「花鳴りの、森?」

「三治郎、知ってるの?」

数日後、は組の教室。

不思議な体験を話していた二人の言葉に、三治郎が反応した。

みんなの注目が集まる。

三治郎は、なんともいえない表情をしてから、しんべヱと喜三太の頭を撫でた。

三治郎以外の全員が首を傾げる。

「父上に聞いた事があるんだ。花鳴りの森は、此岸と彼岸を繋ぐ、境だって」

その言葉に、は組の三分の一が顔を青くした。

残りの三分の二が疑問符を浮かべる。

「堺?」

「しんべヱの家がある?」

「それは地名だよ。境って、間のことでしょ。でも、こがんとひがんって、何?」

純粋に意味が分からず首を傾げる面々に、三治郎は弱弱しく微笑んだ。

「分からないほうが、いいよ。とにかく、帰ってこれてよかったね」

意味が分からないながら頷く二人に、意味を理解した三人がしがみついた。

「ど、どうしたの?」

様子がおかしい三人に、他の五人が心配そうに寄り添う。

三人は、ぎゅっと二人を抱きしめた。


留三郎と作兵衛は、先日来た村に、再び訪れていた。

出来上がった茶碗を、受け取るためと。

「ああ、それなら向こうにあるぞい。と言っても、何も入っていないんじゃがな」

村の中でも特に年長である老人に聞き、村の外れへとやってきていた。

そこには、粗末な上に、長年の風雨で風化しただろう石が、ちょこんと置かれている。

留三郎は、そこにそっと花を添えた。

「先輩」

水の入っていた桶を、留三郎に請われて渡した作兵衛が、口を開いた。

「本当の、話でしょうかね?」

何がとは言わない。

それは二人とも分かっているからだ。

石に水をかけ、辺りの土も少し整える。

花が、風に吹かれて揺れた。

「さあな」

一通りの整備を終えて、留三郎は少し満足そうに汗を拭った。

「でも、“そう”かもしれないだろ。だから、お礼はして行こうと思って」

ありがとう。

最後にそう呟く。

作兵衛が複雑そうな顔で俯く。

その頭を、立ち上がった留三郎が撫でた。

「そう深く思い悩むこともないさ。あいつらは、帰ってきたんだから」

それこそが、一番大事なこと。

それだけが、一番大事なこと。

「帰るぞ」

「……オッス」


笑って歩き出した留三郎を、作兵衛が返事をして追いかけた。