その日は、全員起き出してくるのが遅かった。

年が二桁に到達したばかりの子供たちが、真夜中にいらぬ来訪者を迎え、

小一時間は戦っていたのだから、当たり前の話なのだが。

大分日が高くなった頃、庄左ヱ門はのそりと起き上がる。

「さすがに、そろそろ、起きないとな……」

最後まで、忍の二人が出て行くのを見送っていた組の一人であったので、眠気は最高潮だ。

「お疲れ様、庄ちゃん。おはよう。

ご飯は適当に冷めても大丈夫なの作っておいたから、いつでも食べて」

そう快活に言ってのけたのは、既に起き出して洗濯物をかき集めている伊助だった。

「おはよう。みんなは?」

少しおきだしてきた頭で、庄左ヱ門はお腹すいた、と認識した。

「殆どのみんながまだ寝てるよ。きりも寝てるから、襲撃の心配はないでしょ」

笑いながらそう言って、伊助は洗濯物を持って部屋を出て行った。

庄左ヱ門はしばらくぼうっとして、それから顔をぱんぱんと叩いて、立ち上がる。

「さて、後始末しないと」


日が頂上に近くなれば、さすがに大半の面々は起き出してきた。

きり丸は、既にに乱太郎を連れてバイトへと赴いている。

すると、自然しんべヱを起こすものがおらず、その役目は団蔵が担うことになった。

「おい、起きろよ、しんべヱ!」

「……んー……」

「起きろってば!」

しんべヱの伏せている布団を持ち上げて、ころころと転がした。

いや、ころころと転がっていった。

そして、起きない。

それを見た団蔵は、思いっきり息を吸って。

「朝飯要らないのかーっ!!」

と叫んだ。

するとしんべヱはいきなりぱちりと目を覚まして、がばりと起き上がり。

「朝ごはん!」

「待て待て待て。まずは顔を洗え。着替えろ。それからなるべく頭をどうにかしろ」

寝癖でがっちんがっちんに固まったしんべヱの髪を見ながら、団蔵は小さくため息をついた。


「うんうん、みんな、昨日はありがとね、これからもよろしくね〜」

喜三太は、庭の隅、ほぼ森に近いところで大量の動物たちに囲まれていた。

それを遠目に見ながら、兵太夫が苦笑する。

「動物たちは元気か?」

「うん、みんな元気!」

「そりゃ良かったな」

作動したからくり、古くなってきたからくり、何か一つからくりを入れられるスペースのある地点、

それらを手元の地図に描き込みながら、兵太夫は腰を伸ばした。

「っくぁ、昨日はいっぱい作動したからな〜。まあ、結果は上々、いいとするか!」

それから再び、地図にしるしを書き込む作業に戻る。


かちゃかちゃと、用具庫で虎若は銃の手入れをしていた。

近くには、材料を検分している三冶郎がいる。

殆ど互いに無言で、黙々と互いの作業をこなしていた。

そこに、すっかり目を覚ました庄左ヱ門がやってきた。

「虎若、銃に異常はない?」


「至って正常動作、万事異常なし」

「よし、三冶郎は、何かいいのあったか?」

「そろそろ材料の補給が欲しいかな。

今度、またきり丸としんべヱ辺りをつれて、材料補給に行きたいよ」

からくりはその辺に捨ててある廃材で、大体を賄っている。

そうでもしないと、とても材料費はひねり出せない。

庄左ヱ門は満足そうにみてから、用具庫を後にした。

「頑張って!」

もちろん、激励も忘れない。


家の日当たりのいい場所で、洗濯物がぱたぱたとはためいていた。

「お疲れ様、伊助」

「ああ、庄ちゃん。みんなの様子はどう?」

「至って元気、問題ないみたい」

「そっか」

二人はほっとしたように、頭上に広がる青い空を見た。

「昨日のやつ、というか忍、また来るかなあ」

「多分ね。ぼくたちが得体が知れないのは確かだし……何度か交渉して、妥協案を見つけないと」

「だねー」

あはは、と二人で笑いあう。

「まあそう何度も何度も手鍛の忍に武器持って来られたり、兵糧攻めとかされたら一発なんだけど」

「本当に庄ちゃんって冷静にすごいこと言うよね」

そしてまた二人で笑う。

今二人に出来ることは、そうならないように祈ることだけだった。