春、それは出会いと別れの季節。 それは誰にも平等に訪れる。 ある時それは、奇跡にも近い出会いをもたらす。 「ああーっ!!」 その、叫び声によって。 暖かい陽が差す、とある学園の入学式で、その叫び声は響きわたった。 校門からすぐの場所で叫んだ人物に、周囲の視線が集まる。 また、その人物が指差して示した人物にも、注目が集まった。 周りに一気に注目された人物たちは、向かい合ったまま固まる。 そして、そこにまたわらわらと人が集まってきた。 彼らの顔には、驚きを多分に含んだ喜びが表れている。 円を作るように集まり、それからまるでタイミングを図ったかのように、一斉に。 「会いたかったーっ!!」 と叫んで抱き付き合った。 その言葉で、どうやら彼らが久しぶりに会った友人同士だと悟ったらしい。 周りで注目していたものたちも、興味を無くして散っていく。 「みんな、変わって無さそうだね」 「庄ちゃんもね、相変わらず冷静!」 「まあそれでこそ!」 「我らがは組の!」 「学級委員長ーっ!!」 けらけらと笑いあう。 「乱太郎は相変わらず視力悪いのか」 「きり丸はケチそうだね」 「しんべえだって、相変わらず太ってる!」 笑って笑って。 「金吾、何か持ってる!」 「ああ、これは木刀が入ってて」 「やっぱ金吾って言ったら剣道だもんな!」 ひとしきり笑いあって、ようやく落ち着いた。 笑いすぎて腹を抱えている者すらいる。 その中の一人が、手をパンパンと叩いて、全員を注目させた。 「とりあえず、学校入ろう。入学式に遅れちゃうよ」 「懐かしいよ、その冷静さが」 と笑ったのは、果たして誰だったのか。 大分忍耐を迫られた入学式も終わり、クラスの振り分けが発表された。 全員同じクラスに配置された上、担任が見覚えのある名前だったので、一同沸き返る。 「しっかし、学園長先生を見た時は驚いたね!」 「全っ然変わらないもんな!」 「他にも、見覚えのある人がちらほらいなかった?」 「いたいた!懐かしかった!」 「でも、向こうがこっちを覚えてるとは限らないよ。ぼく達は幸い、全員覚えていたみたいだけど」 「それにも驚いたね!」 「うん、驚いた!まさかみんなもだなんて!」 教室の真ん中で、十一人の子供達が騒ぎ立てる。 教室の前を通った者が、時折不思議そうに顔を覗かせていた。 会話はまだ続く。 「後で会いに行ってみない?」 「だから、向こうがこっちを覚えてるとは限らないんだって……」 「あ、先生来たよ!」 「驚かそうか?」 「止めとこうよ。座ろう」 と、全員が大人しく席に座ったところでがらりと教室の扉が開いた。 「お、全員座ってるな。私が担任の土井半助だ。よろしくな」 と、土井は黒板に名前を書く。 それからお決まりの文句を述べた後。 「では、まず自己紹介から。そうだな……左端の……」 名前が読みにくかったのか、土井が言葉に詰まる。 「猪名寺乱太郎です!特技は走ること!趣味は……何だろう。まあいいや。 不運ですけどよろしくお願いします!」 乱太郎は呼ばれる前に立ち上がった。 そして、土井に向かってぺこりと礼をする。 「何だそりゃ……」 土井が変な自己紹介に呆れる中、自己紹介は続いた。 「加藤団蔵です。特技は馬に乗れること、趣味は馬に乗って走ること! 気持ちいいですよ、先生もどうですか!?あ、よろしくお願いします」 「黒木庄左ヱ門です。特技というか得意なことはいつも冷静であること。 趣味は読書。不束者ですがよろしくお願いします」 「笹山兵太夫です。特技は悪戯、趣味も悪戯! あ、大丈夫ですよ、先生にはしませんから。多分。とにかくよろしくお願いします」 「佐武虎若です。特技っていうより、長所ですが、目がいいこと、趣味は弓道、になるのかな。 よろしくお願いします」 「オレもするんすか、せんせ?えーっと、土井きり丸っす。色々諸事情で先生と同じ苗字なんだよ」 「二郭伊助です。特技は掃除、趣味は染物です。よろしくお願いします」 「福富しんべヱですー。特技は……いっぱい食べられること? 趣味は食べることです。よろしくお願いしますー、お菓子いりませんか?」 「皆本金吾です。特技は剣道、趣味も剣道。よろしくお願いします。 ところで、木刀学校に持ってきてもいいですか」 「山村喜三太です。特技はナメさんの世話で、趣味はナメさんの世話ですぅ。 ナメさん、学校に持ってきてもいいですよね!よろしくお願いします、土井先生!」 「夢前三治郎です。特技は走ることで、趣味は何か小物を作ることです。よろしくお願いしますね」 出席番号順、つまり五十音順に行われた自己紹介。 個性がよく出てるというか、一風変わった自己紹介に、土井は開いた口が閉じなかった。 しかも、全員、最後は土井に向かって礼をしたのだ。 あまりの衝撃に固まってしまった土井に、十一人が息をぴったりそろえて。 「一年間よろしくお願いします!」 ぺこりと、もう一度頭を下げた。