がらがら、と荷車を引く音と共に、四人は帰ってきた。 「ただいまー」 「ただいま」 それから、しんべエと虎若は地下のからくり部屋へ、荷車を持っていった。 きり丸と兵太夫は、庄左衛門のいる部屋へと向かう。 「庄左、いるか?」 「お帰り。また何かあったの?」 「まあ、ね」 兵太夫が肩をすくめる。 庄左衛門が苦笑しながら、座布団を並べた。 「出かけるたびに何か事が起きるね。まあ、座って」 「不本意だ、不本意!」 きり丸が怒りながら、その座布団にどっかりと座る。 その隣に、兵太夫が楽な体勢で座った。 それからおもむろに、懐から一通の手紙を取り出す。 「これ、忍術学園の学園長さんからだってさ。 忍術学園に入ったって言う、タカ丸さんから預かってきた」 「ああ、あの人のおじいさんは、元々忍者だったって噂だったしね。おかしくないよ」 庄左衛門がその手紙を手にとって眺めながら言った。 「もうちょっと驚けよ、庄左ヱ門。お前の冷静さがこえー」 「今更今更」 兵太夫がからからと笑う。 庄左ヱ門は、一通り眺めてから、改めて手紙を取りだし、たたまれていた書状を開く。 「で、何て書いてあんだ?」 庄左ヱ門は一通り文に目を通してから、少し考えて。 「……要約すると、一度忍術学園に来て、じっくりと話してみたいって書いてある」 「はあ?何で俺らが。向こうから来たんだから、向こうから来ればいいのに」 「学園長さんは、昔大層素晴らしい忍だったそうで、名を知られているらしいからね。 おいそれと出かけるわけには行かないんだと思うよ」 「なんか納得いかねえ」 きり丸が不満そうに頬杖をつく。 「で、どうするんだよ、庄左ヱ門」 兵太夫に聞かれて、庄左ヱ門もどうしようか、と笑った。 「みんな、ご飯だよ〜」 管を伝って、しんべヱの声が拠点中に響き渡る。 少しして、わらわらと食堂に人員が集まり始めた。 「あ〜、お腹すいた〜」 「今日の夕飯なあに?」 「ご飯食べたらお風呂入らないとなあ」 思い思いのことを言いながら、全員席につく。 全員がそろって座ってから、きれいに両手を合わせて。 「「いただきます」」 と、声がそろって。 「はい、どうぞ」 「おかわりあるからね」 その後に、しんべヱと伊助の声が続いた。 今日あったことから、くだらないことなどを話しながら、食事は進んでいく。 それに比例して、料理の数もどんどん減っていった。 そろそろみんなが食べ終わる、というころに、庄左ヱ門が手を叩いて、みんなの注目を集める。 「みんな、聞いて。後で全体会議をしたいから、食後一時間後に、作戦会議室に集合」 「ああ、あれの話か」 「あれって?」 「町で何かあったの?」 庄左ヱ門の話の内容にすぐに検討がついた虎若が一つ頷く。 もちろん町に行っていない面子はそんなことは知る由もないので、 町に行った面々の方に視線を向けた。(しんべヱ除く) 「それを、後で話すから。お風呂とか着替えとかある人は、集まる前に済ませておくこと。 連絡事項は以上、はい」 「「ごちそうさまでした」」 庄左ヱ門の掛け声に合わせて、再び全員で合掌する。 お盆を下げて、また全員思い思いの場所に散っていった。 後片付け組の、伊助と兵太夫がそこに残る。 「ねえ、兵太夫、また忍がらみ?」 「ん、まあな。ちょっと厄介なことになりそうだぜ」 皿を洗いながら、兵太夫がため息をつく。 それを横目に見ながら、伊助は洗い終わった皿を拭いた。 「無事に済むといいけどね」 それから一時間ほどして、全員が作戦会議室に集まった。 庄左ヱ門を基準に、適当に円状に並んで座る。 伊助がお茶と、タカ丸から貰ったお菓子を配った。 全員そろったのを確認してから、庄左ヱ門は懐から手紙を取り出す。 「これは、今日きり丸たちが使いの人から預かった、忍術学園の学園長さんからの手紙」 その言葉に無骨に嫌そうな顔をしたのは団蔵で、軽く顔をしかめたのは金吾だった。 「内容は、要約すれば、忍術学園に来てもらって一度話をしたい…… 出来ればお互いが妥協できる案を論じて、実行したい……そういうことを言ってる。 こればっかりはぼくの独断では決められない。みんなの意見を聞きたいんだ」 集められた理由に納得して、それからみんな思い思いのことを言い出した。 「何で俺たちが行かないといけないんだよ」 「学園長さんはおいそれと外に出られないだろうからって」 「それ庄左ヱ門の考えだろ?実際のとこどうなんだよ」 「庄ちゃんが言ってるなら、大体あってるんじゃない?」 「まあ今まで会ったことないからどうともいえないけど」 「じゃあ、それはとりあえずいいとして」 「お菓子美味しいねえ」 「美味しいね!」 「あ、喜三太零すな!」 「伊助、何か下に敷くもの!」 「はい」 途中で話が脱線し、一騒ぎになったが、ようやくそれが落ち着いた頃、 庄左ヱ門が改めてみんなを見渡した。 「じゃあ、みんなはどうしたい?」 言われて、悩む声が重なった。 「どうしたいって……」 「なんて言うんだろうね」 「特にこれと言って、あれがしたいこれがしたいとかないよな」 「強いて言うなら……えっと」 「今の生活を維持できればいいんだよね」 「そうそう」 「今のままでいいのに」 「放っておいてくれないのは向こうの方だろ?」 「ならやっぱり向こうから来るのが筋じゃね?」 「だから学園長さんは……ああ、また堂々巡りだ」 一通り意見が巡ったところで、今度は乱太郎が切り出す。 「でも、ここで生活していくんならさ、 やっぱり“ご近所付き合い”は上手くやっていかなきゃいけないんじゃないかな」 「ぼくもそう思う」 「争って追い出されるなんてことになったら、元も子もないもんね」 「確かに」 「戦わずに済むなら、やっぱりその方が」 「さすがに向こうに本気でこられたら、かなわないし」 「力量的にも、数量的にもね」 「やっぱり争わずに付き合っていくのが一番?」 「いいんじゃない、それで」 「方針は決まったね。じゃあ、この話し合いには臨む方向でいい?」 全員が頷く。 「じゃあ、行く奴を決めないと」 「全員で行かないの?」 「ここを空けられないだろ。半分くらいに分けよう」 「庄左ヱ門には行って貰わないと。交渉役だし」 「とすると、ぼくは居残り組かな」 「兵ちゃんは副指揮官だもんね」 「からくり組は分けた方がいいんじゃない?」 「そうだね、向こうにからくりがあったら、対処用にやっぱり一人は連れて行きたい」 「じゃあ三治郎が向こうか」 分かりやすいようにと、部屋の中で、組別に左右に分かれていく。 「しんべヱと喜三太は残って。もし戦いになったら大変だから」 「同意見」 「はあい」 「分かった〜」 「伝達組も分けよう。何かあったときのために」 「じゃあ乱太郎は居残り組だね」 「医療班も分けたら、伊助は交渉組だ」 「虎若の力を生かせるのは遠距離戦だから、居残り組の方がいいんじゃない?」 「そうだね」 「じゃあぼくはこっち、と」 虎若も動いて、残りは三人になった。 「じゃあ後は戦闘班を分けないと」 「交渉組が少ないから、そっちに二人入れたら?」 「誰が?」 「きり丸には残って貰おうよ。みんなが合図くれたら分かるし」 「そうだね、警戒してもらおうよ」 「了解っと」 「じゃあぼくと団蔵はこっちか」 「これで全員だね」 「じゃあ、確認」 「交渉組、ぼく、三治郎、伊助、金吾、団蔵」 並んで、手を上げた。 「居残り組、兵太夫、乱太郎、しんべヱ、喜三太、虎若、きり丸」 居残り組も手を上げる。 「じゃあ、これでいいね」 「交渉は、明日?」 「うん、天気もいいらしいし」 「じゃあ、今日はそれに備えて早めに寝よう」 「そうだね、少し歩くし」 「よし、それじゃ今日は解散!」 「かいさーん」 ばらばらと、来た時のように散っていく。 それを見届けてから、兵太夫と三治郎も立ち上がった。 「三治郎」 「分かってるよ。からくり整備しないとね」 「お前は明日出かけるのに、悪いな」 「何言ってるの。みんなを守るためなんだから。そのためなら、何だってするよ」 「うん……守らないとな」 「ぼくたちはぼくたちに出来ることで、みんなを守るんだ」 「ああ。さて、裏庭から行くか」 「忙しいね」 「そうだな」 二人で笑い合って、その後、一緒に部屋を出て行った。