「山奥に、子供が?」 「はい」 忍術学園に帰った作兵衛と藤内は、森で会った子供たちについて、先生に報告していた。 そこまでに迷子の捕獲やら説教やらあったせいで、くたびれきっていたが。 「ここからそう遠くはないし、そんな話を聞いたこともなかったので、一応ご報告しておこうかと」 藤内の説明に、先生は頷いた。 「うむ、一応上に持っていって検討しておく。お前達はもう帰っていい。ああ、補習はあるからな」 「「はーい」」 やっぱりな、と思いながら、二人は長屋へと戻っていった。 走り回ってへとへとで、ご飯まで一休みしようと、各自の部屋に戻る。 「さくべー、おかえりー」 「とーないも、おかえりー」 三のろの部屋には、作兵衛の疲れの四割を担っているというのに、平然とした左門と三之助が寛いでいた。 「あんだけ走り回って、なんでそんなけろっとしてんだよ、全く……」 ぶつぶついいながら、作兵衛は律儀に泥をはたいてから、部屋の前の廊下に転がる。 藤内も部屋まで歩いていく気力がなえたのか、同じく泥をはらって廊下に転がった。 「お疲れ様、藤内、作兵衛。怪我はない?」 すると、廊下の向こうから、救急箱を抱えた数馬が歩いてきた。 「んー、かすり傷ならちらほら」 保健委員らしいその言葉に、二人は手をひらひらさせることで答える。 倒れた二人の傍らいちょこんと座り込んで、数馬は二人の手当てを始めた。 「ごめんね、ろとはの混同チームだったのに、また左門と三之助の捜索させちゃって」 そう言いながら、てきぱきと消毒をして包帯を巻いていく。 染みる、と力なく呟いて、作兵衛は転がったまま首を降った。 「もう諦めついてっから、数馬は気にすんな……お前らはちったぁ気にしろ」 視線を頭上の方角、つまり部屋に向けて作兵衛が睨む。 それに対する返事は、全力での励ましだった。 「何かよく分からんが、頑張れ作兵衛!」 「頑張れ!」 「……いい加減、分かれー」 もう本当に力尽きたのか、つっこみにも覇気がなかった。 それを大丈夫か、と心配する藤内の声にも、力がない。 作兵衛の手当てを終え、数馬は苦笑しながら藤内の手当てにかかった。 「それで、何かあったの?課題失敗のほかにも、何か報告してたでしょ」 「んー、ちょっとばかし戦ったんだけど、あれよあれよと動いているうちに山の中に入ってさ」 藤内の説明に、間髪要れず、叫び声が重なった。 「迷子になったのか!!」 「ダメだな、作兵衛は!」 「……もう黙れよてめーら」 作兵衛は頭巾を部屋に投げつけた。 当たったのかどうかは、作兵衛からは見えない。 「続けて、藤内」 その一連の動作を見ながら、数馬はその先を促す。 「あれだ、この前課題で行った峠。あの向こう辺りでなんだけど、子供を見かけて」 「子供?あの辺りに村なんてないよね?」 数馬が頭の中で地図を思い出しながら言う。 そうそう、と作兵衛は続けた。 「オレたちもそう思ってさ、しかも、なにやら混乱にまぎれて煙玉まで使って来て…… 見失いはしたが、報告はした方がいいと思ったんだ」 「へえ……」 てきぱきと処置を終えた数馬が、救急箱を閉じた。 「何なんだろうね、その子供たち?」 「さあ?」 一息つき終わったところで、のったりと、作兵衛と藤内は起き上がった。 「そろそろ行かないと、いいメニューなくなるな」 「そうだな、と」 二人とも体はへとへとだったが、どうせなら美味しいものを食べたい、と立ち上がる。 作兵衛は左門と三之助にしっかりと縄をくくりつけ(迷子防止)、 ついでに途中で会った孫兵も加えて、食堂に向かった。 その途中、おーい、と声をかけられる。 「浦風と富松だよな?峠向こうで子供に会ったっての」 「鉢屋先輩と不破先輩!」 やってきた人物に、三年生(の何人か)は目を丸くした。 それから言われたことをようやく理解し、当事者の二人は頷いた。 「はい」 「もしかして、調査に行くんですか?お二人が?」 「ああ、それで会った子供のことを詳しく聞こうと思ってな」 「ごめんね、ご飯に行く途中だったんでしょ?」 雷蔵が手を合わせて謝る。 それを見て、二人はふるふると首を振った。 「こんな時間からってことは、早急でしょう?お気になさらないで下さい」 今は夕暮れ時。 今から調査に出るということは、少なくとも一日二日、野営をしつつの調査ということだ。 つまりは、野営を辞さないほど急いでいるということだ。 二人はそれが分かって、先ほど先生にした話を繰り返す。(作兵衛はしっかりと縄を握ったままだ) 「ええと、僕たちがあった、というより直接見た子供は二人です」 「それから、多分その子達を迎えに来ただろう、同じ年頃の子供を、煙越しに二人」 「ふむふむ、それで?」 頷きながら三郎が促す。 二人は懸命に、なるべく鮮明の子供の姿を思い浮かべた。 「二人とも、身長はうちの一年くらいです。それよりやや小さいかな」 「一人はとてもふっくらとしてましたよ。結構小さくて、ころころして……黒髪でした」 「もう一人は茶髪で、少し長くて……なんだか?気な喋り方をする子供でした」 「煙越しの二人は姿を見ていませんが、会った二人よりは機敏そうな声音でした」 「ああ、それと、銃を撃って来た奴もいるんで、それなりに仲間がいるんだと思います」 思い出せる限りの情報を告げて、二人はそれで終わりです、と声をそろえた。 相槌を打ちながら聞いていた二人は、なるほど、と頷く。 「ありがとう、参考になったよ」 「ふむ、なかなか面白そうだな。ありがとう、ではな!」 「ゆっくり休んでねー」 話を聞くなり、二人は手をひらひらと振りながら、走り去った。 何も音がしなくなるまでそれを見届けた頃に、孫兵が口を開く。 「夕飯、食べに行かないのか?」 「ああ、そうだ!」 何となくのんびりと見送ってしまった三年生たちはようやく我に帰って、 うるさい音を立てる腹を鎮めるために、食堂に急いだ。