咄嗟に虎ときりが前に出る。

きりは痛みをこらえるように、顔を顰めたままだった。

「全く、面倒なからくりばかりをこさえてくれたな。

おかげで半分は当分動けなくなってしまったではないか」

「さて、大人しくしろよ。それから、他の者を解放するんだ」

黒装束に身を包んだ忍びが五人、そのうち二人が表立って刀を突きつけてきた。

「無駄な抵抗はするなよ。未だただのガキ六人が、俺達にかなうと思うか」

「……どうしよう、兵」

「いっぱい来てるよぉ〜」

兵太夫の後ろにいる喜三太としんべヱが、小声で弱音を吐く。

兵太夫は振り向いて二人を励ました。

「しっかりしろ!ぼくらはここを守んなきゃいけないんだ……何か手を」

「いい加減に諦めろ!」

忍の一人が業を煮やして、手を伸ばしてきた。

それをきり丸が防ぐ。

「きり!」

「……っ、こいつらに、手は出させねえ!」

「ぼくだって!」

虎若がきり丸に触発されて、威嚇代わりに、火縄銃を忍たちの足元に打ち込む。

忍たちがそれによって僅かに動きを止めたのを見て、すかさず兵太夫が仲間に指示を出す。

「乱、あいつらに向かって薬投げて!しんもあっちに向かって発射!」

それから自身はすぐ傍のからくり起動スイッチを押す。

乱太郎はすぐさま、持っていた撹乱用の薬を投げて、しんべヱはややあって、正面に鼻水を打ち出した。

それと同時に、からくりが起動してその動作で一気に視界が悪くなる。

「今のうちだ!行こう!」

その隙に逃げ出そうとしたが、五人の忍のうち二人が、

からくりやらなにやらを越えて、最後尾のきり丸と虎若に襲い掛かった。

「小ざかしいまねを!」

「大人しくしていれば良かったものを!」

二人とも手に刀を握っている。

「うわ!」

「いたぁっ!」

攻撃は峰だったので血こそ流れなかったものの、二人はそれぞれに一撃を食らって、弾き飛ばされた。

「きり、虎!」

「いい……から、行け!」

「にげろ!」

乱太郎が放った煙幕のどこかから、二人の声が届く。

「でも!」

仲間を見捨てられない、と足踏みをしている間に、煙幕の向こうから手裏剣が飛んで来た。

「逃がすか!」

一番前に立っていた兵太夫がそれに気付いて、後ろの面々を庇う。

「っ!」

いくつかが兵太夫を掠め、切り傷を残した。

それに気付いたきり丸と虎若が起き上がる。

「兵!」

「……の、やろぉ!」

二人は武器を手に、再び立ち向かったが、どちらも攻撃を敵の刀に弾かれた。

兵太夫も必死にからくりをいじったが、煙幕で正確な位置は狙えず、決定打にはならなかった。

そうこうする間にも、煙幕の中での攻防は続く。

きり丸と虎若は幾度と無く攻撃をしかけていたが、命中することはなかった。

からくりも使われ続けている。

煙幕が大分晴れ、薄っすらと互いの姿が確認できるようになった頃、からくりの音が止んだ。

敵周辺に仕掛けていたからくりが尽きたのだ。

その一瞬を見て、焦れた忍がきり丸と虎若に刀を振り下ろす。

体勢を崩していた二人は避けることができず、次に来るだろう衝撃に目をつぶった。

だが、その衝撃の前に、叫び声が部屋の全員に突き刺さった。


「止めてぇ!!!」