってきていた。

とても煮られた粥を持ってきたナルトは、クオに看病を手伝うよう要請した。

クオが陽夢の体を支えて、ナルトがゆっくりと粥を陽夢に飲ませていく。

「熱くないか?」

「大丈夫、ありがとう」

ゆっくり、細かく粥が減っていく。

八割ほど減ったところで、陽夢はもういい、といった。

「ふむ、大分食べれた方だな。陽夢、薬だ」

ナルトは盆を下げに行き、クオは用意していた薬を陽夢に渡す。

ぬるいお茶でそれを流し込み、陽夢は一息ついた。

「ありがとう、クオ」

「何の」

クオは薬瓶を片付ける。

睡眠剤も飲んだ陽夢は、ふあ、と一つあくびをした。

「眠るといい。回復には睡眠が一番だからな」

「うん……お休みなさい、ナルト、クオ……」

小さくそういい、陽夢はクオに言われたとおり、再び横になって目を閉じた。

洗い物を終えてナルトが戻ってくる頃には、陽夢からは寝息がもれ始める。

「陽夢は眠ったか」

「ああ。お前はこれからどうする?」

眠っている陽夢を考慮して、二人は出来る限り小さな声で話していた。

ナルトは少し考えてから、軽く頷く。

「せっかく夜まで空いているんだ。新術の理論を構築でもしながら休む。

陽夢が目覚めたときに、すぐに駆けつけるしな」

「分かった。その時にはすぐさま知らせよう」

「ああ」

陽夢の看病をクオに任せ、ナルトは地下の研究室に降りていった。

そこには大量の資料と、術の実験を行うための実験場がある。

もちろん、実験場の衝撃は全く上階に伝わらないように、特別製の結界が張られている。

棚の中から、ナルトは雷遁に関する書物を取り出した。

ナルト自身のチャクラ性質は風遁。

そして、風遁についてはとうに知り尽くしている。

他五行のうち四つを満遍なく習得するため、ナルトは時間がある時はよくここにこもる。

「雷遁が司るのは光……今日は光の速さについてでも研究するか」

ペンを取り、ナルトは理論を構築し始めた。


術を二つ三つ作った頃、クオから連絡が入った。

「昼だ」

ナルトはペンを置き、上に上がる。

昼食の準備を終えたクオが、待っていた。

「陽夢は?」

「まだ眠っている。つまらぬかもしれぬが、食事はとっておけ」

ナルトは一つため息をつき、クオの作った昼食に手をつけた。

「悔しいが、相変わらず美味い」

悪態をつきながらナルトは次々食べていく。

ナルトも食事は作れないことはないが、クオほどうまくは作れない。

加えてクオの料理はバランスもいい。

常から病人食のようなものしか食べられない陽夢のためのメニューも考えている。

助かっているものの、心境は複雑で、ナルトは顔を顰めながら食べた。

流しに器を置くころ、何か音がしてナルトはすぐに陽夢の部屋に向かった。

「陽夢」

「ナルト……」

陽夢がうっすらと目を開く。

ナルトはすぐに駆け寄って、その手を握った。

「目が覚めたのか。何かほしいものはあるか?」

「お水……」

ナルトが振り向くと、既にクオが水を持って立っていた。

準備がいい。

こく、と水を飲んで、陽夢は笑った。

「どうした?」

まだ少し水の入ったコップを受け取り、ナルトは覗き込むように尋ねる。

「うん、目覚めてすぐ傍にナルトがいるのが、嬉しくて」

その言葉にナルトは少し驚いて、そして柔らかく微笑んだ。

「俺も、お前の傍にいられて嬉しいよ」


少し顔色の良くなった陽夢に、ナルトはまた嬉しそうに微笑んだ。