きり丸は、森を歩いていた。 学園の休日、バイトを探しに町に出て。 運よくいいバイトを見つけ、それに専念して。 手に入れた小銭を、手の平のうちで転がしながら、歩いていた。 歩きながら、同室の二人や、クラスメイトや、 先生や、先輩達はどうしているだろうかと思いふける。 乱太郎としんべヱは一緒に遊んでいるのだろうか。 もしかしたら、一年は組のみんなも一緒かもしれない。 昨日かけられた声がよみがえる。 バイトをしたいから、と断ってしまったのを、少し悔やむ。 今度の休みは一緒に遊ぶかな、とそこまで考えて。 きり丸はふと、足を止めた。 いつも通っているはずの道に、違和感を感じたのだ。 それはとても些細なものだったが、確かな違和感だった。 あたりを見回してみたが、これと言ったものはない。 気のせいだろうか、と思いつつも、きり丸は少しだけ足を早めた。 目的地に近づくにつれ、その違和感はどんどん強くなっていった。 「落ち着かねえなあ」 口に出して零しつつ、殆ど競歩の速さできり丸は歩いた。 そうして、もうすぐ学園に着くという頃に。 きり丸は気付いた。 これといったものが、無いこと自体が異常だったのだ。 いつもは、あるものが、ない。 音が、しない。 山特有の、動物や、梢の音ではない。 そこは忍術学園。 自主トレをする者、委員会活動、何かしらの騒動 (原因の九割は、きり丸の所属する一年は組である)で、学園周辺は音が絶えない。 それが、まだ日すら沈んでいない時刻なら、なおさら。 だというのに。 不気味なほどに、音がしないのだ。 焦りすら浮かんで、きり丸は走る。 走って、走って、走って。 息が苦しいのも構わず、きり丸は走った。 そして、その目に入ったのは。 焼け落ちてぼろぼろになった、忍術学園の成れの果てだった。