「え、今度は返事を聞きに?」

「そうなんだ〜。だから今日も出かけるよ」

「タカ丸さん、かり出されてばかりですね」

「まあ、でもそれであの子達が安心してくれるなら」

ごそごそと、旅支度を整えながらタカ丸が言う。

その部屋の入り口で、喜八郎と滝夜叉丸がそれを見ていた。

「峠向こうの森の中まででしょう?大変じゃないですか?」

「大変だけど頑張んないとっと。よし、準備終わったー」

ふう、と一息ついて、タカ丸は荷造りを終えたその荷物を背負う。

「それじゃ、行って来るね。門で不破君と竹谷君と待ち合わせしてるし」

「はい、行ってらっしゃい」

喜八郎と滝夜叉丸に見送られて、タカ丸は四年の長屋を出た。


「だから何でハチは良くて私は駄目なんだ」

「三郎は前回ので警戒されてるからって一度言っただろ」

「自業自得」

「兵助、それ僕が言った」

ところ変わって五年の長屋、そこでも雷蔵と八左ヱ門が支度を整えていた。

またもや同行を許されなかった三郎が口を尖らせる。

今回八左ヱ門は、動物を扱うことに長けた子供がいるという情報から、

それがどの程度のものなのかを判断するために、

場所を知っている雷蔵と、子供達と仲のいいタカ丸に同行することになった。

まだ不満げにしている三郎に、雷蔵がぺし、と額を叩く。

「一度定着した印象はなかなか変わらないからね。

あの子達が僕らに気を許してくれるまでは、三郎は留守番だよ」

雷蔵より少し遅れて支度を終えた八左ヱ門が、部屋から出てきた。

「それじゃ、行って来るな」

「付いて来ちゃだめだよ、三郎!兵助、三郎をよろしくね」

「行ってらっしゃい」

頷きながら兵助は二人を見送る。

その手はがっちりと三郎を掴んでいた。


「他に何か持っていった方がいいものはあるかな」

辺りに散りばらまかれた小物型のからくりを見渡して、三治郎が兵太夫に尋ねる。

「いや、持って行き過ぎるのもよくない。動きが鈍るし、どれを使おうか迷ったらいけないし」

「じゃあ、あとこれだけ持っていくよ」

「うん、それがいい」

兵太夫のアドバイスを受けて、三治郎はからくりを選んで荷物入れに詰めた。

そこで、管から声が響いてくる。

「三治郎、まだ?」

「今行くよ」

すぐに返事をして、二人は急いで上に上がった。

そこには、交渉組として旅立つ他の四人が、準備を終えて待っていた。

「遅いよ」

「ごめん、ごめん。何を持って行こうか迷って」

謝りながら、その集団に三治郎が加わる。

他の四人も多かれ少なかれ色々細々とも持ち、旅支度を整えていた。

「それじゃ、留守は任せたよ」

「任された」

「家事はとにかく無理はしないでね。それで何かあったら後で大変だから。

各自できることだけ、やって」

「うん、分かった」

「喜三太、ナメクジたちが他の部屋に行かないように気をつけろよ、

歯磨きはちゃんとすること、それから絶対に外に出るな。

どうしても出るならきり丸か虎若と一緒に行けよ」

「分かってるよ〜」

「金吾は心配性だな」

「きり丸にだけは言われたくないよ」

「ぼくたちがいない間、ケンカとかしないでね」

互いに互いを一通り心配してから、交渉組は改めて出立することになった。

「それじゃ、行って来る」

「行ってらっしゃい!」

「気をつけてね!」

森の向こうまで見えなくなってから、居残り組は互いを見やった。

兵太夫を中心にして、丸くなる。

「これからしばらく、最低でも三日くらい、長かったらもっとかもしれない、

人員がかなり少ない状態で待機することになる。普段から気をつけておこう」

「だね」

兵太夫の提案に、乱太郎が頷く。

「まず、喜三太ときり丸の侵入者感知はいつものようにやってね」

「はあい」

「おう」

喜三太ときり丸が頷く。

「ぼくもからくりを強化しておくから、しんべヱと喜三太はなるべく建物から出ないこと。

引っかかるかもしれないし。出る時は僕を呼んで」

しんべえと、喜三太がもう一度頷く。

「虎若は用事がない時以外は、なるべく見張り台にいて。

いつでも射撃できるように。だから寝る場所も、見張り台のすぐ近くにある予備部屋で」

「分かった」

虎若も頷く。

「乱太郎もなるべく建物から出ないこと。医務室の薬はいつでも万全に」

「うん」

大体全員の役割を決めて、目を見合わせて頷きあった。

「ちょっと不安だけど、みんなが帰ってくるまでは、僕らでここを守らなきゃ」

「頑張ろう」

「うん、頑張ろう」

「ここは、みんなが帰ってくる場所だもんね」

「ぼくらの家だからね」

「よし、それじゃ、解散!」


兵太夫が号令をかけて、各自己の役割を全うするべく、いるべき場所に散っていった。