「……で、彦四郎、安藤先生は何て?」

「四年は組の斉藤タカ丸先輩絡みでひと悶着あって、

その事態の収拾のために先輩たちが出払ってるんだってさ」

一年い組の子供達は、登校して来たはいいが、その人気のなさに驚いたのだ。

休み中も学園に残っていた先輩もいるはずだし、

もう少し誰か登校してきていてもおかしくいない時間だったのに。

にも関わらず、まるで学園に人がいない理由を、

彦四郎が代表して安藤に聞きに行ったところだったのだ。

「一年は組も?」

「むしろ一年は組が中心らしい。最初に事態に巻き込まれたのがあいつらだとかで」

「あいつら、またか!」

「よくよく事件に巻き込まれる組だよね」

学園内でも一番に騒がしく、一番に何事かに巻き込まれる一年は組。

彼らが誰も登校してきていないことも、それはそれは不思議だったのだ。

疑問が払拭されて、四人ともため息をつく。

続いて、もう四人分のため息が続いた。

それに気付いて、い組の面々はあわてて辺りを見回す。

「ここ、ここ」

と、声がしたので、一平はそちらを向いて、草陰に先ほどの四つのため息の持ち主たちを見つけた。

「……何してんの、ろ組」

「日陰ぼっこ」

草陰で縮こまるように固まっていた、一年ろ組の四人。

殆ど影と同化していたので、かなり気付きにくかった。

「全然人がいないと思ったら、そういう理由だったんだね〜」

「小松田さんと、何人かの先生しかいないもんね」

草葉の陰(間違っているようであまり間違っていない)で、怪土丸と伏木蔵が頷きあう。

隣で平太は膝を抱えて震えた。

「寂しいなあ、早く帰って来ないかな」

「そうだね、早く帰ってきて欲しいね。い組もでしょ?」

孫次郎に尋ねられて、い組がすぐさま否定した。

「だ、誰が!」

「寂しくなんかないよ!」

伝七と佐吉が真っ先に叫んだが、一平は頷いた。

「そうだね、寂しいね」

「……一平……」

あっさり肯定してしまった級友に、意気込みかけていた二人の気が削がれる。

突き上げた拳が落ちた。

「さっき斜堂先生が言っていたよ」

「もうすぐ帰ってくるんだって」

もうすぐ、と言ったって、既に日は暮れかけて、今にも闇が迫ろうとしている時間だ。

つまり、到着するのは確実に夜に分類される時間である。

嬉しそうに喋っているろ組の面々など、もう闇にまぎれそうだ。

「そしたら、みんなでご飯食べよう」

「きっとみんなお腹すかせているよ」

闇の中から響いてくる嬉しそうな、楽しそうな声に、い組は思わずたじろく。

彦四郎が、小さく笑った。

「じゃあ、食堂のおばちゃんの手伝いにでも行くか?」

その提案に、一平が嬉しそうに手を叩く。

「それいいよ、彦四郎。それなら、みんな一緒に食べられる!」

「そうだね」

「そうしよう」

ろ組も賛同して、草陰から立ち上がった。

「みんなを待ってよう」

怪土丸が微笑む。

「帰ってきたらすぐに食べられるしね」

伏木蔵も賛成。

「お話も、聞けるね」

「いっぱい話しよう」

平太と孫次郎も嬉しそうに頷きあう。

話がまとまっていく中、伝七と佐吉は話についていけず、顔を見合わせていたが。

やがてどちらからともなく笑って、先にたって歩き出した。

「何してんだ、早く行こう!」

「みんな帰ってきちゃうぞ!」

二人の顔にも、笑顔。

その後に、彦四郎と一平、それから遅れてろ組の四人も続いた。