「一匹見つけたよ!」 「こっちにも一匹いたよ!これで五匹目だね!」 町から少し離れたところで、子供が二人、賑やかに騒いでいた。 二人は、たった今見つけたばかりのそれを、続けてつぼに入れる。 それから満足そうに汗を拭った。 「いっぱい見つけたね」 「うん、友達増えた!」 二人はにこにこと顔を見合わせた後、はっとして顔を上げた。 空は、少し赤みがかっている。 「大変、もうこんな時間だ!」 「早く戻ろう、夕ご飯作らなくちゃ」 二人はわたわたと走り始める。 しかしすぐに疲れて、ゆっくりと歩き始めた。 「気付かないうちに結構遠くに来ちゃったね」 「夢中で追いかけてたもんね」 つぼの中では、追いかけられていたものたちが身じろぎしている。 「なんて名前にしようかなあ」 「また、みんなで考えよう」 「そうしよう」 二人は笑いながら歩いていく。 また少し日が沈んだ。 と、突然二人の前を何かが通り過ぎた。 「わ!?」 「何!?」 あまりの速さでそれが何か分からなかった二人は、きょろきょろと辺りを見回す。 すると、それらは今度は二人の後ろを通り過ぎた。 今度は、通り過ぎる直前に音がして振り向いたため、二人はそれらの形状を確認することが出来た。 「人だ!」 「何で同じところを走ってるの?」 「さあ?訓練かなあ」 人だということは確認できたが、速過ぎてその姿は影しか見えない。 しかも二人が今いるところと中心に走り回っているものだから、 二人は動くに動けず、動き回る影を見ていた。 「今動いたら危ないよね」 「でも、動かないと帰れないよ、どうしよう」 二人はしばらく見詰め合って、それからわあわあ騒ぎ出した。 「みんなが心配しちゃう!」 「早く帰んなきゃ!」 「でも、どうしよう!」 二人が立ち往生していると、今まで走り回っていた影が、並んだ二人の真横からやってきた。 二人は避けられず、影に跳ね飛ばされた形で倒れる。 「わあ!」 「あいたっ!」 どでん、と大きな音が響いた。 「いたた……しん、大丈夫?」 「ぼくは大丈夫。きさは?」 「ぼくも大丈夫」 二人はゆっくりと起き上がって、土ぼこりを払った。 しかし相変わらず、影たちは辺りを走り回っている。 どうしよう、と二人が頭を悩ませていると、不意に後ろから声がかかった。 「おい」 「わ!?」 二人が驚きながら振り返ると、 そこには今までいなかった人、まだ少年と言ってもいい年頃の、が立っていた。 影は相変わらず走り回っている。 「子供がなんでこんなところにいる!?今ここは危ないんだ。早くおうちに帰りな」 「でも……」 「ぼくたちのおうち、あっちなんですう……」 二人が指したのは、今もまだ影が動き回っている、山の方だった。 話しかけた少年は、怪訝そうな顔になる。 「そっちには山しかねえぞ?間違ってないか?」 「そんなことないですよお」 「こっちなんです!」 二人は力を込めて力説する。 しかし少年は、そちらに村も家もないはずだ、と言おうとして。 言えなかった。 少年の足元、二人と少年の間に、三発ほどの弾が割り込んだ。 「な、敵の新手か!?」 少年が一歩後ずさった瞬間に、ぼうん、と辺りはいきなり煙に包まれた。 「わあ!」 「煙?っげほげほ!」 「おい、お前ら、だい……」 少年が心配して二人を捕まえようとしたが、その前に二人の影は少年の前から消えた。 「あ!」 「喋るな!いいから走れ!」 「ま、待ってよ!」 「急ごしらえだから、この煙はそう長く持たないんだよ!とにかく急げ!」 さっきまで喋っていた二人の声と、あと同じ年頃の声が二つ。 四つの声が、遠ざかりながらも聞こえていた。 「おい、お前ら大丈夫なのか、おい!?」 返事は聞こえず、四人が走る音さえも、やがて聞こえなくなった。 少しして、自然と煙が散る。 そこでようやく少年は、仲間が戦っていた、影の片方がいなくなったと分かった。 それから、斜め前方辺りの茂みから、その、仲間が戻ってきた。 「作兵衛、さっきの煙玉、お前のか?」 「いんや。なんかよくわかんねえんだけど……子供がいたのは気づいたか?」 「気付いたけど、止まれなかったし」 応えながら、少年の仲間は埃やらゴミやらを叩き落す。 埃をかぶらないように少しそこから離れてから、少年は言葉を続けた。 「まあそれはそうだろうけど、その子供に逃げるよう言ってたら、いきなり煙が出てきて…… その後の煙越しの会話を聞いてたら、どうもその子供の仲間が使ったらしくて」 「はあ?一年くらいの、子供だったよな?ドクタマか?」 「わかんねえよ、そんなこと。少なくともうちのやつじゃないことだけは確かだ」 それから二人はしばらく唸っていたが、やがて少年はため息をついた。 「わかんねえことを悩んでても仕方ねえや。とりあえず、失敗と経過を報告しに、学園に戻ろうぜ、藤内」 「そうするか」 二人は怒られるだろうな、と思いながら、帰路を取った。