始まりは、何だったか。 今となってはどうでもいいそれに、それでも乱太郎は頭を傾けずにはいられなかった。 「なんで、こうなんのぉ……?」 見覚えのない森の中、一人ぽつんと立つ乱太郎はそうぼやいた。 最初は、泥棒退治だった。 おつかいに出て、偶然、物を盗られた老婆に会い、 助けようとは組が決めたのが、約三時間ほど前のこと。 泥棒を探して家々を尋ね回り、ようやく見つけたところ、当然その泥棒は逃走した。 それを追いかけて森に入ったはいいが、泥棒を追いかけるのに集中するあまり、 は組は全員ばらばらになってしまったのだ。 もしかしたら、途中で泥棒以上に気を引かれるものがあって、はぐれてしまった者もいるかもしれない。 残念なことに、乱太郎はそういう者に心当たりがあった。 それはともかく。 「みんなを探さないと!」 一通り落ち込んで、それから乱太郎は立ち上がった。 いつまでも落ち込んでいても仕方ないからだ。 とは言っても、どちらに向かえばいいのか、皆目検討がつかない。 なので、乱太郎はとりあえず自分が進んでいた方向に向かって進んだ。 途中、小川の流れる音が聞こえた気がして、乱太郎はそちらへ足を運んだ。 そこで。 「ああ!」 「あ!」 「三治郎!」 「乱太郎!」 探していたは組の仲間を見つけ、二人は互いに駆け寄る。 「よかった、見つかって」 「乱太郎、一人?」 「うん、三治郎は?」 「それが、ぼくもなんだ……」 どうやら、三治郎も他の仲間と逸れてしまったらしい。 うなだれる三治郎に、乱太郎はことさら明るく笑いかけた。 「大丈夫だよ、すぐに見つかるって」 「そうだね」 三治郎もすぐに顔を上げて、笑い合った。 「ところで、三治郎、川で何をしていたの?」 乱太郎が三治郎を見つけたとき、三治郎はしゃがみこんで何かをしていた。 「山では水場が大事だからね。 上流から誰か合図をくれるかもしれないし、下流に流せば誰か気付いてくれるかもしれない。 だから、ほら」 三治郎はそう言って、手の中にあったものを、乱太郎がよく見えるように持ち上げる。 「笹船?」 「そう。前に父上に習ったんだ」 笹で組まれた簡単な船には、小さい葉っぱが乗せられていた。 三治郎の父は山伏で、長期休暇の際は山で一緒に修行をしているらしい。 その知識をもとに、笹の葉を見つけ出して作ったという。 「葉、では組だと分からないかな、と思って」 「うーん、きり丸や庄左ヱ門ならともかく…… しんべヱや喜三太だとちょっと分からないんじゃないかな」 それでも流さないよりはずっといいと、乱太郎も笹船の作り方を教えて貰い、一緒に川に流した。 「これでよし、と」 「川で、誰か来ないか待ってみる?」 「うん、でも川のすぐ傍だと、獣見つかるかもしれないから、 少しだけ森に入って、食料確保しながら待ってみよう」 すらすらと対策を述べる三治郎に、乱太郎がおお、と声を上げた。 「すごいね、三治郎。それも父ちゃんから聞いたの?」 「うん」 乱太郎に褒められて、三治郎が嬉しそうに頭を掻いた。 それから、二人は森に入り、食べられそうなもの(主に三治郎が判断した)を集め始めた。 「さて、どーすっか」 「どうしよう?」 「ぼくに聞くなよ」 森の中、きり丸、兵太夫、虎若の三人は円を作って座り込んでいた。 「とりあえず、みんなを見つけないと」 「どうやって?」 「しらみつぶししかないんじゃない?」 と言い合っている三人も、先ほど合流したばかりだった。 その後しばらく三人で辺りを捜索してみたものの、どうやら近くに他の仲間はいないらしい。 「まず、食料を確保するべきじゃね?腹が減っては戦はできねえってな」 「おお、きり丸が全うな意見を」 「失礼だぞ虎若」 きり丸と虎若がややにらみ合ったが、兵太夫がそれを止めた。 「とりあえず、きり丸の意見採用な。で、お前ら、山にある食べられるものって、何か分かるか? ちなみにぼくはさっぱり分からない」 兵太夫は基本的に家(部屋)にこもっているタイプなので、そういう類のことはさっぱり分からなかった。 授業と補習ではちらほらやっているものの、確実に食用と毒を見極められる自信は、兵太夫にはなかった。 「虫ならいくらか分かるけどな。いつも食ってるから」 「……土井先生の心から同情するよ。草なら少し。父さんに教えて貰ったことがある」 虎若の言葉に頷きつつ、兵太夫は二人に指示を出す。 「じゃ、ここ拠点にして、なんか探してくれ。毒は毒で、獣や野盗対策になるから取ってきてくれ」 「了解。兵太夫は?」 きり丸が頷いて立ち上がり、それから兵太夫に顔を向けた。 その質問に、兵太夫はにやりと笑った。 「ちょっと、な」