「で、おめおめと帰ってきたというわけか」 「……返す言葉もありません」 「相手が相手なら、とっくに死んでおったな」 「……はい」 忍術学園、学園長室。 そこで雷蔵と三郎は、神妙な面持ちで正座していた。 ちょうど経過と成果(敗北の)を報告したところである。 「後でお前たちには補習をやるとして…… いやしかし、まがりなりにも双忍のお前達を捕獲するとは、なかなかやりおるのお」 学園長は、楽しそうに笑った。 そして学園長が楽しそうに笑うときは、何か一騒動起きる時だ。 それを身をもって知っている二人は、少し身を固くして次の言葉を待つ。 「とにかく先生たちを集めて、もう一度会議を行うかの。 二人とも、先生たちに片っ端から声をかけてきなさい」 「「……はい」」 当然逆らいようもない二人は、基本学園中に散っている先生たちを探して、学園中を走り回った。 「へえ、なるほど、そういうわけか」 「そういうわけだよ」 「だらしねえなあ、一年と年頃の変わらないガキどもに捕まるなんて」 「言い返せない自分が悔しい……」 声をかけ終わったあと、二人は同学年の兵助と八左衛門と、昨晩のことを話していた。 当然、その油断をなじられたのだが。 「にしても、その連携力はすごいな。六年生でもそこまで連携が出来るか……」 兵助が感心するように頷く。 「ガキの一人が、動物を意のままに操ってたって?オレも会ってみたいな。話が合いそうだ」 生物委員の八左衛門は、むしろ弾むように言った。 二人まちまちの反応を見ながら、雷蔵たちは苦笑する。 「んー、でも結局、何も分からなかったんだよね。ええと、何て言ったっけ、あの子供たち」 雷蔵がうーん、と記憶を辿り、三郎も記憶を掘り起こして幾つかの名前をひねりだした。 「しん、ときり、がいたのは覚えてる」 「それって乱きりしんの三人組?」 と、突然背後から声をかけられ、二人は振り返った。 兵助と八左衛門はやってくるその姿を確認していたので、普通に挨拶を交わす。 「こんにちは、タカ丸さん」 「……こんちは」 「久々知君、竹谷君、こんにちは〜」 髪結いのタカ丸はにこやかに挨拶すると、早々に会話を引き戻した。 「ね、それで、さっき話してたのって乱きりしんの三人組でしょ?会ったの?面白いでしょ、あの子達!」 「……え?」 うきうきと話すタカ丸を余所に、五年生四人は唖然となった。 「きり君の髪はきれいだからなあ、いじるの楽しいんだよね。しん君のほっぺはぷにぷにだし。 ね、元気だった?他の子には会った?」 それからきっかり十秒間、反応がなかったことにタカ丸は首を傾げたが、 次の瞬間雷蔵と三郎がすごい勢いでタカ丸に迫った。 「ちょ、タカ丸さん、あの子達知ってるんですか!?」 「どういうことだ!?」 その勢いに、タカ丸が疑問符を飛ばした。 「え?え?だって有名でしょ? どこからともなくやってきて、いつの間にかどこかへと消えていく、 しかし騒動を起こすことに関しては天才的な、神出鬼没のでこぼこトリオって」 全く訳が分からず首をかしげるタカ丸に、二人が執拗に詰め寄る。 「知ってるなら知ってるって早く言ってくださいよ〜!」 「それで、あの子達は何者なんだ!?」 それを見ながら、やはり驚いたが、それでも久々知は冷静に突っ込んだ。 「他に色々突っ込みどころ、あるだろ」 「あっはっは」 それからしばらくして、冷静に戻った二人によって、タカ丸は学園長室まで連行された。 「それで、その山に住んでいる子供たちを、知っているというのじゃな?」 「山に住んでるってのは初めて聞きましたけどね〜」 にへ、とタカ丸が緊張感皆無の顔で笑う。 その顔に毒気を抜かれながら、学園町室は話を促した。 「どのような子達じゃ?どの辺りで、なぜ有名なのだ?」 「どうって言われても……少なくともぼくが住んでた町では有名でしたよ。 何でも親がいなくて、子供たちだけで身を寄せ合って生きてるとかで、 きり君は、それはもうしょっちゅうバイトをしに町に来てましたし」 「戦災孤児かのお。ふむ、続けてくれ」 「バイトの内容に応じて、きり君は代わるがわる友達を連れてきてたんですよ。 そのやりとりがあまりにもおかしくって、漫才みたいだから、 特に乱きりしんの三人組に、でこぼこトリオって呼び名がついたんですけど…… 乱君と三君はとても足が速くて、きり君はお金に関することには貪欲、しん君は力持ち、 団君と金君は戦うのが上手くって用心棒代わりだったし、きさ君は動物と仲が良くて、 虎君は狩りが好きで、兵君はとっても指先が器用、いっけ君は色々器用で万能で、 庄君が全員のまとめ役で……」 と、タカ丸が指折り数えながら、子供たちを思い出していく。 最終的に、その顔はにへらと緩んだ。 「元気かなあ……」 確かにタカ丸の指が十一人を数えたのを見て、三郎は頷いた。 数は一致している。 名前も(確か)一緒であるし、間違いないだろうと。 「町に行けば、会えるのか?」 「会えると思いますよ。少なくともきり君には。他の面々は時と場合でしょうけど」 「具体的には、どこに行けば?」 「いつもバイトしてる場所が違いますから、断定は出来ませんけど…… その辺の人に、今日はでこぼこのアルバイター来てますかって聞けば、きっと教えてくれますよ」 どこまで有名なのか、と学園長が息をついた。 さっきまでは、どこのどういう子供たちかも全く分からずに、先生を集めて会議していたというのに。 ここからそう遠くない町では、有名な集団とは。 「どうしますか?」 先生の一人が学園長に尋ねる。 学園長はしばらく悩んで、それから顔を上げた。 「すぐに手を向かわせては、向こうの心象もよくあるまい。 明後日辺り、そうじゃな、タカ丸と、雷蔵と……食満辺りで町へ繰り出して来い」 それに抗議の声を上げたのは三郎だ。 「何で私も行かせてくれないんですか!」 「お前は前の攻防で警戒心を抱かれとるだろ。 かと言って一人も顔見知りがいないのでは、話に信憑性がないやも知れぬ。で、雷蔵じゃ。 親しいようじゃし、タカ丸がいればもう少し話は弾むじゃろ。 食満は、単に明日空いとる六年が他にいないからじゃ」 あー、なるほど、と一同が納得する中、それでもまだ三郎が不満げに口を尖らせている。 雷蔵が苦笑しながらたしなめた。 「勝手にしかけたお前の自業自得だろ。大人しく学園で待ってなよ」 「…………ちぇ」 大分間が空いて、三郎はそれだけ言った。