「いやあ、ここまで鮮やかにかかると気持ちいいね! ぼく、ちょっと綾部先輩の気持ち分かったかも」 兵太夫が満足げに。 「だいせいこう、は綾部先輩の口癖だしねえ」 三治郎がにこにこしながら。 「みんな、お疲れ様!よくやったよ!」 喜三太が動けない野盗からナメクジを回収しながら。 「本当に忍ナメにしそうだな……」 金吾がげんなりと。 「あっちの野盗、どうやって回収すんだよ?」 団蔵が鼻をつまみ。 「近寄れないもんなー」 虎若が苦笑して。 「しんべヱの鼻水は相変わらず協力だなー」 きり丸が呆れ半分で感心し。 「えへへへ」 しんべヱが照れて。 「薬草使わなかったから、学園に持って帰ろっかな」 乱太郎が薬草を見つめつつ。 「庄ちゃんの作戦、決まったね」 伊助が誇らしげに笑い。 「成功してよかったよ」 庄左ヱ門がほっと息をついた。 「ガキ共、お前ら何者だ!?」 完璧に身動きが取れなくなった頭が、恨めしげに言う。 しんべヱが普通に答えそうになったのを、隣のきり丸が慌てて塞いだ。 代わりに、兵太夫が答える。 「えーと、通りすがりの子供A」 「通りすがりそうだった子供B」 三治郎が悪乗りし。 「え、ぼくも言わなきゃいけないの?通りすがっちゃった子供C」 金吾もつられて言ったが、何を言っていると三人まとめて伊助に叱られた。 団蔵が、ごそごそと野盗の荷物を漁る。 「あのおばあさんが盗られたのはこれだな。 あとちらほらあるんだけど、庄左ヱ門、どうする?」 目的の物と、それ以外にも細々と見つけて、団蔵が持ち上げる。 「じゃあそれは団蔵が家に持って行ってよ。一番持ち主を見つけられそうだから」 「分かった」 団蔵は全て抱え挙げて、立ち上がった。 「で、この人たちどうするの?」 乱太郎が聞き、庄左ヱ門が唸る。 「町まで縛って連れて行きたいけど、縄ないしなあ」 きり丸も頷く。 「漫画じゃないから枠線も使えないし」 虎若がみんなを見渡しながら言う。 「大体さ、もうみんなへとへとだろ?この人たち町まで連れていくのも大変じゃないか?」 「それに早く帰んないと」 金吾もそういい、みんなでその場で唸った。 庄左ヱ門が最も山に詳しい三治郎に尋ねる。 「三治郎、今日明日の天気分かる?」 三治郎はしばらく見渡していたかと思うと、小さく頷いた。 「晴れだと思うよ」 「じゃあしんべヱの鼻水は当分取れないだろうし、毒草の効果も当分切れないかな。 よし、置いて帰ろう」 あっさりと出した結論に、何人かが唖然とした。 「いいの?」 「今から帰れば、日暮れまでには帰れるはず。 すぐに事情を話して、どうすればいいか助言を仰ごう。 あくまで最後は、ぼくたちが片付けよう」 しんべヱの問いに、庄左ヱ門が頷いて答える。 それには、他の面々も納得して頷いた。 「それなら」 「じゃあ、帰ろう。あー疲れた」 「じゃあね、野盗さん。また来るね」 「お腹空いたあ」 「夕食に間に合うかなあ」 「どうだろう」 「難しいな」 「ていうか、罠、森の中にしかけたままなんだけど」 「この人たち捕まえに来る時に、解除しに行こうよ」 「帰ったら寝よう」 「その前に風呂だよ風呂」 は組はあっという間に踵を返し、ぞろぞろとその場を去っていく。 途中から置いてけぼりにされた野盗たちは、 当然何も出来ないまま、子供達を見送るはめになった。 疲れきった中、みんなで助け合い、学園に着く頃にはやはり日が暮れかけていた。 庄左ヱ門が扉を叩く。 「一年は組、ただいま戻りました」 「庄左ヱ」 「ばっかもーんっっ!!!」 秀作の声を遮って、山田の怒声が響き渡った。 その大声が、は組の中を突き抜ける。 戸を開けてすぐさま山田が出てきた。 「お前ら、一体今何時、いや、いつだと思っておる!」 「ぼくらがおつかいに出た日の翌日の夕暮れですね」 庄左ヱ門がさらっと返したので、山田は一瞬言葉を失った。 その代わり、山田のあとから続いて出てきた土井が、全員を殴って回る。 ゴン、といういい音と、悲鳴が次々と響き渡った。 「お前達はいったい何回騒動を起こせば気が済むのだ!」 「何回でしょうねえ」 きり丸が笑い半分で言ったので、土井がもう一度殴る。 「このっ!」 「あだっ!」 「お前達がなかなか帰って来ないから、情報を集めて探してくれていた上級生もいるんだぞ! もっと反省しろ!」 「げっ先生、それほんとですか!」 土井の言葉に、団蔵が青くなる。 「ひぃぃぃ潮江先輩に怒られるぅぅぅ!!!」 「先生、お腹空いたんで入っていいですかあ」 「疲れましたし……」 「とにかく、風呂とご飯〜」 「経過は追々話しますー」 「先輩達にも後でお礼とお詫び言いに行きますから、とりあえず休ませてください〜」 疲労困憊状態の面々を見て、土井と山田は同時にため息をついた。 それから足元がおぼつかなくなり始めている者を引っ張って、戸をくぐらせた。 「まずは風呂入って泥とか落としてきなさい!それからたっぷり絞るからな!」 「「えええ〜」」 不満の声が上がるは組を、土井が睨みつけて静まらせた。 「記帳は私がしておいてやるから、ほら、行きなさい」 「先生、ありがとう〜」 山田に入門票を渡しながら、秀作はは組に声をかけた。 「言い忘れてた。お帰りなさい」 その言葉に、は組は力が抜けた声で、でもそろえて言った。 「「「ただいま帰りました〜」」」