響いたきり丸の声に、一気に騒然となった。

「っんでこんな時に……っ」

「何で“奴ら”が!」

「ど、どうしよう……」

「まさか……いや」

兵太夫はある可能性を思い浮かべつつも、首を振ってその考えを打ち消した。

「今はそんなこと考えている場合じゃない、指示を出さないと!

しん、すぐに地下のからくり部屋まで下りて来て!虎はそこで臨戦待機!

きさも見張り台に上って報告を待って!分かり次第通達!

通達のち、すぐに同じくからくり部屋まで下りてくること!

乱は撹乱用と治療用両方の薬を持って、所定の場所に撹乱用を設置して回って!全員急いで!」

次々と管を変えながら、急いで指示を出す。

すぐに返事は返ってきた。

それから焦ったように、入り口近くに通っている管に話しかける。

「事情が変わりました。今すぐお帰り下さい。早く!」


いきなり管の向こうが切羽詰りだして、雷蔵たちも何かあったのかと慌てた。

「何かあったの?僕らでよければ手伝いを……」

「いいから早くお帰り下さい!」

兵太夫の声は有無を言わせない調になっている。

先ほどまで冷静に話をしていた者がそんな風になっているということだけで、

何かあったと察知するには十分だった。

しかし、それだけでもない。

「ハチ」

「分かってる。正確な数までは分からんが……十くらいはいそうだ」

「え、どうしたの?」

一人、まだ忍術学園に入って日が浅いタカ丸だけが、首をかしげる。

雷蔵と八左ヱ門が、タカ丸を庇うように背中合わせに立った。

「どういうことだよ」

「僕が聞きたいよ」

刀を構える。

びりびりと、その気は自己主張をするかのように伝わってきていた。


「みんな!数は十二!ええと、北から三人、東から四人、南から三人、西から二人!」

「多いな……」

「きさ、すぐにからくり部屋に!」

「う、うん!」

管の向こうから、どたどたと走る音。

「撹乱用は設置終了!私は次はどうすればいい!?」

「……全員揃ってない状況で十二はきつい……二の場所に向かおう!

乱も下に下りてきて!きり、虎、ぼくがからくりで援護する!

下に抜けられる穴があるから、指示通りに動いて!」

「二の場所……出ているみんなにはどうするの!?」

「生き残るのが先決だよ!後で何か使いは送らせるから……とにかく急いで!」

叫ぶような声が飛び交う中、兵太夫は急いでからくりの整備を済ませる。

まだそれも終わらぬ時に、ドン、と大きな音がした。


投げられた手裏剣を、刀で弾き返す。

それから方向を定めて手裏剣を投げ返した。

手裏剣を使うのは、忍。

一応、忍に扮した者という可能性もないこともないが、そんなことをする理由が無い。

八左ヱ門は舌打ちをしながら叫んだ。

「何だって、子供だけの場所にどこぞの忍が襲撃に来るんだよ!?」

「僕が聞きたいよっと!タカ丸さん、頭を低くして、動かないでくださいね!」

「うん」

また投げられた手裏剣を弾き返しながら、雷蔵は背にいるタカ丸に呼びかける。

タカ丸は言われたとおりに屈みこんだ。

「こっちに攻撃して来てるのは二〜三人程度……とすれば、

子供達の方に軽く八人くらいはいる計算だ。確かうちの一年と同じくらいなんだよな?

どう考えたって、無理だろ!」

と、八左ヱ門が叫ぶのとほぼ同時に、ドンと大きな音がした。

「何の音!?」

「断言は出来ませんが……火縄銃か大砲か、とにかくそれに近いもの、ですね!」

驚いてびくついたタカ丸に、雷蔵が刀を振るいながら答える。

未だ飛んで来る手裏剣や、おそらく発砲音が響いたであろう方角を睨みながら、

八左ヱ門が背のタカ丸に声をかける。

「タカ丸さん、走れますか?ガキ共を放っておきたくはないんですが」

「ハチ、行く気?」

「雷蔵、お前は一年と同じくらいの年のガキを放っておけるのか?」

八左ヱ門が質問に質問で返す。

雷蔵は少しだけ躊躇った後、首を振った。

追い討ちをかけるように、タカ丸も立ち上がる。

「僕だって一応忍の勉強をしてるんだ。少しくらいは大丈夫だよ。何より……あの子達、助けたいし」

一番子供達と仲の良いタカ丸がそう言って、懐から小刀を取り出す。

「決まりだな」

「うん」

「よし、行くか!」

意気込んで、三人は音のする方に向かって走り出した。


「い、たぁ……っ!!」

きり丸が耳を押さえる。

苦しそうに歯を食いしばるきり丸に、虎若が手を貸した。

「きり、大丈夫か!」

きり丸を引っ張るようにして、兵太夫の指示した穴に落ちる。

少し落下して、ぼふ、と軟着陸した。

「虎ときりも来た!」

「よし、全員揃ったな。脱出しよう!」

先に進もうとする兵太夫に、虎若が声をかける。

「待って、兵!きりが耳やられた!」

「だいじょ、ぶだ。少し、痛い……だけ」

気丈に笑いながらも、きり丸は痛そうに顔を顰めたままだ。

乱太郎としんべヱが心配そうに覗き込む。

「大丈夫……だから。早く、出ないと、まずいだろ」

兵太夫は悔しそうにしながらも頷く。

全員で駆け出そうとした時、上の階に繋がる方向から、声が響いた。


「見つけたぞ、ガキ共」