「じゃあ、雷蔵、一応気をつけてな」 「うん、三郎もね」 森の半ば、明かりが見えた二人は、“それ”が円形であることを知り、西と東に分かれた。 正確には、三郎が東側に回った。 別れてから一刻、と時間を決めて、二人は時間まで森の中に身を潜めた。 そして一刻、二人は同時に潜入、というより乱入した。 「! 金、いるよ、正面。僅かに臭う」 伊助が合図をし、金吾は刀を抜いて身構える。 そして、森からゆっくりと、影が姿を現した。 「あれ!?」 出てきたのは雷蔵だ。 こっそり入るつもりであったのに、まるでどこから来るのか分かっていたと言わんばかりのお出迎えに、 思わず声を上げた。 もちろんその驚きには、やはり予想通りの子供ばっかりだったことも含まれている。 「こんな真夜中に、どなたですか?」 伊助がなるべく礼儀正しく聞く。 その手は鉄棒を放さない。 雷蔵はやりにくいな、と思ってから、ええと、と声を上げる。 「お、お邪魔します?」 「お邪魔しないで下さい。出来ればお帰りいただきたいのですが」 その言葉に含まれるものを感じて、雷蔵は少しだけ気を引き締めた。 「その感じ、僕らが何者か、知ってるね?」 「忍術学園の忍さんですね。学年は五か六と言ったところでしょうか」 「……うん、正解」 隠しても無駄だと思ったのか、雷蔵は素直に降参する。 それから、なるべく丁寧に、柔らかく話しかけた。 「えーと、とりあえず、お話を聞きたいんだけど、いいかな?」 「残念ながら、話をするのはぼくらではないので」 「?」 疑問符を飛ばした雷蔵を余所に、伊助は足元の筒に声をかけた。 「庄、話せる?」 「大丈夫。二人とも、十歩下がって」 すぐに筒から返事が返ってきて、二人はいうとおりにした。 それから手招きして雷蔵を呼び寄せる。 「そこの筒に向かって話しかけてください」 「こ、これ?」 雷蔵がそろそろと近づくと、筒からはきはきとした声が通ってきた。 「初めまして、忍術学園の忍者さん。ぼくは庄といいます。お名前は?」 「わ、これ、伝声管?あ、初めまして、不破雷蔵です」 雷蔵も律儀に返事をした。 「ところでさっそくですが、出来ればすぐにお帰りいただいて、ここには近寄らないで欲しいのですが」 「うーん、そういうわけにも行かないんだよ。 学園からそれほど遠くないところに、未知の領域があるっていうのは、 いつ危険な状態を招くか分からないからね。きみ達は最近ここに住み着いたんだろう?」 「はい、二年ほど前ですね」 「二年かあ……結構長いなあ。 うーん、とにかく出来れば向かい合って詳しく事情を聞きたいんだけど、だめかな」 「……」 筒の向こうから、小さな唸り声が聞こえた。 悩んでいるのだろう。 筒の向こう側の声も、やはり小さな子供。 気長に待とう、と雷蔵が思っていると、少し離れたところからぼふん、と音がした。 「!?」 「三郎!?」 そちらは三郎が行っているはずの東側だったので、雷蔵はよく見ようと動こうとして。 「あ、いけません、動いちゃ!」 「え」 伊助の制止が間に合わなくて、雷蔵が一歩踏み出した瞬間、かち、と音がした。 途端、何が起こったのかもわからないまま、べちゃ、と雷蔵は地面に叩きつけられる。 「うわ!?」 「あーあ」 「え、何これ!?」 べたべたとした何かに地面にはりつけられた雷蔵は、動こうとしたが、動けない。 まるでとりもちのようだ。 「ね、あの、これ何!?」 「からくりです。ぼくたちの家はからくりだらけですからね。 だからうかつに動かないで欲しかったのに……」 「あれは三日前のかな。なかなか落ちないぞ、これは」 主に聞き役に回っていた金吾も、よいしょ、と近づいてきて、ためいきをついた。 首も動かせない状態で、雷蔵は何とか金吾に視線を向ける。 「あのー、外してくれないかな?」 「僕らだけでは外せないんです、それ。いっけ、どうしよう?」 「庄ちゃん、どうする?」 話を振られた伊助は、そのまま判断を庄左ヱ門に持っていった。 少し悩んだ声がして、返事が来た。 「とりあえず待っててもらって。東側で戦闘が起きてるんだ。 どっちかっていうとからかいの感じだけど、終わらないことには話が出来ないから、 いっけたちもそっち回って」 「了解。というわけで不破さん、あなたの連れが暴れてるそうなので、止めてきます。 それまで待っててくださいね」 「動けないですから、抵抗してもだめですよ」 命が出るなり、伊助と金吾はばたばたと走っていってしまった。 「え、ちょっと、放置!?三郎なら僕が止めるから、助けてくれないかな?」 必死に縋ったが、二人の姿は既に遠い。 代わりに筒から返事が返ってきた。 「それを外すのには特別な薬品がいるんです。今乱を動かすわけには行かないから、待っててください。 動かなければ他のからくりは作動しないので」 そしてそれきり、返事は返ってこなかった。 びゅう、と風が吹く。 「……ぼくって、あほだ……」