「綺麗だねえ」 「あったかいね」 「気持ち良いね」 「いい天気だなあ」 「眠いよ」 「お腹すいたなあ」 「眩しい」 「くすぐったい」 「お前らそういうこと言うなよ」 「はは、でも確かにくすぐったいよ」 「……平和だね」 一年は組の子供達は、花畑の中で輪を作っていた。 みんなで横になり、手を繋いで、輪を作る。 そうして空を眺めていた。 元はと言えば、今日も今日とて、おつかいの帰り道だった。 途中、道から逸れたのは誰が最初だったか。 ナメクジを見つけて駆け寄った喜三太か。 生物委員として、森を駆け抜けた動物が気になった虎若か三治郎か。 それとも、染物屋の子供として、花の香りに惹かれた伊助か。 とにかく、どんどん道から逸れて行って、この花畑を見つけたのだ。 位置としては、学園からそう遠くない、山奥。 誰とも無く、その色とりどりの花の絨毯に寝転んだのだ。 「こうしていると、いつもの喧騒が嘘みたいだね」 「その喧騒を起こしてるのはぼくたちだろ」 「言えてら」 虎若、金吾、団蔵が笑い合った。 「ちょっと喜三太、ナメクジ放さないで!せっかくの花畑が台無しになる!」 「はにゃ?」 「伊助、生物委員でもないのに詳しいねえ」 伊助が、ナメクジを放そうとする喜三太をあわてて止める。 首をかしげる喜三太の横で、三治郎がのんびりと称賛した。 「寄り道、しちゃったな。遅くなるな。帰ったらみんなで土井先生に謝らないと」 「庄左ヱ門〜水を差さないでよ」 のんびりしながらも冷静に指摘する庄左ヱ門に、乱太郎が苦笑した。 「そうそう、せっかくのんびり日なたぼっこしてんだから」 「ろ組には出来なさそうだな……」 兵太夫も同意し、きり丸がふと呟いた言葉に、しんべヱが意外そうに返した。 「え、でも、ぼく、平太と一緒に日向ぼっこしたことあるよ?」 えええ、と声に出して驚いたのは誰か。 「あ、ぼくも覚えてる〜三人で一緒に、お昼寝したよね」 喜三太も加わって、きり丸が意外そうに声を漏らした。 「ぶっちゃけ、オレ、怪土丸が日なたぼっことか、想像できないんだけど」 図書委員会は、基本的に室内の活動が主。 特に怪土丸は特に暗がりにいたような気がする。 「あーでも、生物委員の孫次郎は、逃げた虫探しで結局大分日の下にいたりするなあ」 「そうそう」 虎若は委員会活動を思い出して言った後、少し苦々しい顔を作った。 その大変さを思い出したらしい。 三治郎もその表情の意味を取って、二重の意味で同意した。 「乱太郎、伏木蔵は?」 「保健委員会も、落し紙の補充に歩き回るから、そこそこ歩き回るよ」 「ついでに穴に落ちるもんな」 「それは綾部先輩のせいじゃん」 伊助が尋ねると、少しだけ乱太郎が悲しそうに笑った。 その意味を理解した兵太夫が、にやりと笑う。 四年生の穴掘り小僧の名をあげて、団蔵が兵太夫に突っ込んだ。 「ぼくは、別の意味で穴に落ちる……」 「ああ、七松先輩の塹壕か」 「いつも用具委員が埋めに行くんだよね」 穴に落ちる、で金吾が自分の体験を思い出し、若干顔を青くした。 その様子を見て、庄左ヱ門が声を上げ、しんべヱが笑った。 穏やかな昼下がり、そうして花畑の中で談笑する。 そして、しばらくして、声が一つ消えた。 それにつられるように、また一つ、声が消えていく。 一つ、一つと消えていって、最後には何も聞こえなくなった。 十一の、寝息以外は。 ひやり、と冷たい風が頬を撫でた気がして、乱太郎は目を覚ました。 体を起こし、ぼんやりと辺りを見回す。 そして頭上を見上げ、綺麗な夕焼けに染まっている空を見て、叫んだ。 「み、みんな起きて!寝過ごしちゃったー!!」 「ふ、あ?」 「らんたろー、なんだって?」 「よくねたあ」 乱太郎の叫び声に応じて、他の面々もちらほらと起き出してきた。 そして空を見上げ、乱太郎と同じように悲鳴を上げる。 すぐさま、近くに寝ている他の子供たちを起こし始めた。 「うわあ、これは完璧に叱られるなあ」 「庄ちゃん、冷静なこと言ってないで団蔵と虎若起こすの手伝って!」 苦笑混じりで空を見上げた庄左ヱ門に、伊助が助けを求める。 程なく全員おきて、急いで学園への帰路を取った。 まだ寝ぼけているしんべヱと喜三太を、きり丸と金吾が引っ張る。 「いっそげ!」 「怒られちゃう!」 「もう怒られると思うけどな」 「兵ちゃんまでそういうこと言わないでよー」 「……委員会に参加せずに済んだって意味では、ぼく良かったかも」 「ぼくも」 「こらこら」 「ねむいよぉ」 「はにゃあぁ」 「しんべヱ、ほら、頑張れ!」 「喜三太、ナメ壺はぼくが持っててやるから!」 助け合いながら、一路忍術学園へと向かう。 それぞれの表情をしながらも、その足取りに迷いはなかった。 元々学園とは大して離れていなかったから、程なく学園が見えてきた。 その扉を開けて、待っていてくれた人に、みんなで笑いかける。 その人に言うことは、もちろん決まっている。 「「「ただいま!」」」 寄り道 (お帰りの代わりに拳と怒声が飛んで来た)