「「あ」」 驚きの声があがったのは、同時だった。 表情にも驚きが表れている。 だがすぐにそれは、嬉しそうな表情に取って代わった。 「久しぶり。四人そろってどうしたの?」 「そっちこそ、三人揃ってって……三人一緒なのは、いつものことか」 片や、忍術学園の忍たまである、乱太郎、きり丸、しんべヱの三人。 片や、ドクタケ忍術学園のドクたま、しぶ鬼、いぶ鬼、ふぶ鬼、やまぶ鬼。 偶然町でばったりと会った計七人の子供達は、道端で談笑を始めた。 「いやあ、僕達はただの買い物。今日は教室が休みでさ」 「僕達も学園が休みなんだ。用事は、きり丸のアルバイトだけどね」 乱太郎はそう言って、後ろを指した。 三人がいたのは、茶屋。 なるほどの茶屋のバイトかと四人は納得した。 「ってことで、お前らも食べていかね?安くはしないけど」 きり丸が笑って言う。 ふぶ鬼が呆れ混じりに突っ込みをいれた。 「しないのかよ」 「美味しいよ〜」 しんべヱが微笑むのに、山ぶ鬼が微笑み返す。 「ねえ、食べていきましょうよ。休憩しようって言ってたとこだし」 「どうしようか、しぶ鬼?」 山ぶ鬼の提案に、いぶ鬼がしぶ鬼に尋ねる。 しぶ鬼は少し唸ってから、頷いた。 「ここで休んでくか。ついでに乱太郎たちとも話せるし」 「私達はついで?まあいいけど、きりちゃん、お茶を四人前〜」 今度は乱太郎が突っ込みを入れて、きり丸にお茶を頼んだ。 おう、ときり丸は返事をして、茶屋の奥に引っ込んだ。 「はい、メニュー。何食べる?」 しんべヱが四人にメニューを差し出した。 四人がそれを覗き込む。 「お、新メニューがある。じゃあ俺これ」 「私、ぜんざいがいい!」 「ぼくは草団子〜」 「じゃあぼくは……桜餅にしようかな」 しんべヱは注文を受けて、きり丸と同じく茶屋の中に引っ込んでいった。 他に客もいないので、乱太郎が四人に話しかけた。 「そっちは最近どう?」 「どうも何も、平和だよ。最近は戦もないし」 「ちょっと今までに予算を使いすぎたらしくて、ドクタケ水軍の準備も進んでないよ。 まあおかげで、兵庫水軍と争うことも無くて、平和なんだけど」 ドクタケ水軍の準備室長、達魔鬼の息子であるしぶ鬼が、ぼやき気味にそういった。 つまりは、いつもは争いがあって大変ということだ。 兵庫水軍と仲のいい乱太郎は、とりあえず。 「それは何より」 と言っておいた。 「へい、お茶お待ち〜注文したものもすぐ来るから、待っててな」 きり丸がお茶を盆に乗せてやってきた。 湯のみを手際よく配っていく。 「きり丸は、アルバイトの調子はどうなの?」 山ぶ鬼が尋ねると、きり丸は盆を抱えたまま両手をあげた。 「順調、とは言いがたいな。 今回の休暇さ、いきなり決まったもんだから、効率よくアルバイトの予定組めなくて。 ま、雇ってくれただけいいけどさ」 忍術学園はとても唐突に休みが決まる。 学園長の気まぐれだったり、先生達が用事で出かけてしまったからだったり。 時間がある時は逃さずアルバイトを組みたいきり丸にとっては、文句の一つでも言いたくなる。 「ふうん。他にはどんなアルバイトしてるんだ?」 いぶ鬼が聞くと、きり丸は今までしたアルバイトを思い出して指折り数えた。 「子守、散歩、おつかい、接客、掃除、草むしり、 内職の手伝い、古着売り、興行の手伝い、たこ焼き屋……」 次々とあげられるそれに、思わずいぶ鬼がおお、と声を上げる。 「たこ焼きって、前に父さんがタコをいっぱい釣った時のだよな」 しぶ鬼が思い出して笑う。 乱太郎も頷いた。 「そうそう、私としんべヱが手伝ったんだよね」 「乱太郎としんべヱは、よくきり丸のバイトを手伝うの?」 お茶を一口飲んでから山ぶ鬼が尋ねる。 それにはきり丸が答えた。 「おう、よく手伝ってくれるぜ。すごい助かってる」 きり丸が乱太郎に笑いかけたので、乱太郎も笑い返した。 「友達だし」 「勉強になるしねー」 それから、お盆を持って茶店の奥からしんべヱが戻ってきた。 その盆にはドクたまたちが注文した品が乗っている。 「お待たせー。さ、食べて!」 しんべヱの盆からきり丸と乱太郎が品を取って、四人に配った。 四人は声をそろえて合掌した。 「いただきます!」 一口食べて、すぐに思い思いの感想を漏らした。 「美味しい!」 「うん、うまい」 「これって乱太郎たちが作ってるの?」 「また食べに来ようかな」 すぐに二口目に手をつけて、美味しそうに口を動かす。 「ねー、美味しいよね!」 「まさか。店の人が作ってるんだよ。私達はただの接客」 「あ、でも自分達で作るってのもいいかもな。安く済むし、売れれば儲かる!」 きり丸が閃いたとばかりに指を鳴らす。 その目はすぐに銭に変わった。 相変わらずだな、とふぶ鬼が笑った。 「しんべヱが作るのか?たこ焼き屋の時も作ってたし」 しぶ鬼がきくと、きり丸が頷く。 「しんべヱは料理上手いんだ。前はカステイラも作ったことあったし」 それを聞いて、山ぶ鬼が顔を輝かせた。 「カステイラ!?食べたい!」 「あ、ぼくもぼくも」 いぶ鬼も山ぶ鬼に便乗して手を上げる。 カステイラは元々南蛮菓子なので、一般にそこまで出回っているわけではない。 食べてみたかったんだ、と山ぶ鬼が続ける。 そこで乱太郎がぽん、と手を叩いた。 「じゃあ、今度こっちとそっちの休みが重なった時にでも、みんなでお菓子作ろうよ。 自分で作れたら、嬉しくない?」 乱太郎が尋ねると、すぐにしぶ鬼が答えた。 「そりゃいい!作ろう、作ろう!」 「ぼくも賛成!」 ふぶ鬼も頷く。 きり丸は再び目を銭にした。 「で、売るのか!?」 「いや、売らないって。食べるんだよ」 乱太郎が苦笑しながらその肩を叩く。 きり丸がちょっと肩を落とした。 そのやり取りを山ぶ鬼が笑う。 「じゃあ、こっちの休みが分かったら手紙書くよ。だから、そっちも手紙書いてくれよ」 しぶ鬼が提案して、きり丸が頷いた。 「おう、こっちは急なこともあるけど……近いうちに休みが合うといいな」 「合うといいね〜」 しんべヱも頷いた。 会話が一段落着いたところで、食べ終わった四人は、そろそろ行くと立ち上がった。 きり丸に代金を渡す。 「まいどあり〜」 抜け目なく銭を数えて、きり丸が笑った。 「それじゃ、またね」 乱太郎が手を振る。 「手紙、よろしくねえ」 しんべヱも手を振った。 ドクたま四人も、手を振りながら去っていく。 「おう、またな!」 「お菓子作り、楽しみにしてるからね」 「ご馳走様でした」 「じゃーなー」 四人の姿が見えなくなるまで、見送る。 そしてまだ次の客は来ていないので、三人で話し合った。 「お菓子、どこで作ろうか?」 「学園の食堂は?」 「さすがに堂々とはマズイんじゃね?」 うーん、と三人で唸る。 しばらく考えて、いい案が出なかったので、三人は考えるのを止めた。 「学園に帰ってから庄左ヱ門に相談しよう」 「そうしよう!」 「それがいいや」 満場一致でそう決めて、それから三人は再び客寄せを始めた。 それをしながら、乱太郎も笑顔でこっそりと呟く。 「お菓子作り、楽しみだなあ」 休日の水面下 (水面上の争いを気にしない子供達)