出会って間もないはずなのに、ぴったりと息の揃ったその声に、土井は思わず尋ねた。

「お前達、本当に初対面か?」

それに返って来たのは、元気な返事。

「いいえー!」

「ぼくたち、もっとずっと前から友達なんです!」

「友達っていうより、仲間の方がいいんじゃない?」

「いや、でもやっぱりここは“友達”だよ」

「あの時とは違うんだもんね」

「そう、友達友達」

「喜三太、また教室をナメクジまみれにしたいのか」

「えーっ何でナメさん連れてきちゃだめなのさ」

「普通だめだと思うよ」

「お腹空いたなあ」

「しんべヱ、こぼれるこぼれる!」

半分は全く土井の方を向いていなかったものの、言いたかったことは読み取れた。

要するに、全員が前々から知り合いで仲が大変いいということだ。

むしろそうでなければ納得できないほど、短時間ではありえないくらいに打ち解けている。

一クラスの全員がそうなのは、大変珍しいことではあるが。

「じゃあ、あの自己紹介は私のためか……では、仲良くしろ、という必要はないか。

では、連絡事項だが……」

と、土井が手元のプリントを覗き込みながら、大事なことを黒板に書いていく。

教科書について、時間割について、教室移動について、休み時間について、

昼食について、放課後について。

次に、委員会について。

「委員会には必ず入ること。各委員会では、学園に必要な活動をやるからな。

それについては、後日詳しい説明をする」

それから、部活について。

「なるべく部活には入ったほうがいいぞ。勉強になるからな」

それからいくつか細々としたことを伝えて、本日のホームルームは終了となった。

「寄り道しないで帰れよ!」

と言い残して土井も教室を出て行く。

大分遠ざかったのを確認してから、教室に残った十一人は顔を寄せ集めた。

「とりあえず、どっかで積もる話をしたくない?」

「したいしたい」

「みんながどこまで覚えてるかの確認もしたいし」

「教室でやるわけには行かないよな」

「そりゃあ、ね」

「今から四百年近く前かあ……なんだか実感沸かないね」

「普通沸かないさ」

「とりあえず、どこで話そう」

「誰かの家は?」

「この中で、親にこのことを話してる奴が、いるか?」

「……」

互いに互いの目を見やる。

しばしの沈黙が漂った。

「……いないみたいだな」

「じゃあ、昼間は絶対に親が家にいない奴」

「うちは無理」

「うちは……いたりいなかったり」

「ぼくの家も」

「確実にいない家じゃないと」

「オレ、寮なんだけど」

「あ、ぼくも」

「いても、話が聞こえないならいいんじゃない?」

「それなら、夕方までなら、うちは大丈夫だよ。仕事に出てるはずだから」

「んじゃ、兵太夫の家に決定ー」

「行こう、行こう」

場所が決まったので、十一人は荷物をかばんに詰め、教室を出る。


兵太夫の家に向かって、十一人が話をしながらぞろぞろと歩いていく。

「ねえ、部活どうする?」

「昔と同じような部活があったら入ってみたいな。きっと、同じ顔ぶれで、いるよね」

「委員会の方で、顔ぶれがそろってるかもよ」
「部活の方は意外な面子だったりしてね」

「このメンバーで新しい部活を作ってみるってのもよくないか?気兼ねしなくて良いし」

「あ、面白そう!」

「今度部活動見学があるから、その時入りたいものがあったら各自入れば良いよ。

なかったら、その時考えよう。一応それも案の一つとして考えておいて」

「そうだね、さすが庄ちゃん!」

「でもさあ、さすがに、あの時と全く同じ部活ってわけにはいかないよね?」

「そうだね、火薬委員会とかもろに無理だよね!」

「危ないもんな」

「……何かずれてるよ、二人とも」

他愛もない話をしているうちに、兵太夫の家へと着いた。

兵太夫が鍵を開け、十人を招き入れる。

それから居間に集まらせて、自身は台所へと入って行った。

「ここが兵太夫の家か」

「普通だね」

「いや、何を想像してたの!」

「いくら兵太夫でも、今の家を改造はしないでしょ……多分」

「いや、ありえるぞ」

「兵太夫だしなあ」

「お前らはぼくを何だと思ってるんだ」

兵太夫が、ばこりと叩く。

それからもう片方の手に持っていた盆から、人数分のお茶を配った。

そのお茶が全員にいきわたってから、改めて話が始められる。

「さて、何から話そうか」

「この場合、誰から話そうか、じゃない?」

「そうかも」

「そうだよ、まずは互いの身の上を確認しよう」

「そうしよう」

「じゃあ、誰から?」

「何で決めようか」

「じゃんけん?」

「クジとかアミダって手もあるぞ」

次々と、候補が挙げられる。

大分討論した後、アミダに決まった。

番号と名前を書いて、アミダを始める。

「一番は……」

「オレだな」


虎若が手を上げた。