一方、東側にまわった三郎は、予想通り子供ばかりの顔ぶれに、小さく笑った。 「まあころころころころと。本当に、うちの一年と同じくらいだなあ」 「そこにいるのはわかってます。とっとと出てきてくんないですかね」 きり丸がびし、と短刀を向けると、そっちから苦笑したように三郎が出てきた。 「よ、こんばんわ」 「あー、こんばんわ。こんな夜更けに何の用っすか」 「いや何々、あんまり月がきれいなもんだから、散歩にね」 三郎がからからと茶化す。 きり丸と団蔵は、む、と少し顔をしかめた。 それでもきちんと、一応礼をわきまえて話しかける。 「出来ればお帰りいただきたいんですが」 「こっちにも色々事情があって、そういうわけには行かないんだよ。 ついでに、ちょっと遊びたいな、と!」 少なくとも、多少は武術の心得があるのだろう構えをしている二人に、三郎は突っ込んで行った。 一年相手に組み手をやるような感覚で、からかうつもりだった。 足を踏み出して、一歩、二歩、三歩。 四歩目で、変化が起きた。 三郎の右足の下で、かち、と音がしたのだ。 「あーっ!!」 きり丸たちが叫ぶや否や、三郎はばっ、と元いた場所まで飛び上がる。 三郎が飛び上がった瞬間、ぼふん、と大きな音を立てて、その辺の土が弾けとんだ。 「おお!作法の素質あるんじゃないか!?」 三郎は楽しそうに着地した。 それからまたきり丸たちに向かってくる。 どうしよう、と迷ったきり丸たちに、下の筒から声が聞こえた。 「応戦!とにかく大人しくさせよう!」 庄左ヱ門だった。 「了解!」 それでやるべきことを決めた二人は、それぞれの武器を構えて、三郎に立ち向かう。 「虎、二人を援護!足元を狙え!きさ、コウモリで妨害! からくりの場所を教えてる動物で、足元も妨害!」 庄左ヱ門は監視台組に指示を出す。 すぐに了解、と返事が返ってきた。 三郎は軽い一撃をきり丸に打ち込んで、きり丸はそれをいなして弾いた。 いなされた先で団蔵が一発打ち込もうとしたのを、体をひねって避ける。 「やるなあ!」 着地しようとして、ぱん、と耳慣れた音を聞いた三郎は方向転換して、少し離れた場所に降り立った。 見れば、さっきまで自分がいた辺りに銃痕。 「聞いてた通り、狙撃手がいるな!」 楽しくなってきた、と三郎は鼻を鳴らす。 さすがに十代始めの子供だけあって、個々の力は大したものではないが、何より連携力がある。 自分の後輩達にも少し見習わせてやりたい、と心の中で呟いた。 途端、後ろから何かの音が聞こえて、三郎はそちらに視線をちらりとやる。 すると、コウモリやらリスやらいのししやらが、三郎に向かって突進してきていた。 「なあ!?」 さすがに驚いた三郎は、横に避けたが、するとまたカチ、と言って爆発が起きる。 動物たちはその爆発も器用に避け、見事にからくりを踏まぬように三郎に向かってきた。 「きさか!」 きり丸たちはにやり、と笑って、三郎の隙をつこうとじわりと近づいていった。 「ええ!?これ、君らが故意に操ってるのかい!?獣遁の素質もあるな! 全く、学園にスカウトしたいくらいだよ!」 動物達は、よけられては方向転換をして突進している。 三郎が避ければ二分の一以上の確率でからくりが作動する。 子供二人、いや、どこからかもう二人やってきて、その二人も三郎を狙っている。 時折加えられる攻撃も避けて、三郎は驚き半分、楽しさ半分で叫んだ。 「ちょ、これすごくないか? 四年生……いや、他の五年生でも難しいかも……ああ、動物と戦うならハチを連れてくれば良かった!」 と、三郎がある一点に降り立った瞬間。 「もらったーっ!!」 どこからか、兵太夫の声が響き渡った。 なんだなんだ、と三郎が辺りを見回して、そして足が全く動かないことに気付く。 「え」 足元には、半透明の、ぬめぬめした何か。 何だこれは、と三郎が思う前に、他の場所からも同じらしきものが発射されて、 ばたん、と三郎は押し倒された。 「えええ!?」 「どーだ!ここ最近で、三と庄ときさと一緒に考えに考えて作った、追い込み方捕獲作戦だ!」 三郎の近くにある筒から、自慢げな声が聞こえてきた。 三郎が動けない、とわかって、近づいてきたきり丸が、その筒に向かって言い返す。 「えげつねえよ、兵」 「大成功だね、兵〜」 返ってきたのは、三冶郎ののんびりとした声。 きり丸と、会話を聞いていた三郎も、脱力した。 「うわあ、まさかこの私が捕まるとは……やるね、きみ達」 ちょっと冷や汗をかきながらも、三郎は素直に感嘆した。 「あなたの仲間も、既に同じからくりに引っかかって、待ってもらっています。 とりあえず、向こうを先に外すので、そこで待っていてください」 今度は庄左ヱ門の声だ。 「ええ!?雷蔵も捕まってるのかい!?」 もう驚き続けてでもまた驚いて、三郎ははあ、と息をついた。 「君達は何者だい?」 「ただの子供でーす」 三郎の問いに、にっと笑ってきり丸は返した。