「本当に森の中だね〜」

「殆ど獣道だ」

雷蔵に先導されながら、三人は子供達のいる森へとたどり着いた。

目の前には、道という道は殆どない、鬱蒼とした森が広がっている。

それを見て、タカ丸は目を丸くした。

「ここにあの子達が住んでるんだ」

「はい、このもう少し奥……」

雷蔵が少し森に踏み込んだ時、八左ヱ門が急に足を止めた。

「え、どうしたの、ハチ?」

「……今、一斉に動物達がこっち見た」

殆ど視線を動かさず、八左ヱ門は言った。

言われて雷蔵とタカ丸は辺りを見回してみたが、周りには何もいない。

その怪訝そうにする様子を見て、八左ヱ門が説明を付け加える。

「虫とか、小動物とか、そういうのが。気持ち悪いくらいに、一斉に」

普段から生物委員として動物を扱い、獣遁を得意とする八左ヱ門は生き物に詳しい。

その彼にとって、生き物達のその行動は気持ち悪いほどのものだった。

「……なるほど、森に入った瞬間から、僕達は監視されてたんだね。

それなら、あそこに入った時、

まるで僕達がどこから来るのか分かっていたかのような行動に、説明が付く」

八左ヱ門の説明に、雷蔵が得心が行ったように頷く。

それからまた再び率先して歩き出した。

「でもまあ、行くしかないし」

がさがさと草をより分けながら進んでいくその行動に、八左ヱ門はため息をつきながら苦笑した。

「ほんと、お前よく迷う割に大雑把だよな」

タカ丸を先に行かせて中心にはさんで、八左ヱ門も急いで雷蔵を追った。


タカ丸に気を遣いながら、三人は獣道を歩く。

ふと、雷蔵が後ろの八左ヱ門に尋ねた。

「ねえ、ハチ。まだ動物たちはこっち見てるの?」

「ああ、ずっとな。ここまで来たら、もう人間が意図的に動かしてない方がおかしい。

これは相当の獣遁・虫遁使いだぞ」

その言葉には、タカ丸が反論した。

「違うよ、竹谷君。

きさ君にとって、動物たちは使役する対象じゃない。友達なんだ。

この森にいる動物たちがきさ君たちを守っているなら、

それは命令なんかじゃなくて、きっと好意からのものなんだよ」

一番よく子供達を知っているタカ丸の言葉に、八左ヱ門は不満げな視線を前のタカ丸に投げかけた。

「これだけ動物たちと意志を通わせていて、本人に獣遁をするつもりはないのか?」

「そうだよ。あくまで、友達なんだ」

二人の会話を背に受けながら、雷蔵は黙々と森を歩いていた。

時々、雷蔵でも分かるくらいに姿を見せた動物達を見やる。

その目は、じっと、目を離すことなく雷蔵たちを監視していた。


少しして、ようやく三人は目的地にたどり着いた。

森の中で、やや不自然に開かれた空間と、その真ん中にちょこんと建つ建物。

不躾に入るのも悪いので、雷蔵たちは敷地内に入る前に一度止まった。

「ここが、みんなの家?」

「はい」

タカ丸が顔を出してきょろきょろと見回す。

その顔が、ある一点で止まった。

「あ、虎君だ。おーい、虎くーん!」

タカ丸がぶんぶんと手を振る。

雷蔵たちがその視線を追って顔を向ければ、

建物の一番高いところ、その隙間から確かに小さい顔が見えた。

だが、その距離は大分離れていて、誰かを判別するのは少し難しい。

「タカ丸さん、見えるんですか?」

八左ヱ門が聞くと、タカ丸は当然とばかりに首を降った。

「とりあえず、髪が見えたから。そしたら分かるでしょ」

いや、分からないですよ、という突っ込みは、心の中にしまった八左ヱ門だった。


タカ丸に手を振られた虎若は、困ったように管に声を伝える。

「タカ丸さんがいるんだけど。手を振られた。

振り返した方が良い?ていうか何でぼくだって分かったんだろう?」

「髪が見えたから、だってさ。タカ丸さんらしい。とりあえず振り返しとけ」

最初にきり丸から声が返ってきて、虎若は言われた通り、とりあえず手を振り返しておいた。

「兵、どうする?」

「……タカ丸さんを連れてきているなら、多分内容は友好関係。

っていうことは、多分返事を聞きに来たんだ」

「え?でも、庄たちもう出発したよね?」

「入れ違いになったんだよ、多分」

一通り会話してから、兵太夫はこほんと一つ咳払いをして、

それから改めて、入り口付近にある管に声を通す。

「先日頂いた手紙の返事なら、既に仲間が忍術学園に向けて出立しました。

ここまでご足労していただいて恐縮ですが、お引取り下さい」


「あらら、入れ違いになったみたいだね」

「そうみたいですね。どうする、ハチ。

ハチは動物を使ってる……きさ君だったかと話したいんだよね」

「うーん、そうだな」

少し迷ってから、八左ヱ門はその旨を、再び管を通して伝えた。


予想外の内容に、管の近くにいたメンバーが目を丸くした。

「……きさと?」

「どうしよう?」

「きさは?話してみたい?」

乱太郎が聞いてみたが、喜三太は曖昧な返事を返す。

「俺は止めた方がいいと思うけど」

そう言ったのはきり丸で、乱太郎がなぜか、と聞いた。

「前に聴いたことがある。忍は、動物達をあくまで使役として用いる。

きさみたいに友達として接するじゃなくて、道具として使うんだ。話、合わないと思うぜ」

「ナメさんたちを、道具として……?」

喜三太が管の向こうで震えた声を出した。

想像できない、と小さく呟く声も聞こえる。

「いや、ナメクジは使わないと思うけど」

きり丸は冷静に突っ込みを入れた。

それから、喜三太が小さく、嫌だ、と言ったのが聞こえて、

兵太夫はきさは話したくない、と言っているのを伝えようとして。

カラン、と響いた音に、その動きを止めた。

立て続けざまに、カラカラン、と音が続く。

その音に息を呑んだのは兵太夫だけではなかった。

妙に広まった沈黙に、きり丸の声が響く。

「一の鐘と五の鐘が鳴った……“あいつら”だ!」